愛の証明

※匿名さまリクエスト
※「才♀鎌で勇士の誰かが鎌之介とラッキースケベに合ったところを才蔵が助ける」




鎌之介は才蔵を探していた。今朝から探しているのだが、見つからないのだ。なかなか姿が見えない才蔵に鎌之介はだんだんと苛立ってきた。


「あー! 何でいねーんだよ、才蔵の奴!」


せっかく殺し合おうとしたのに。また物見か何かに行っているのだろうか。鎌之介は足音高く廊下を歩く。
つまらない。酷く退屈だった。鎌之介を満たしてくれるのは才蔵を置いて他にはいない。それなのに才蔵は全く構ってくれない。やれ物見だの、やれ伊佐那海がだの、うんざりだ。
結局才蔵にとって一番大切な者は自分ではないのだ。そう考えると何だか胸が痛くなって、その痛みを振り払うかのように廊下をひた走る。

俯いて走りながら廊下の角を曲がった時、誰かに真っ正面からぶつかった。


「みゃっ!」
「うおっ!?」


ぶつかった衝撃でその場に背中から倒れる。ぶつかった相手も突然の衝撃に体勢を崩したのか、倒れた鎌之介の上に重なるようにして廊下に伏した。


「いってぇ〜……」
「痛えなぁ、誰だよ。………おっ、鎌之介?」
「? 海賊のおっさん……?」


鎌之介がぶつかった相手は甚八だった。どうせアナでも探していたのだろう。
甚八は若干嬉しそうに鎌之介を見下ろしている。いつものニヤニヤとした嫌な感じの笑みだ。

鎌之介は上にのし掛かってくる甚八を押しのけようとして、胸元に違和感を覚える。何だと視線を向ければ甚八の手が鎌之介の胸をがっちりと掴んでいた。


「ひゃっ……!?」
「お? おー、ちっさいなぁ、お前」


狙ったのではなく偶然そこに手がいったのだろう。甚八も一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにニヤリと笑ってみせた。そして鎌之介の胸を遠慮なく揉み始めた。


「ばか……っ、ひゃうっ、離せ……!」
「おー柔らけー」
「やだ……、もう、いやぁ……!」


目の前の男を蹴り飛ばそうとするが、胸を揉まれて力が身体から抜ける。この男、調子に乗りすぎだ。このままではどこかの部屋にでも連れ込まれてしまうかもしれない。
何とか退けようと再度足を振り上げた時、甚八の身体が視界から消えた。


「―――!?」
「うおっ!?」


甚八の代わりに鎌之介の視界に入ったのは漆黒の影。


「おいこら海賊のオッサン! 俺の鎌之介に手ぇ出してんじゃねぇよ!」


鎌之介が探し求めていた人物―――才蔵だった。


才蔵に吹っ飛ばされたらしい甚八は不機嫌そうに立ち上がる。乱れた髪をガシガシと掻き毟り、呆れたように才蔵を見た。


「おいおい、俺はただ鎌之介にぶつかっただけだぞ」
「あれのどこがぶつかっただけだっつーんだよ!」


確かに才蔵の言うとおり、先程の光景を見れば誰でも鎌之介が甚八に襲われているように思えただろう。偶然という言葉で片付けるには無理がある。しかし本当に偶然だったのだ。

甚八はそれを説明しようとしたのだが、怒り狂っているらしい才蔵を見て瞬間的に説明を諦める。あの状態の才蔵には何を言っても無駄だろう。小さく溜息を吐いた甚八は才蔵の背後にいる鎌之介に視線を遣る。鎌之介は驚いたように目を瞬いていた。


「おーい、鎌之介。詳しいことはお前の方から説明しといてくれよ」
「へ……?」
「そんじゃあ、まぁ、ごちそーさん」


顔の前で軽く手刀を切って甚八はさっさとその場を去っていく。才蔵が引き留めようとした時には彼の姿はどこにもなかった。

甚八を追い掛けることを諦めた才蔵は廊下に座り込んでいる鎌之介を振り返る。鎌之介は突然現れた才蔵を丸くした目で見つめていた。


「鎌之介! 大丈夫か!?」
「才蔵……?」


あれだけ探しても見つからなかったのに。あっさりと現れた才蔵に驚いていると両肩を優しく掴まれた。


「はぁ、お前なぁ、もっと気をつけろよ。前にもあったろ、こんなこと」


才蔵にそう言われて思い出す。確か以前にも酔った勢いで幸村に押し倒されたことがある。あの場には六郎がいたので大事には至らなかったが、才蔵は酷くご立腹だった。


「ったく、毎回毎回俺がお前を助けられるわけじゃねーんだぞ?」
「なっ……!」


まるで俺がいなければ何も出来ないのだと言われているようでカチンときた鎌之介は才蔵の手を振り払う。自分はただ守られるだけの女ではない。ちゃんと才蔵の隣に立って戦えるのだ。それなのに、才蔵は何も分かっていない。

だが。

才蔵の背中が見えた時、ひどく安心した。別に甚八に恐怖を感じていた訳ではないが、自分がどこにいても才蔵は駆けつけてくれるのだと思うと身体の奥がじわりと熱くなった。


「鎌之介?」
「俺は才蔵に守ってもらわなくても大丈夫だ! でも………」


それでも。才蔵が絶対に自分のところに来てくれることが、嬉しかった。
だから。鎌之介は才蔵から視線を逸らし俯き加減に口を開いた。


「………ありがとう」


恥ずかしい。恥ずかしすぎて今にも溶け出してしまいそうだ。羞恥心から俯く鎌之介の頭にぽん、と優しく手のひらが乗る。赤面しているのを承知で顔を上げれば、才蔵が鎌之介の頭を撫でていた。


「お前も素直じゃねぇな」
「う、うるさいっ」


笑いながら言われて更に顔が赤くなる。すると才蔵は鎌之介と視線を合わせるようにしてその場にしゃがみ込んだ。


「心配ぐらいさせろ、ばか。」


そう言ってぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられる。その手の暖かさに、鎌之介は安堵する。
才蔵は自分のことが一番大切な訳ではないのだと思っていた。だが才蔵は来てくれた。助けてくれた。息を切らして、必死な顔で。

才蔵の気持ちが少しだけ分かって、甚八にはちょっとだけ感謝してもいいかなと鎌之介は小さく微笑んだ。

後日。鎌之介が許しても才蔵が許すはずもなく。上田城内で才蔵と甚八による派手な喧嘩が行われたことは、勇士しか知らない。


120321


匿名さま、リクエスト有難うございました!



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