それは甘い日常

※命さまリクエスト
※「ライ姫で日常甘々」




「見つけましたよ、姫」


色とりどりの草花が賑やかに咲いている広大な庭園の片隅に隠れていた赤髪の少女は聞き慣れた声に小さく溜息を吐いた。

晩餐会に出席したくなくて、いつものように隠れていた。普段は城内に隠れるのだが、今日は庭に隠れた。忠実な執事は簡単に自分を見つけてしまうから。庭なら広いしそう簡単に見つからないと思ったのだが、あっさりと居場所がバレてしまった。

姫と呼ばれた少女は葉のついたドレスを軽くはたく。少女に仕える忠実な執事―――ライズは赤髪に絡んでいた葉を指先で丁寧に取り除いた。

髪にまで葉がついていたことに少しの恥ずかしさを感じた少女は、悠々と微笑みを浮かべるライズをムッと睨みつけた。


「どうして貴方はこんなに早く私を見つけられるの?」
「そうですね……愛の力でしょうか」


サラリと何でもないように言われて少女の顔は真っ赤に染まる。


「か、からかわないで!」
「おや。からかってなどいませんよ。私はいつでも本気です」


スッと手のひらを掬われて軽く唇を落とされる。忠誠のキス。少女は更に顔が赤くなるのを感じた。

ライズはいつも余裕だ。何でもないようにこういうことをやってのける。
その些細な行動に、どれだけ心を揺り動かされているのか彼は理解しているのだろうか。

いや、きっと気付いていないのだろう。自分が勝手にライズのことを意識してしまっているのだ。ライズにとって甘言やキスは大したものではないに違いない。

自分だけがライズに振り回されているような気がして、少女は反抗心が湧き上がるのを感じた。


「さあ、姫。晩餐会の準備を」
「嫌よ! 私は絶対に行かないわ。死んでも行かない!」
「姫………」


いつもならすぐに「仕方ないわね」と素直に晩餐会の準備をする少女が、今日は首を縦に振らなかった。腕を組んでそっぽを向く少女を前に、ライズは困ったように眉を下げた。

少女が晩餐会に行かなければ、ライズは上司に怒られてしまうだろう。それを考えると胸が痛むが、彼の言いなりになるのは癪だった。私だってライズを振り回してみたい。その想いが、少女の首を横に振らせ続けた。

しばらくの間、庭園に沈黙が落ちる。時間が経つごとにライズへの罪悪感が募るのだが、今更行くというのはプライドが許さない。

結果、折れたのはライズの方だった。


「分かりました。今日の晩餐会は欠席致しましょう」
「ほんと?」


まさか本当に行かないとは思っていなかった少女はぱちぱちと大きな目を瞬く。するとライズは「ええ、本当です」と緩く笑ってみせた。

やった。少女は歓喜がじわじわと湧いてくるのを感じた。あのライズを自分が振り回している。それが嬉しくて、組んでいた腕を解いて少女はライズに背を向けた。


「本当に晩餐会には行かないからね」
「はい。ですが、その代わり―――」


ライズの手が、少女の腕を掴む。背後から抱きすくめられるような形で、少女はライズに捕まった。ライズの吐息が耳元にかかり、思わず変な声が洩れてしまう。
背中だけでなく、全身で彼の温もりを感じる。あまりに近すぎる距離に、少女の心臓はドキドキと激しく脈動する。白い肌は真っ赤になり、恥ずかしさのせいか瞳が微かに潤む。

そんな少女の反応を楽しんでいるかのように、ライズは柔らかく口角を上げた。


「その代わり……今日一日私のものになって下さい、姫」
「……え……」


驚いてライズの顔を見上げれば、唇に柔らかい感触が伝わる。ほんの一瞬の出来事だった。一体何が起こったのかを把握しようと目を白黒させている少女の唇に触れた口を動かして、ライズは耳元で小さく囁いた。


「貴方を、私に下さい」


そこまで言われてやっと全てを理解した少女はカッと身体が熱くなるのを感じた。先程唇に触れたのは―――…。


「か、かかかからかわないでって、い、いい言ったでしょう!?」


激しく動揺する少女の姿にクスリと笑みが零れる。何と可愛らしい主なのだろうか。


「先程も申したでしょう? 私はいつでも本気です」
「―――っ!」


再度囁けば、少女は観念したようにライズの胸に背中を預ける。朱髪の間から覗く赤く染まった頬に指先を滑らせて、ライズは愛おしい存在を優しく抱き締めた。

それは何でもないような、けれどもとても大切な、二人の日常だった。


120403
命さま、リクエスト有難うございました!



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