君がすべて教えてくれた

※優さまリクエスト
※「才♀鎌/妊娠ネタ続き/子供が産まれてからの話」
※授乳シーンなどがありますので、苦手な方はご注意下さい




物見をしていた才蔵はその任を佐助に引き渡し、鎌之介の部屋へと向かっていた。

鎌之介と才蔵の子供が産まれて数カ月が経ち、やっと上田も以前のような穏やかさを取り戻した。子供が産まれた当時など、幸村が連日宴を開くわ、いつもはそれを制する六郎まで喜んで参加するわ、勇士たちは悪のりしてどんちゃん騒ぐわ、とにかく騒がしかった。

数週間前のことを思い出して才蔵は苦い顔をする。次々に子供を抱かせてくれ、触らせてくれと鎌之介に群がる勇士たちを才蔵がことごとく追い返したことは記憶に新しい。最近ではましになったが、少し前など鎌之介の傍には常に勇士の誰かが居座っていた。

自分のことのように喜んでいた勇士たちもようやく父親である才蔵に気を遣うようになり、彼に宛てられた任務を代わりに引き受けたりしてくれた。それには素直に感謝する。


「鎌之介、いるか?」
「おー」


辿り着いた鎌之介の部屋の襖にそう声を掛ければ、短く返事が返って来る。他の勇士たちは一言断ってから部屋に入るが、父親である才蔵がわざわざ断りを入れるのも変だ。そう思い、黙って襖を開ける。

鎌之介は部屋の中央にいた。周囲に勇士たちの姿は見えない。皆仕事に戻ったのだろう。
中に入り襖を閉めた才蔵は、赤ん坊を抱いている鎌之介を見て「あ…悪い」と反射的に謝っていた。不思議そうな顔をする鎌之介から視線を逸らし、指先で頬を掻く。


「いやその、あー……」
「? ……ああ、何だ。ただ乳やってるだけだろ、いい加減慣れろよ」
「ちっ…! お前な、もう少し言い方ってもんがあるだろ……!」


子供を産んで母性本能とやらが芽生えたのか、鎌之介は以前よりぐっと女らしくなった。動作一つにしてみても、妊娠する前より柔らかいものとなっていた。
しかし言葉遣いだけは直らない。特別直さなくてもいいとは思うが、こうズバッと言われてしまうと若干の戸惑いを覚えてしまう。そんな才蔵を見て、鎌之介は小さく笑った。

鎌之介は赤ん坊に授乳していた。幸村がお祝いにと贈った着物の前を軽く肌蹴させ、赤ん坊を抱いている。落ち着きを取り戻した才蔵は、鎌之介の正面に腰を下ろす。そしてその様子をじっと見つめた。

女性というのはすごい。ここ最近の才蔵はそればかり考えていた。鎌之介を見ていればよく分かる。子供を産んだ鎌之介には以前にはない美しさがあった。どこか儚く、けれども強かさを感じる美しさ。言葉で言い表すのは難しいのだが、確かに鎌之介は変わった。子供を産むと今までにない強さを得る女性は、本当に尊敬する。

綺麗だ。ほぅと感嘆の溜息を吐く。鎌之介の母親としての美しさに、目を奪われる。とても神秘的な光景のように才蔵の瞳には映った。
そんな才蔵の視線がくすぐったいのか、鎌之介は「あんまりじろじろ見んなよ」と怒るが、その表情はどこか嬉しそうだった。

授乳が終わり、着物の乱れを直した鎌之介から赤ん坊を受け取る。体重が増えてきたのか、少し重い。これが命の重さなのだと思うと、込み上げてくるものがあった。

今まで人の命しか奪ってこなかったこの腕で新たな命を抱いているということに初めは戸惑いを覚えたが、幸村や勇士たちが本当に嬉しそうにしているのを見て、その戸惑いは歓喜へと変わっていった。

人殺しの自分でも、新たな命を抱く資格があるのだと、そう思うと、才蔵はどうしようもなく泣きたくなった。

自分がこんな思いを抱けたのは、全て鎌之介のお陰だ。鎌之介がいてくれたからこそ、才蔵を愛してくれたからこそ、今こうして父親としての幸福を味わえている。鎌之介には一生頭が上がらないだろう。


「どうだ才蔵、可愛いか?」
「おお。手、ちっせぇ……」


手も足も身体も小さい。柔らかい頬を指の腹で撫でれば、赤ん坊が無邪気に笑った。


「俺より可愛い?」
「はぁ?」


畳に両手をついて才蔵の腕を覗きこんでいる鎌之介があまりにもらしくないことを言うものだから驚いた。どうせ勇士の誰かが余計なことを吹き込んだのだろうと尋ねれば、「よく分かったな」と感心された。


「アナがそう訊いてみろって」
「あいつか………ちっ、余計なことを」
「それで才蔵、答えは?」


小首を傾げて意地悪く笑う鎌之介を片手で引き寄せ、額に唇を落とす。くすぐったそうに笑う鎌之介に、才蔵は口元を緩ませて朱髪を優しく梳いた。


「そんなの比べられる訳ねーだろ」


ずるい!と頬を膨らませる鎌之介の頭をぽんぽんと軽く撫でて、才蔵は赤ん坊を抱き直す。鎌之介と子供、どちらが可愛いかなど決められるはずがない。そもそも比べるようなものでもない。

腕の中で静かに眠る子供に、新たに育まれた命に、才蔵は心の中だけでありがとう、と告げた。父親にしてくれてありがとう、鎌之介を母親にしてくれてありがとう、産まれてきてくれてありがとう、命の大切さをおしえてくれてありがとう。色んな意味が込められたその言葉は、きっと子供にも届いたはずだ。

才蔵の腕の中で、赤ん坊が小さく、笑った。


120324

優さま、リクエスト有難うございました!



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