知らぬ町にて君の影追う


※原作5巻Act27の設定
※原作ネタバレが苦手な方はご注意下さい






賑わう京の町を一人の少女が歩いていた。可愛らしい花模様が散った仕立ての良い着物を着崩して不機嫌そうに歩く少女は朱色の髪をザカザカと掻き毟った。


「ちっくしょー! 才蔵の奴、どこ行きやがった!」


少女―――否、性別不明とされる由利鎌之介は女物の着物を恨めしげに睨みながら才蔵を探していた。
京へと招待された幸村の護衛として無理やり着いてきた鎌之介は、町では女物の着物を着なければならないというきまりを忠実に守って女装をしていた。勿論、そのようなきまりは幸村がついた嘘なのだが、山賊暮らしで世間に疎く、妙なところで純真な鎌之介は見事に騙され女の格好をしていた。

伊達の忍とたまたま出会い何故か一緒にお茶をした後、適当に町中を散策していたのだが、道端にいた子猫に気を取られている内に鎌之介は才蔵たちとはぐれてしまっていた。
完全なる迷子だが、鎌之介からしてみれば勝手にいなくなったのは才蔵たちの方であり迷子になったのは才蔵たちだ。よって悪いのは才蔵たちだという解釈がなされていた。

わざわざ才蔵たちを探すのも面倒だしさっさと宿に帰って風呂にでも入ろうかとも考えたが、宿泊する予定の宿の場所を覚えていないことに気付き、仕方なく才蔵たちを探すことにした。
しかし一向に才蔵たちは見つからない。全く隙を見せない男に高価そうな翡翠の簪をさした大食い少女、変な飾りをごちゃごちゃとつけた長身の僧侶。そんな奇々怪々な集団はそうそういないだろうしすぐに見つかると思っていたのだが―――。


「どこにもいねぇ……」


鎌之介が想像を遥かに超える人が町を歩いていた。これではいかに悪目立ちする集団といえども見つけるのは至難の業だ。いっそのこと屋根の上に登って探そうかと考えたが、裾が短い着物でも女の格好では上手く動くことが出来ない。チッと舌打ちを一つ零し、鎌之介はあてもなく歩き続ける。

すると突然横合いから腕が伸びてきて鎌之介の腕を掴んだ。「は?」鎌之介が状況を把握するよりも先に人気のない家屋の隙間へと連れ込まれる。「おい、何だよ!」と自分の腕を掴む人物に視線を向ければ、そこには鼻息を荒くした見目麗しくない男がいた。


「君、可愛いね! 君みたいな可愛い子がいるなんて、僕、驚いちゃったよ」
「はぁ?」


目の前の男は何やら興奮しているようだが鎌之介は不機嫌そのものだった。才蔵たちが見つからないだけでも相当苛立っていたのに、訳の分からない男に訳の分からない場所に連れ込まれて訳の分からないことを言われたのだから当然だ。鎌之介は男を殺気の籠もった睨み付ける。
しかし男は殺気よりも興奮を感じているようだった。


「いいねぇその瞳! 強気な感じも素敵だよ! ねぇ、僕といいことしようよ!」
「ちょ、はぁ!? ざけんな……っ!」


だんだんと迫ってくる男から距離を取ろうと後退れば、男に肩を掴まれて壁に押し付けられる。背中に走った衝撃に思わず息を詰めれば、男はさらに興奮したように鼻息を荒くした。


「いい! その悩ましげな顔! あああ、京まで来た甲斐があったよ! 今すぐに君をぐちゃぐちゃにしたい!」
「いってぇな……! てめぇ、マジでぶっ殺……」


堪忍袋の尾などとっくの昔に切れている。いつものように鎖鎌で男の首を切り落とそうと背中に片手を回したところで、ふと思い出す。
京では武器の使用は厳禁。鎌之介は言っても聞かないので鎖鎌は強制回収。そう言って六郎に鎖鎌は没収されたのだ。

つまり今の鎌之介は丸腰である。鎖鎌がなければ自慢の風も起こせない。今の状況がかなりまずいことに気付いても、もう遅い。


「楽しみだなぁ! 君みたいな可愛くて気の強い子を犯りつくせるなんて!」
「ざけんな、離せ……っ」
「さあ、泣き叫んで縋ってよがって狂ってくれ!」


片手で両手首を拘束された鎌之介は足で攻撃しようとするがそれは男に防がれる。このような行為に及ぶのは初めてではないのか、やけに手慣れている。男は空いている方の手で鎌之介の着物を脱がせようとする。


「や、だ……っ」


こんなことになるなら街に出るときに言われた通りにすれば良かった。「俺の傍から離れるんじゃねぇぞ」才蔵がそう言っていたのに、それを聞かなかったのは自分だ。その結果どうなろうが自業自得。助けを求めるなんて出来ない。


(才蔵―――)


最後にもう一度だけあの温かい手で撫でられたかった。目の前に迫り来る手はあいつじゃない。鎌之介はギュッと目を閉じる。男の手が着物に掛かる気配がした。

その時。


「テメェ、何してやがる!」


勢い良く何かが吹っ飛ぶ音がしたかと思うと急に身体が自由になる。思わず目を開くと、狭い道の先に鎌之介が待ち望んだ男の姿があった。


「才、蔵……?」


驚いて名前を呼べば才蔵は怒りに満ちていた顔を強ばらせて鎌之介の元へと足早にやって来る。そしてその華奢な身体を優しく抱きしめた。


「さ、才蔵っ?」
「馬鹿野郎! 心配、掛けさせんな……っ!」


今までずっと鎌之介を探し回っていたのか才蔵は息を切らしていた。
町を歩いている途中、鎌之介がいないことに気づいて慌てて伊佐那海たちと手分けして鎌之介を探していたのだ。やっと見つけたと思ったら見知らぬ変態に襲われていて、才蔵は思わず刀を抜いてしまうところだった。
だが僅かな理性がその手を抑え、変態男をぶん殴るだけに留まらせた。しかし本気で殴り飛ばされた男は気を失い地面に倒れている。あの様子ではしばらくは気が付かないだろう。

もっと早く鎌之介がいないことに気付いてやれば、こんな怖い思いをさせずに済んだのに。才蔵は自分の不甲斐なさに唇を噛む。そしてもう二度と離さないとばかりに強く鎌之介を抱きしめた。

才蔵に抱きしめられた鎌之介は胸の奥があったかくなるのを感じた。才蔵に頭を撫でられた時よりもさらに鼓動が早くなる。思わず泣きそうになって慌てて才蔵の胸に顔を押し付ける。するとさらに強く抱きしめられて、鎌之介は少しだけ、涙を零した。





その後。殺すわけにもいかず、しかし放置しておくわけにもいかなかった変態男を簀巻きにして宿に持ち帰ると、伊佐那海たちが才蔵たちを待っていた。
事の顛末を聞いた伊佐那海は「最っ低! 鎌之介に何すんのよこの変態ー!」と地面に転がされた男をゲシゲシと足蹴にし、清海はひたすら説法を唱え、幸村は鎌之介の頭を撫でながら男の顔面を踏み続け、静かに怒っていた六郎に引きずられてどこかへと連れて行かれた。

その男がその後どうなったかは、不明である。






120214





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