段違いの嫉妬

※壱丸と弐虎しか出ません
※原作5巻ネタ
※原作ネタバレが苦手な方はご注意下さい




「あーあ、もうちょっと一緒にお茶したかったなぁ」
「まだ言ってんのかよ」


壱丸の残念そうな呟きに弐虎はうんざりとしたように溜息を吐いた。
二人は京の町をぶらぶらと歩いていた。つい先程まで何故か敵である人間たちとお茶をしていた二人は本来の目的である観光へと戻ったのだ。

煌びやかな町中に視線を向けつつも壱丸の口から出るのは敵の話ばかりだ。弐虎としては面白くない。何だって敵の話を延々聞かされなきゃならないんだという思いでいっぱいだった。


「だって……楽しかったし」
「アホか。楽しくねーよあんなもん。大体お前ちゃっかり巫女に贈り物してただろうが」
「あれは……あれだよ。お茶してくれた御礼、みたいな?」
「下らねー」


壱丸の台詞を冷たく一刀両断して弐虎は後頭部を乱雑に掻く。壱丸も馬鹿な奴だと思う。標的である巫女を好きになるだなんて。絶対に報われなどしないのに。


「あんな貧乳のどこがいいんだ」
「ほんとに弐虎は胸しか見てないね、変態」
「うるさい! どうせないなら俺は朱髪の女の方をとるぜ。あっちのほうが美人だったからな」
「朱髪って……確か鎌之介とかいう子だっけ」


確か真田の忍がそう呼んでいたはずだ。女の子なのに男らしい名前だなぁと感じたことを思い出す。壱丸たちが言い合いの喧嘩をしている時もひたすら饅頭を頬張っていた朱髪の少女。弐虎が言うとおりかなりの美人だった。


「弐虎はああいう子が好み?」
「胸がないのは残念だけど、顔とかは最高だろ」
「うわぁサイテー」
「お前はいちいちうっせえな!」
「ふーん、弐虎はああいう子が好きなのか」


含みを持たせる壱丸の呟きに隣を歩く弐虎が訝しげに眉を寄せる。何が言いたいと横目で見れば、壱丸は軽く肩を竦めた。


「あの鎌之介っていう子、真田の忍と付き合ってるみたいだけど?」
「何ぃぃ!?」


周囲の視線が二人に突き刺さる。ばっと自分の口を押さえた弐虎は人々が興味を失って去っていくまでそのままの状態でいた。
向けられていた視線が全て外されたところで壱丸に掴みかかるようにして詰め寄った。


「付き合ってる!? あいつらが!? 何でお前が知ってんだよ!?」
「だって言われちゃったもん」
「誰に何を!?」
「真田の忍にコイツは俺のだからって」
「!!!?」


驚愕の真実に目を見開く弐虎に壱丸は先程のあったことを話し始める。


「ほら、巫女の女の子に簪買ってあげたでしょ? その時鎌之介っていう子にも何かあげようと思ったんだけど、真田の忍に止められちゃって」


壱丸が伊佐那海に簪を買ってあげている間、弐虎は下らないと別の店を覗いていた。だからそんなことがあったなど知らなかった。


「この簪を君にあげるよ、って言ったら真田の忍がコイツは俺のだから手を出すなって滅茶苦茶怒られちゃったよ」


怒られたという割に壱丸は嬉しそうだ。何となく壱丸の考えていることが分かる。変なところで平和主義な壱丸のことだ、仲の良い恋人たちを見て自分まで嬉しくなっているのだろう。弐虎には他人の幸せが自分の幸せだとは思えないので、正直真田の忍に今まで以上の殺意を抱いていた。


「あの野郎…! つまりは旅にまで恋人同伴ってことかよ…!爆発しろぉぉぉ…!」
「弐虎、顔がヤバいよ」


羨ましさと憎らしさが相まった何とも恐ろしい声に壱丸は身を少し引く。
自分たちは必死に巫女を狙っているのに敵は恋人同伴。これが羨ましくないはずがない。これが憎らしくないはずがない。

弐虎の頭の中に真田の忍の顔が浮かぶ。確かにもてそうな顔をしていた。憎い。


「何か真田の忍も嫉妬とかしたりする普通の男なんだなぁって嬉しくなっちゃった」
「知るか! あんな美人を侍らして旅なんざしやがって……!」


真田の忍への恨み辛みを訥々と語り出す弐虎はここが京の町中だということを忘れているようだ。町行く人々が奇妙なものでも見るかのように弐虎に好奇の視線を向ける。
その隣に立つ壱丸は男としての嫉妬に狂う相棒を見て、はぁぁと深く溜息を吐く。


「真田の忍の嫉妬は綺麗だったけど、弐虎の嫉妬は醜いね」


真田の忍と朱髪の少女は本当にお似合いだった。コイツは俺のだから。少女の肩を抱きながらそう宣言した真田の忍は本当に格好良かった。鎌之介という少女は少女でそんな真田の忍を見て微かに頬を赤くさせていて大変可愛らしかった。


「あの二人、これからも上手くいくといいなぁ」


空を見上げる。心地良い晴天だ。きっとあの二人もこの空を見上げているに違いない。

壱丸はぶつぶつと煩い弐虎をその場に放置して歩を進める。自分もあの二人のような恋をしたいと、強く願った。



壱丸と弐虎が鎌之介が女ではないと知るのはもう少し先の話だ。



120309




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