君には勝てない

※ひなさまリクエスト
※「才蔵と佐助が鎌之介を取り合うお話」



才蔵と佐助は互いのことを好敵手だと思っている。伊賀と甲賀という立ち位置がそうさせているのかも知れないが、それ以外でも彼らが対立する理由があった。色恋に関してである。

才蔵も佐助も同じ相手が好きだった。可愛くて、気高くて、たまに優しくて、笑顔がよく似合う勇士―――鎌之介に二人共好意を寄せていた。

そのせいで才蔵と佐助の喧嘩は絶えることがない。いつもいつもどちらが鎌之介に相応しいか言い争っては最終的に六郎に強制終了させられる。そんな毎日を繰り返していた。


********


「鎌之介、俺と稽古しようぜ」
「鎌之介、我と森、散歩行こう」


ばちりと才蔵と佐助の視線がぶつかる。全く同時に誘いの言葉を口にした相手を睨んで牽制しあっているのだ。


「おい、甲賀の猿……。毎回毎回俺が誘おうとした時に出て来やがるのは嫌がらせがなんかか……?」
「それ、我の台詞。才蔵、邪魔」


二人の間で激しい火花が散る。どちらも引く気はないらしく、じっと睨み合っていた。

そんな二人を前にした鎌之介は腕を組んで小さく溜息を吐く。今まで何度もこの光景を見てきたのだ。いい加減飽き飽きしていた。


「あのさぁ、才蔵も緑も何でそんな俺に構うわけ? 意味分かんねーんだけど」


心底分からないといった様子で尋ねてくる鎌之介に、二人はガクッと肩を落とす。こんなにも分かりやすく好意を示しているというのに、どうして気付かないのだろうか。

鎌之介はかなり鈍感で才蔵や佐助の好意に全く気付かない。元々自分に対する他人の気持ちに興味がないようで、あまり気にしていないのだ。だから二人の気持ちに気付かずにいる。それが才蔵と佐助にはもどかしくて仕方がなかった。

色鮮やかな朱髪、輝く翡翠の瞳、白い肌に女のような美しい容貌。こんなにも好かれる要素を持ちながらふらふらと一人で町中に行ってしまうのだから、才蔵も佐助も気が気でない。早く自分だけのものにして、常に傍に居たいのだ。

それに何より。才蔵と佐助は互いを見る。こいつにだけは負けたくない。


「んなもんお前のことが好きだからに決まってんだろーが!」
「我、鎌之介愛してる。だから、傍に居たい!」


直球に好意を示せば流石の鎌之介も気付くだろう。そう考えて勢いで告白すれば、「はぁ?」と訝しげに首を傾げられた。


「お前らバカ女のことが好きなんじゃねぇの?」
「ハァ!?」
「!!?」


どうやら鎌之介は二人が伊佐那海に好意を寄せていると思っていたらしい。とんでもない誤解だ。才蔵と佐助は慌てて否定する。


「アイツはそういうのじゃねぇ! 俺はお前しか見てねーんだよ!」
「否! 我が好きなの、鎌之介! 伊佐那海違う!」
「ふぅん? ま、別にどーでもいいけど」


才蔵と佐助の好意が分かっているのかいないのか、鎌之介は二人の渾身の告白を短く切って捨てる。どうでもいいと言われてしまった二人は顔には出さないものの、かなり落ち込んだ。


「で、俺は稽古と散歩、どっちに付き合えばいいんだよ?」


才蔵とは殺し合いたいし、佐助とは森の動物と一緒に遊びたい。同時に二人から誘われてもどちらにするか決めかねる。
鎌之介は二人に決定権を丸投げする。すると再び才蔵と佐助の喧嘩が始まった。


「鎌之介の相手が務まるなんざ、俺しかいねーだろ」
「動物呼べるの、我だけ。鎌之介きっと楽しい」


両者とも全く譲らない。ここで大人しく身を引けば、相手に一歩先に行かれてしまう。それだけは御免だった。

「あのなぁ、鎌之介は俺に惚れて上田まで着いて来たんだぞ? つまりお前が鎌之介に出会えたのは俺のお陰みてーなもんだぞ、感謝しろ。そして諦めろ」
「そんなの分からない。いつか出会ったかもしれない。それに我、鎌之介に酷いこと、言わない。才蔵に感謝、死んでもしない」
「お前ずっと上田にいんだから絶対会わねーよ。つーか、俺がいつ酷いこと言った!?」
「変態、役立たず、他にも色々。我、鎌之介想う気持ち、誰にも負けない!」


才蔵と佐助が睨み合う。二人共負けず嫌いで自分の意志は絶対に曲げたりしない性格だ。このままの調子では陽が暮れてしまうだろう。二人の言い争いを黙って見ていた鎌之介は、少し考え込んだ後、佐助の右手と才蔵の左手を掴んだ。


「……? 鎌之介?」
「あ、か、鎌之介……?」


突然手を掴まれて才蔵は訝しげに、佐助は赤面して鎌之介を見る。二人の手をギュッと握った鎌之介は鮮やかに笑って目を輝かせた。


「何かよく分かんないけど……才蔵も緑も俺と一緒に居たいんだろ?」
「あ、ああ………」
「………諾」
「なら、」


掴まれた手が優しく引っ張られて、才蔵も佐助も足を一歩踏み出してしまう。急速に縮まった鎌之介との距離に才蔵はドキリとし、佐助は今にも卒倒しそうなほど動揺している。鎌之介はふわりと微笑みながら二人の指に自分の指を絡めた。


「三人で一緒に城下町に行こうぜ!」
「城下、町……?」
「三人、で……?」


唐突な提案に才蔵も佐助も目を瞬かせる。何やら予想外の展開になってきた。


「俺、上田に来たばっかで町に詳しくねぇし。緑が案内してくれよ」
「も、勿論、我引き受けた!」
「才蔵も上田に来て日が浅いんだろ? 一緒に探検しようぜ!」
「……はぁ、しょーがねーな」


鎌之介に笑顔で誘われてしまっては断れるはずもない。才蔵と佐助は顔を見合わせて小さく微笑む。今日のところはひとまず休戦だ。鎌之介を喜ばせるためだけに全力を注ぐ。そう決めた。


「やった! んじゃ早く行こうぜ! 才蔵! 緑!」
「おいこら走んな! 転けるぞ」
「ま、待って! 鎌之介!」


手を解いて鎌之介が軽やかに走り出す。その後を才蔵と佐助は慌てて追った。いつもいつも鎌之介に振り回されている二人だが、彼らはそれも悪くないと思っていた。


「鎌之介はぜってー渡さねぇからな」
「我も諦めない」


少し離れた場所で、鎌之介が才蔵と佐助を待っている。優しい笑顔で、手を振りながら。小さな声で牽制しあった二人はニッと笑う。

この戦いに、まだまだ終わりは見えなかった。


120320

ひなさま、リクエスト有難うございました!



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