貴方を失うことだけが、

※サクっと敵をやるという意味らしい策敵中ネタ



幸村に策敵を命じられた才蔵と鎌之介は辺りを警戒しながら周辺を探っていた。いつ徳川の追手がやってくるか分からない。一時も気を抜くことはできなかった。

切り立った崖からひょこっと下を眺める鎌之介は背後で周囲を見渡している才蔵に声を掛ける。


「さいぞー。こっちは無理そうだぜ」
「みたいだな。敵もいねーし、今度はあっちに行くか」


身を隠しながらなんとか逃げ切れそうな道を探そうと試みたのだが、森の中ということもあって崖や谷が多い。才蔵や鎌之介だけなら通れそうな道もあったが、馬に乗った幸村たちが逃げるのは難しいだろう。才蔵は小さく舌打ちを零して踵を返す。


「鎌之介、行くぞ」


額に手を当て崖下を見つめている鎌之介の背中に呼びかける。「おう」と鎌之介が才蔵の方を振り向いた。その時、地盤が緩んでいたのか崖の端が急に崩れた。


「お、わっ!?」
「! 鎌之介!!!」


崖端に立っていた鎌之介の身体が大きく揺らぐ。相当な高さの崖下へと華奢な身体が吸い込まれていく。才蔵の全身からサッと熱が引き、嫌な汗が噴き出す。鎌之介が、落ちる。
才蔵の身体は勝手に動いていた。落下しそうになった鎌之介の細い腕を必死に掴み、グッと自分の元へと引き寄せる。ドサリと音を立てて才蔵は地面に背中から倒れ込んだ。


「こんの…馬鹿!」
「あいたっ!」


才蔵は自分の胸元にあった朱髪の頭を平手で叩く。「何すんだよ!」と抗議を受けたが当然相手にしない。まだ心臓がバクバクと音を立てている。


「気をつけろ! 落ちたらどうすんだ!」
「……悪かったよ」
「はぁ、もう………」


拗ねたように唇を尖らせながらも悪いとは思っているのか、鎌之介は小さく謝った。才蔵に強く抱き締められている身体に怪我はない。ぎゅっと両手で才蔵の胸元を握る鎌之介の頭を才蔵は優しく撫でた。


「心配かけさせんな、馬鹿………」


鎌之介が崖下に落ちそうになった時、心臓が止まるかと思った。自分の目の前で鎌之介が失われる。そんなことには耐えられない。良かった。本当に良かった。間に合って、良かった。
才蔵は鎌之介の肩口に額を預け、細い身体を抱き締める。自分の元から消えてしまうかと思った。だが、確かに才蔵の腕の中には鎌之介がいる。そのことに、ひどく安堵した。

小さく、優しく、そう呟かれた鎌之介は才蔵の腕の中で微かに身体を動かす。両腕を才蔵の首に回し、そっと引き寄せる。癖のある黒髪をできるだけ優しく撫でて、鎌之介は目を閉じた。


「ごめん」


囁くように謝ると、更に強く抱き締められる。才蔵の頭をゆっくりと撫で、まるで親とはぐれた子供の様な彼の姿に苦笑する。ここまで自分を想ってくれる存在がいることに、幸せを感じた。

今まで一度も感じたことのない幸福感に浸りながら、鎌之介は才蔵の髪に軽く唇を落とした。



120311


完全なる幸村さまの人選ミス。二人とも、策敵しようぜ!



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