永遠の愛を貴方に

※なちさまリクエスト
※「才♀鎌で結婚式ネタ」




今まで生きてきてこれほどまでに緊張したことがあっただろうか。才蔵は着慣れない羽織袴を指先で引っ張り眉を寄せる。
この羽織袴は幸村が用意してくれたのだが、自分には似合わないような気がする。様子を見に来た弁丸や清海には「似合っている」と誉められたのだが、人生の大半を忍装束で過ごしてきた才蔵にとってこうした正装は窮屈で仕方がなかった。


「才蔵、用意は出来ましたか?」
「六郎さん」


襖を少し開けて六郎が顔を覗かせる。準備が出来たことを告げると、彼は美しい笑みを浮かべた。


「似合っていますよ、才蔵」
「何か六郎さんに言われると安心するな」
「ふふっ。それは光栄ですね。―――さぁ、そろそろ行きましょう」


ドクリと心臓が大きく跳ねる。柄にもなく緊張している自分が情けなくて軽く深呼吸をする。いよいよだ。いよいよ―――鎌之介との婚姻の儀式が始まるのだ。


********


数日前、才蔵は鎌之介に夫婦になってほしいと告げた。初めは驚いていた鎌之介も、才蔵の真剣な表情に覚悟を決めたのかその申し出を了承してくれたのだ。
それを耳聡く聞きつけた伊佐那海が幸村に嬉々として報告し、勇士たちだけで二人の婚姻を祝うことになったのだ。


********


「おお、才蔵。なかなかの男前ではないか」
「ちぃ、俺様も鎌之介を嫁に欲しかったぜ」
「ホッホッホ。儂の見立ても捨てたものではないのう」


儀式が始まる前だというのに十蔵、甚八、幸村の三人は酒盛りを始めている。六郎と共に部屋に入った才蔵はぐっと拳を握り締めて怒りをやり過ごした。


「何やってんだ、あんたらは……!」
「すまんすまん。怒るな才蔵。ほら、お主の席はそこだぞ」


手にした扇子で幸村が指し示したのは部屋の深奥。上座だ。普段は主君である幸村がいるべき場所なのだが、今日の主役は才蔵と鎌之介だ。幸村は十蔵の隣に腰を下ろしている。


「お、おお……」


自分が皆を見渡せる位置にいるのは不思議な感覚だった。取り敢えず敷かれていた座布団の上に座る。だが落ち着かなくて、ついつい頭を掻き毟ってしまう。その度に六郎から「才蔵!」と注意されてしまっていた。


「おーい! 鎌之介の支度できたって!」
「伊佐那海とアナが連れてくるそうだぞ」
「大人しく、待て」


鎌之介の様子を見に行っていたらしい弁丸と清海、そして佐助が部屋に入ってくる。三人からの知らせに才蔵は身体を堅くする。緊張は最高潮に達し、今すぐこの場から逃げ出したくなった。


「あの鎌之介が嫁に行くとはのう……」
「嫁に行くと言っても住んでいる場所は同じですが」
「某は何だか寂しいぞ……」
「十蔵、それ完璧に父親の台詞だぞ」
「鎌之介の姿、見せてくんなかったんだよー」
「見てのお楽しみらしいから仕方あるまい」
「鎌之介、絶対、綺麗」


勇士たちの会話さえ耳に入らず、才蔵は溢れ出てくる緊張を何とか鎮めようと再び深呼吸をする。すると部屋の襖が開き、伊佐那海とアナが姿を覗かせた。


「はぁい皆さん! お待たせしました! 鎌之介のご登場だよ!」
「独身男共、今更惚れても遅いわよ?」


二人共、底抜けに明るい笑顔で背後を見遣る。戸惑いながらも二人に手を引かれて姿を現したのは―――鮮やかな色打掛を身に纏った鎌之介だった。

普段横で縛っている朱髪は綺麗に結い上げられ、薄水色の簪が花を添えている。女性らしい花模様が散った色打掛は白い肌とよく合っており、鎌之介の美しさに磨きをかけている。皆の視線の先にいたのは、まさに絶世の美女であった。


「ほお……これは……」
「……………あ、」
「何という美しさか……」
「はっ、やべぇな……」
「うわぁ〜……」
「天女のような麗しさとはこのことか……」
「か、鎌之介………」


アナがわざわざ忠告したのも頷ける。それほどまでに鎌之介は美しかった。幸村以下勇士たちは各々鎌之介の色打掛姿に完全に見惚れてしまっている。

鎌之介は皆の反応に羞恥心が込み上げてきたのか、顔を真っ赤にしてその場から逃げ出そうとする。だが、両脇にいる伊佐那海とアナに腕を掴まれて部屋の中に押し込まれてしまった。


「どこに行くつもりなの?」
「ほら、鎌之介。才蔵の隣に座りなさい」


背中を押されて鎌之介が才蔵の前に立つ。座布団から立ち上がっていた才蔵は、目の前に現れた鎌之介の姿に息を呑む。頬を染めて上目遣いに見つめてくる鎌之介に胸がギュッと締め付けられる。


「鎌之介……」
「さ、才蔵……。これ、似合うか………?」


不安そうに胸元で手を握り締める鎌之介の頭を才蔵がゆっくりと撫でる。


「……似合ってる。すごく綺麗だ」
「あ……ありがと……」


慈しむような優しい視線で誉められて、鎌之介の顔が更に赤く染まる。その可愛らしい反応に才蔵まで顔が赤くなる。照れまくっている二人の背後でパンパンと幸村が手を叩いた。


「さぁて、役者が揃ったところで早速婚姻の儀式を始めるとしようかの」


婚姻の儀式とは言ってもたった11人で行う式だ。大名たちが行う大層なものではなく、ただ二人が夫婦として共に支え合っていくことを皆の前で誓い合うという簡単なものだった。

並んで座る才蔵と鎌之介に幸村が問い掛ける。夫婦としてどんな時でも支え合って生きていくことを誓うかと。二人の答えは、応。その瞬間、才蔵と鎌之介は夫婦になった。


「よし、これでお主たちは夫婦だ!」
「おい。ちょっといいか?」
「何だ甚八、申してみよ」


式が終わり用意したご馳走にありつこうとした時、唐突に甚八が声を上げた。幸村が続きを促すと、彼は才蔵と鎌之介を交互に見て首を傾げた。


「お前ら、接吻はしねーのか?」
「は、はぁ!?」


甚八の衝撃的な発言に鎌之介が頬を引きつらせる。驚く一同に、甚八は酒を仰ぎながら話し始めた。


「いや、何でも南蛮ではこういう式の時は最後に夫と妻の接吻で締めくくるんだと。だからそれやんねーのかと思ってよ」
「み、みんなの前でやるのか!?」


鎌之介は信じられないと首を横に振る。しかし幸村はニヤリと笑い、手にした扇子で膝を打つ。


「成程それはよい! 才蔵、鎌之介。二人が接吻をすることで夫婦であると認定する!」
「おいおっさん! 勝手に何を―――」
「主の命令だぞ?」
「……………」


いくら何でもそれは恥ずかしすぎると断ろうとしたのだが、笑顔で命令だと言い切られてしまっては反論のしようがない。才蔵と鎌之介はお互いを横目で窺う。諦めはもうついていた。


「鎌之介……。いい、か?」
「それで才蔵と夫婦になれんなら、何だってする」
「鎌之介………」


何て健気で可愛らしいことを言ってくれるのだろう。目の前の存在が愛おしくて愛おしくて堪らない。
才蔵はただ衝動のままに鎌之介の肩を抱き寄せ唇を重ねた。


「ん……はぁ、ん……」


幸村や勇士たちがニヤニヤと―――数名顔を赤くしながら―――二人の熱い接吻を眺める。
微かな糸を引きながら離れた才蔵と鎌之介に、勇士たちは惜しみない拍手を送った。

才蔵の舌遣いに完全にとろけきった鎌之介は、その拍手を聞いて自分が妻になったのだと自覚する。才蔵の妻というのは少し恥ずかしくて、けれどもそれ以上に嬉しかった。
才蔵に凭れ掛かりながら鎌之介は彼を見上げる。すると目が合い、優しく微笑まれた。たったそれだけのことなのに嬉しくて、幸せを感じて。鎌之介は少しだけ、泣いた。


********


「で、まぁこうなるよなぁ………」


酒が出てきた時点で薄々嫌な予感はしていたのだが、案の定鎌之介は酔いつぶれた。鎌之介は酔うと執拗に絡み、果ては服を脱ぎ始める。今日は複雑な色打掛を着ていたせいか脱ぎはしなかったが、着物ははだけて目に毒だった。

未だに宴会を続けている幸村たちに一言断り、才蔵は酔いつぶれた鎌之介を自室に運び込んだ。こんな状態では初夜も何もあったものではない。実に鎌之介らしいと才蔵は溜息を吐いた。

敷いた布団の上に鎌之介を寝かせてやる。打掛では寝苦しそうなので、肌に纏っている薄い着物以外は全て脱がしてやった。その際、変な気を起こさなかった自分を誉めてやりたい。

布団の傍に腰を下ろした才蔵はすーすーと小さく寝息を立てる鎌之介をじっと見つめる。頬にかかった朱髪を指先で払いのけてやりながら、数刻前の幸せを思い返す。

忍として生きていく以上、多くは望めないと思っていた。だが、一番大切な存在である鎌之介と夫婦になれた。自分は何て幸せなのだろうか。


「さい、ぞ………」
「鎌之介? 起きたのか?」


鎌之介の目が小さく開く。翡翠の瞳が才蔵の姿を捉えた。


「んー……こっち、来て」
「?」


ちょいちょいと手招きする鎌之介に近づいて顔を覗き込めば、首裏に腕を回される。どうしたのかと尋ねようと口を開いた瞬間、鎌之介に口付けられた。


「は、ん……あ、んんっ」
「ん……かまのすけ、ん、」


鎌之介に覆い被さるような格好で才蔵は口付けを甘受する。鎌之介の方からしてくるのは珍しい。多分酔っているからなのだろう。鎌之介の舌は熱く、そのまま二人して溶けきってしまいそうだった。


「あ、ん………はぁ、」
「は、は、……鎌之介?」


長い口付けの後、ようやく解放される。首裏に回した腕を解いた鎌之介は、自分を見下ろす才蔵を見つめて妖艶に笑う。


「さいぞぉ……。俺、才蔵の子供ほしい……」
「ぶっ!」


いきなり何をと鎌之介の顔を見れば、ふふっと軽やかに微笑まれる。鎌之介は自分の身に着けている着物をゆっくりとはだけさせ、欲を孕んだ瞳で才蔵を見つめ続けた。


「ねぇ才蔵、だめ………?」


こてんと小首を傾げて可愛らしく尋ねられれば、断れるはずがない。


「だー、もう! どうなっても知らねぇからな!」


鎌之介に覆い被さり強引に唇を重ねる。すると鎌之介は再び才蔵の首裏に腕を回した。

遠くから宴会のざわめきが微かに聞こえてくる。襖から差し込む月光が、まるで祝福するかのように優しく二人を照らしていた。


120318

なちさま、リクエスト有難うございました!



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