平和の定義

※たけ仔さまリクエスト
※「鎌総受けで鎌之介をみんなでとりあいするお話」
※若干才蔵が酷いです




ここ最近、鎌之介の周りにはたくさんの人間が集まっていた。幸村に仕える勇士たちのことだ。皆こぞって鎌之介を構いたがる。可愛くて、素直で、口は悪いけれどどこか憎めない愛嬌のある鎌之介に勇士たちは骨抜き状態だった。

そんなある日。鎌之介は今日も勇士たちに囲まれていた。


「ねぇ鎌之介ー、髪の毛いじらせてよー!」
「あら駄目よ伊佐那海。鎌之介はこれから私の着せ替え人形になるんだから」
「おい待てアナ。鎌之介は俺様と出掛けんだよ。いくらお前でも鎌之介は譲らねぇぜ?」
「甚八、いい加減にして下さい。貴方と鎌之介が二人きりなんて私が許しませんよ」
「六郎の意見には某も同意する」
「鎌之介、我と遊ぶ。これ、決定事項!」
「だぁぁぁうるせぇ!」


ぎゃいぎゃいと騒がしい勇士たちに遂に鎌之介が切れた。その怒鳴り声に鎌之介を取り囲んでいた勇士たちがぴたりと動きを止める。
頭やら腰やら腹やらを触っている誰かの手を振り払った鎌之介は皆から距離を取ってキッと睨み付けた。


「お前らしつこいぞ! 俺は才蔵んとこに行きてーんだよ!」
「また才蔵ー? 鎌之介ってば才蔵のことばっかり!」
「本当、妬けちゃうわ」


頬を膨らませる伊佐那海の隣でアナが嘆息する。
鎌之介はいつも才蔵を追い求めて皆の手からすり抜けて行ってしまう。当の才蔵は鎌之介を適当にあしらって相手にもしないのに。
一途なのは良いのだが、その相手が才蔵だというところが気に食わない。何故自分たちでは駄目なのか。そればかり考えてしまう。


「忍の手練手管には俺様も興味あるけどな」
「甚八、お主またそのような……」
「才蔵なんかよりも私たちと共にいましょう、鎌之介」
「わぁ六郎さん、案外言う〜!」


せっかく距離を取ったのにまた勇士たちに囲まれる。どうやら皆、才蔵に鎌之介をとられてしまうのが嫌らしい。
鎌之介はどうして勇士たちが自分に構ってくるのかが分からないでいた。才蔵は全く構ってくれないが、伊佐那海を始めとする勇士たちは毎日と言っていいほど構ってくる。それが理解出来なかった。


「………お前らまたやってんのかよ」
「げっ」
「! 才蔵!」


皆が集まっている部屋に呆れ顔で入って来たのは才蔵だった。伊佐那海たちは途端に顔を歪める。鎌之介は嬉しそうに顔を輝かせた。


「ほんっと毎日毎日飽きねーんだな」
「才蔵には関係ないでしょー!」
「そうですよ。才蔵、どこかに行って下さい」


清海と弁丸を除く勇士たちの中で唯一鎌之介に構わないのが才蔵だった。毎日殺し合いのお誘いをされるのが余程嫌なのか鎌之介を敬遠している。
他の勇士たちにとって毎日鎌之介に追い掛けてもらえるなんて羨ましくて仕方のない状況なのだが、才蔵に限ってはそうではないらしい。今も伊佐那海たちの行動が信じられないとばかりに眉間に皺を寄せている。


「才蔵! ヤろうぜ!」
「はぁ? 面倒くせー。断る。佐助とかいんだろ」
「俺は才蔵がいいの!」


目の前で騒ぐ鎌之介を見下ろして、才蔵は深い溜息を吐く。片手で頭を乱雑に掻き、心底面倒臭そうに口を開いた。


「うぜーなぁ、もう。俺はお前と違って暇じゃねぇんだよ」
「さいぞ………?」
「分かったらどっか行けよ」


どこか苛立っている才蔵の言い草に、鎌之介の背後にいた勇士たちはむっとする。いくらなんでも冷たすぎる言葉ではないか。

伊佐那海が「ちょっと才蔵、いい加減に……!」と怒り出そうとした時、才蔵の目が大きく見開かれた。


「お、おい、鎌之介……!? な、何泣いてんだよ!?」


鎌之介は泣いていた。翡翠の瞳からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちている。鎌之介本人も言われるまで気付いていなかったようで驚いたように指先で頬に触れる。微かに濡れた指先を見て、今度は小さく嗚咽が洩れた。


「う……っ、く、」
「ば、ばかっ、泣くなよ! お、俺が悪かったから……!」
「才蔵………」
「鎌之介を泣かすなんてサイッテー……」
「即死ね、才蔵」


急に泣き出した鎌之介に才蔵は激しく狼狽する。それを見た六郎や伊佐那海たちは冷たい目で才蔵を睨み付けた。

才蔵はあわあわと情けなく手を動かす。勇士たちの視線も痛いが、何より鎌之介を泣かせてしまったということに胸が痛む。

泣かせるつもりなんてなかった。ただ、勇士たちに囲まれて何だかんだで楽しそうにしている鎌之介を見て苛立ちを感じたのだ。

いつもは自分のところに来るのに、今日は来なかったから。伊佐那海たちと一緒にいたから。自分以外の人間と一緒にいる鎌之介を見ると、何故だか胸がざわついてもやもやとした気持ちになるのだ。
自分のその気持ちの正体が分からなくて、苛立って。つい鎌之介にきつく当たった。結果、泣かせてしまった。

嗚咽を洩らしながら手の甲で涙を拭う鎌之介の頬に、才蔵は手を伸ばす。目元を擦る鎌之介の腕を片手で掴んで、空いている方の手で優しく涙を拭ってやる。驚いたように目を丸くする鎌之介に、才蔵は戸惑いながらゆっくりと自分の想いを告げた。


「鎌之介、悪かった。何かよく分かんねーけど、お前が他の奴らと一緒にいるとムカついて……。お前に酷いこと言っちまった。本当に、悪い」


情けなく眉を下げる才蔵を鎌之介は涙に濡れた瞳で見つめる。


「才蔵、俺のこと、嫌いになった……?」
「んな訳ねぇだろ! 俺は、お前が………す、好き、だ」


それは誤魔化しの言葉などではなく本心からの言葉だった。面と向かって好きと口にするのはかなり照れたが、いま伝えなければいけない気がした。

鎌之介は数回目を瞬いた後、ふわりと笑った。


「よかった………」


その笑顔を見た瞬間、才蔵の心臓がドクンと跳ねた。身体中の血液が沸騰しているかのように熱い。決して抜けることの出来ない底無し沼に嵌ったかのように身動きが取れなくなってしまった。

顔を赤くして鎌之介に見惚れている才蔵に、伊佐那海たちは諦めたように嘆息した。


「あーあ。才蔵、完全に惚れちゃったみたいだね」
「いつかはこうなると想像はしていましたが……ちっ」
「才蔵は強敵だわ」
「俺様的にはその方が燃えるねぇ」
「先が思いやられるな……」
「我、負けない」


今まで完全に外野を決め込んでいたのに突然参加してきた奴に負けたくない。勇士たちは素早く鎌之介の元に駆け寄った。


「鎌之介、才蔵なんて放っておいてあっちで遊ぼ!」
「ねぇ、一度だけでいいから着物着てちょうだい」
「美味しいお茶が手には入ったので煎れて差し上げますよ」
「俺様といて損はないぜ?」
「菓子もあるぞ」
「雨春、いる」


あっという間にまた囲まれてしまった鎌之介の腕を才蔵が引く。


「才蔵?」
「俺も混ぜろよ」


鎌之介の華奢な身体を腕の中に収めて不敵に笑う才蔵に、勇士たちは負けられないとばかりに更に誘い文句を言い連ねる。

わいわいと騒がしい部屋をこっそりと覗いていた幸村はニッと楽しそうに笑う。


「平和だのう」


幸村の背後から中の様子を窺っていた清海と弁丸は、顔を見合わせて呆れたように首を横に振った。


「あれのどこが平和なのだろうか……」
「まぁ、ある意味平和なのかもね………」


何かを悟ったような弁丸の呟きは、鎌之介を取り合う声に掻き消された。


120326

たけ仔さま、リクエスト有難うございました!



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