永久不変に異変あり

※宮下さまリクエスト
※「現パロか学パロで才→♀鎌←半」
※学パロです
※そして才蔵と鎌之介が幼馴染




放課後。才蔵は人気のない廊下で鎌之介を待っていた。ほとんどの生徒が部活や自宅へと向かってしまった今、廊下にいるのは彼一人だ。才蔵も鎌之介も部活には入っていないため、毎日一緒に帰宅していた。

鎌之介は才蔵の幼馴染の少女だ。自宅も隣同士で二人が産まれる前から親同士に交流があった。産まれた時期もほぼ同じで、それからは幼小中高とずっと一緒だった。

才蔵は鎌之介のことがずっと昔から好きだった。一番身近にいた女子だということもあるが、何よりも鎌之介の明るさに惹かれていた。どんな時でも元気で、明るくて。口は悪いけれど、むしろそこも鎌之介の魅力の一つで、とにかく才蔵は鎌之介にベタ惚れだった。

だが告白をしたことはない。下手なことをして今のこの関係を崩したくないという、臆病な気持ちが才蔵の足を止める。今の関係より先に、進ませようとしてくれないのだ。

このままではいけないとは分かっているのだが、才蔵は未だに何の行動も起こせずにいた。


「さいぞー。悪ぃ、待った?」
「いや。大して待ってねーよ」


授業中に爆睡していたことが担任にバレ、職員室へと呼びだされていた鎌之介は朱髪を揺らしながら才蔵の傍へとやって来た。学校指定のブレザーを着崩しており、下に着込んだベージュ色のセーターがよく見える。職員室を出た瞬間に着崩したに違いない。

上はきっちり着込んでいるくせに下はミニスカで寒くないのかと不思議に思いながら、才蔵は「じゃあ帰るか」と鞄を肩にかけ直したところで、二人の傍に一人の人物が歩み寄って来た。


「何の話をしてるんです?」
「げっ………」


聞き覚えのある声に才蔵が振り向くと、そこには予想通りの人物がニコニコと楽しそうに立っていた。


「あ、三つ編み!」
「半蔵先生、デショ? ……もうとっくに下校時間は過ぎてるはずデスけど?」


鎌之介に三つ編みと呼ばれた男はちらりと教室に取り付けられた時計に視線を遣った。長い三つ編みを肩に垂らし、白衣を羽織った男の名前は服部半蔵。この学校の保険医だ。入学当初からやたらと鎌之介につきまとう、才蔵にとってこの世で最も邪魔な存在であった。


「もう帰る。お前には関係ねーよ」
「おや。教師が生徒の心配をするのは当たり前デショ?」
「心配だぁ? お前は鎌之介にちょっかいかけたいだけだろーが!」


敵意を隠そうともせず睨みつけてくる才蔵に、半蔵は口元に笑みを湛えたまま目を細める。完全に今の状況を楽しんでいる、むかつく顔だった。


「人間は好きな子には構いたい生き物デショ。自然現象デスよ、自然現象」
「な、お前、」


鎌之介がいるこの場所であっさりと「好き」だと言ってみせる半蔵に才蔵は慌てる。自分は未だに一度も好きだと言えたことがないのに、それを簡単に言ってしまう彼に焦りを感じたのだ。

しかし当の本人である鎌之介は二人をやりとりをきょとんとした顔で眺めていた。鎌之介の鈍感さは長年の付き合いのお陰でよく知っている。きっと話題に上っている人物が自分のことだとは想像もしていないのだろう。もしくは、二人の会話には興味がないのかもしれない。


「なぁ才蔵。帰んないの?」
「あ……悪ぃ。じゃあ帰るか」


このまま半蔵と一緒にいるといつか血管が切れる。才蔵は飄々と笑う半蔵を睨みつけてから歩き出す。鎌之介もその後をついていこうと足を動かした。ちょうどその時、ぐいっと身体が進行方向とは反対に引っ張られる。驚いた鎌之介の手から鞄が滑り落ちる。その音に振り向いた才蔵は、目の前に飛び込んできた光景にぎょっと目を見開いた。


「鎌之介。才蔵なんかより、俺と帰りまショウ?」


鎌之介を背後から抱き締めるようにして半蔵が微笑んでいた。耳元でそっと囁かれた鎌之介は微かな吐息に「ん……っ」と小さく身体を震わせる。衝撃的な光景に、才蔵は慌てて二人に駆け寄った。


「お、おおおお、お前えぇぇぇぇ! な、何やってんだ! 鎌之介から手を離せ!」
「えー。何でデスか。別に嫌がってないでショウ?」


確かに鎌之介は大人しく半蔵の腕の中に納まっている。ぱちぱちと目を瞬き、突然叫び出した才蔵を見つめていた。


「それでも離せ! 鎌之介は今から俺と帰るんだよ! 邪魔すんな!」
「へぇ。産まれた時から今までずーっと傍にいた幼馴染のくせに未だに告白の一つも出来ないヘタレ君が随分偉そうデスねー」
「なっ、それは今関係ねーだろ!」


図星を言われ、才蔵の顔が赤く染まる。だが、ここで引く気はない。鎌之介を好きになったのは自分の方が先なのだ。それに半蔵よりも自分の方が鎌之介との心の距離は近い。長年のこの想いを、こんな変態に打ち砕かれることなど許せない。

才蔵は半蔵の腕の中から鎌之介を奪い返し、抱き締める。鎌之介の腰と後頭部に回した腕にぎゅっと力を込めて、ぎっと半蔵を睨みつけた。


「俺は! 物心ついた時から鎌之介のことが好きだったんだ! 誰がテメェなんかに渡すかよ!!」


放課後の、人気のない廊下に才蔵の声が響き渡る。半蔵は高らかな告白に少しだけ目を細め、嘆息する。


「こんな公共の場でよくもまぁ、そんな派手な告白ができマスね。マジ尊敬」
「………あ」


つい勢いで「好き」と言ってしまった。鎌之介がいるのに、大声で。しかもしっかりと抱き締めながら。才蔵は恐る恐る腕の中を見る。すると、そこには顔を真っ赤にした鎌之介が羞恥からか瞳を潤ませていた。


「あ、いや、今のは、言葉のあやというか……。………鎌之介?」


ぶるぶると震える鎌之介に何と言葉を掛けたらいいのかと才蔵が迷っていると、顎を思い切り上に押し上げられた。首あたりが嫌な音を上げたのを、才蔵は確かに聞いた。首に走った痛みに才蔵が思わず腕の力を緩めた時、鎌之介はぱっと顎から手を離してそこから逃げ出した。


「才蔵のばか! 変態! すけべー!」


これ以上ないというほど顔を赤くした鎌之介は去り際にそう言い残し、半蔵の傍を通り過ぎて消えて行った。夕日に照らされる廊下に立っているのは唖然とする才蔵と「あーあ」と肩を竦める半蔵だけが取り残される。


「変態デスって。俺と同じデスね」
「一緒にすんな……っ!」
「すけべも追加されてましたもんね。確かに同じだと俺に失礼デス」
「自分で言ったんだろーが!」


勢いでしてしまった告白を後悔しているのか、才蔵の突っ込みにはキレがない。はぁ、と呆れたように溜息を吐いた半蔵は足元に落ちていた鎌之介の鞄を拾い上げる。そしてそれを才蔵の方へと放り投げた。「うお……っ!?」両手で何とか受け止めた才蔵は何すんだと恋のライバルを睨みつける。半蔵はすっと人差し指を才蔵に突き付けて、にこりと完璧な笑顔を浮かべてみせた。


「その鞄、あの子の家の鍵も入ってるんじゃないデスか? 早く届けてあげないと、家に入れなくて風邪引いちゃうかもしれませんよ?」
「………!」


半蔵の言いたいことを理解した才蔵は、一瞬躊躇ってから鎌之介の後を追った。半蔵が才蔵の消えた方向に視線を遣った時、既に彼の姿は何処にもなかった。


「いやぁ、青春デスねぇ」


誰もいない廊下の先を見つめながら、一人取り残された半蔵は白衣のポケットに両手を突っ込む。半蔵が好きだと言っても、背後から抱き締めても鎌之介は動揺しなかったのに。才蔵が好きだと言い、正面から抱き締めるとその場から逃げ出す程に動揺した。その時点で、才蔵の方が半蔵より少し先を進んでいることが分かった。


「ま、俺も諦めるつもりはありませんケド」


こんなにも人を好きになったのは久しぶりなのだ。簡単に諦めるつもりはないし、少し先を進まれたからといって追いつけない訳ではない。すぐに追いついて、その先を自分が行く。そして、鎌之介を手に入れる。


「負けませんよ? ………才蔵」


今頃必死で幼馴染を追い掛けているであろう生徒の名前を呟いて、半蔵は無人の廊下を歩きだした。


120421

宮下さま、リクエスト有難うございました!



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