※彪さまリクエスト
※「才鎌/学パロで放課後にイチャイチャ」
放課後の教室は案外人気がない。帰宅部の生徒はすぐに帰るし、部活がある生徒は部室の方に行くからだ。
才蔵のいるクラスも例外ではなく、清掃を終えた生徒たちがいなくなるといつも騒がしい教室には似つかわしくない静寂が訪れる。
窓際にある自分の席に座って頬杖をついていた才蔵は、前方にある教室のドアが開いた音に顔を上げる。ドアの隙間から見えた朱髪に、ついドキリとしてしまう。見慣れているはずなのに、胸が高鳴るのを抑えられなかった。
「さーいぞー! 待った?」
「いや、全然」
静寂を破り教室に入って来たのは隣のクラスの鎌之介だった。肩に鞄を引っ掛けた鎌之介は才蔵の前の席に腰を下ろした。
机の上に鞄を放り投げ、椅子の背に両腕を置いて嬉しそうに笑う恋人に才蔵も同じように微笑み返す。
同じクラスではない二人が一緒に過ごせる時間は極端に少ない。共に居られる放課後は二人が待ち望んでいた時間なのだ。
「どーする? 帰んの?」
「いや……もう少しここに居ようぜ」
そう提案すれば、鎌之介は「おー、いいぜ」と足をぶらぶらと揺らしながら応える。
二人は普段から才蔵の教室で待ち合わせをして一緒に帰る。だが、たまにこうして教室に残って喋ったりすることがある。
それを決めるのは基本的に才蔵だ。少しでも鎌之介と一緒にいたいから、教室に留まって会話を交わす。一体どこの恋する乙女だと自分自身に突っ込みたくなる。何より性質が悪いのは、そんな風に思う自分が嫌ではないということだ。
「でさ、緑の奴がにょろを持ってったんだよ! 俺が撫でてたのに!」
「お前ほんと雨春好きだな……」
鎌之介は同じクラスの佐助について良く話す。才蔵はあまり話したことはないのだが、教室移動の時に鎌之介の隣にいることが多いので自然と顔を覚えた。ちなみに緑というのはあだ名で、佐助が緑色が好きだからという理由で鎌之介が勝手につけたらしい。
佐助はいつも肩に雨春という名のイタチを乗せていて、鎌之介はそのイタチ―――あだ名はにょろ―――に夢中らしい。佐助とも仲が良いようで、才蔵といない時の鎌之介は大体佐助と共にいた。
情けないとは思うが、正直嫉妬心が湧く。鎌之介と同じクラスだということもそうだが、ずっと傍に居られるというのが羨ましすぎる。恋人である自分は休み時間と放課後しか会えないのに。
こうして鎌之介の話を聞くのは楽しいのだが、佐助の名前が出ると少しムッとしてしまう。
余裕がないと言われてしまえばそれまでだが、そんな小さなことにまで嫉妬を覚えてしまうほど才蔵は鎌之介を愛していた。
「あ、緑!」
ふと窓の外に視線を遣った鎌之介が目を輝かせる。窓際にある才蔵の席からは学校のグラウンドがほぼ見渡せる。
部活をしている生徒達に混じって制服を着た佐助がいた。生徒会の仕事をしているらしく、彼の周りには後輩らしき生徒が多数いた。その肩には当然のように白いイタチがちょこんと乗っている。
「にょろもいる! 呼んだら気付くかなー、緑の奴」
今にも窓を開け放って佐助の名を呼び始めそうな鎌之介の様子に才蔵は収まりかけていた嫉妬心が再び湧き上がるのを感じる。
目の前に恋人がいるのに、他の奴ばかりを気にしているのがつまらない。せっかく二人きりになれたのに、鎌之介はこっちを見ていない。
今にも窓を開け放って佐助を呼びそうな鎌之介の手を掴む。「才蔵……?」驚いたように目を瞬いた鎌之介は、やっと才蔵の方を向いた。
開いている方の手でカーテンを引きながら、才蔵は掴んだ手を引き寄せて鎌之介にキスをした。
触れるだけの、簡単なキス。幼稚で単純で、けれども何よりも好意を伝えられる確かなキス。カーテンが引かれ、誰からも目撃されることのないそれは、とても甘く温かかった。
ゆっくりと離れていく才蔵を鎌之介は丸くした瞳で見つめる。突然のキスに驚いたのだろう。しかも学校ではあまりこういう行為をしたがらない才蔵からとあって、驚きは二倍のようだ。
「才蔵……?」
「俺以外見んな」
「は?」
物理的に無理なことをのたまう才蔵に鎌之介はポカンとする。鎌之介の手を掴んだままの才蔵は、カーテンから離した手で目の前の朱髪に優しく触れた。
「お前は俺だけ見てればいいんだよ」
まっすぐに見つめられてそう告げられた鎌之介は、ようやく彼の意図を察する。つまりは、嫉妬。
才蔵の行動の意味を理解した途端、鎌之介は頬が熱くなるのを感じた。自分は愛されているのだと、分かってしまったから。
赤くなった顔を見られたくなくて俯くと、しなやかな指先で朱髪を耳に掛けられる。すると、真っ赤に染まった顔が才蔵の眼前に晒された。
「才蔵の、ばか……」
赤くなった頬に触れる才蔵の手に自分の手を重ねながら、鎌之介は小さく呟いた。
「俺は前から才蔵しか見てねぇよ………」
鎌之介の呟きを聞いた瞬間、才蔵は一瞬驚いたように目を見開いた後、小さく微笑した。
才蔵は馬鹿だ。自分は入学式の時から才蔵のことしか見ていないのに。才蔵しか、好きじゃないのに。でも、彼の気持ちがじわじわと胸に染みる。自分が一番好きな人が、自分を愛してくれている。こんなにも幸せなことが、他にあるだろうか。
嬉しそうに微笑む才蔵と見つめ合う。閉じられたカーテンが緩やかな風に煽られ微かに揺れる。それさえも二人の視界には映らない。二人が見ているのは、お互いだけ。
どちらからともなく近付いて、またキスをする。触れるだけのキスではない、恋人同士の深いキス。
互いの熱を共有しながら、才蔵と鎌之介は放課後の一時を過ごした。いつもとは少し違う日常を、甘く感じながら。
120405
彪さま、リクエスト有難うございました!
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