恋愛における勝敗

※学パロ
※女体化ですので苦手な方はご注意下さい




「才蔵ーっ!」


またか。大声で名前を呼ばれた才蔵は嫌な予感に苛まれつつ顔を上げる。視線の先には見知った顔。校舎の窓から身を乗り出す鎌之介がいた。

鎌之介は隣のクラスの生徒だ。入学当初、悪そうな男子生徒に囲まれているところを助けたら何故か気に入られて「俺と喧嘩しようぜ!」と毎日追っかけ回してくるのだ。
才蔵としては学園一と噂される美少女に追われるのは悪い気はしないのだが、追われる理由が歓迎できない。


「才蔵! ヤろうぜ!」
「あほっ! そんなこと大声で言うんじゃありません!」


誤解を招く言い方に溜息が洩れそうになる。鎌之介の言うヤろうぜとは勿論喧嘩のことであり周囲にいる生徒たちが想像しているようなものではない。そっちだったらどれほど良かったことか。鎌之介の整った顔立ちを下から眺めながら才蔵は諦めたように首を振る。期待するだけ無駄だ。

昼休みだから人の往来も激しい。学園一の美少女と不良崩れのような生徒が一緒にいるだけでも目立つのにあんなことを叫ばれては悪目立ちもいいところだ。
才蔵は校舎の中にいる鎌之介を無視して中庭を横切ろうとする。鎌之介がいるのは3階だ。あそこから才蔵のいる中庭まではすぐには来れない。充分逃げ切れる。そう考えての行動だったのだが、鎌之介は才蔵の予想を遥かに超えていた。


「逃がすか!」


ガッと窓枠に片足を乗せて身を乗り出す。疑問を抱くよりも先に鎌之介の華奢な身体が宙を舞った。


「ぎゃあああ! 何やってんだ馬鹿―――!」


3階の窓から飛び降りた鎌之介の姿に周囲から悲鳴が上がる。死ぬんじゃないか、ミニスカで飛ぶなんて、下着見えるかも、など様々な悲鳴が。

才蔵は自分目掛けて落ちてくる美少女を受け止めようと腕を広げた。避ければ鎌之介が大怪我をするのは確実だ。仮に受け身を取れたとしてもあの細い足では簡単に折れてしまうに違いない。

才蔵の頭の中には避けるなどという選択肢はなかった。ただ鎌之介に怪我を負わせてたまるかという意識しか働いていなかった。


「才蔵っ」
「ぐふっ!」


背中を激しく強打する。ここが中庭で良かったと心底思った。中庭は地面が芝生に覆われているため衝撃がいくらか緩和されたのだ。しかし痛いことに変わりはない。
才蔵は自分に跨るようにして目を輝かせている鎌之介を睨み上げた。


「馬鹿かお前! 3階から飛び降りる奴があるか!」
「大丈夫大丈夫。どうせ才蔵が受け止めてくれんだろ?」
「お、お前なぁ……」


何でもないようにサラッと言ってのける鎌之介に毒気を抜かれる。さっきの行動は才蔵が必ず受け止めてくれると信じていたからだと言われればあまり強く文句を言うことが出来ない。それに少し可愛いとさえ思ってしまった。


「だからってミニスカで飛び降りんなよ。…し、下着見えんぞ」


さっきは鎌之介を受け止めることだけに意識を集中させていたため気にしていなかったが、あれは確実に下着が見えただろう。才蔵はそちらにまで意識を払う余裕がなかったので見えたのか見えていないのか良く覚えていない。惜しいことをした。
若干顔を赤くする才蔵に依然として跨ったまま鎌之介は「ああ、」とスカートに手を触れた。


「それは大丈夫。スパッツ履いてっから」


そう言って鎌之介は指先でスカートを摘み上げる。確かにスカートの下は下着ではなく黒のスパッツだった。


「馬鹿、捲んなっ!」


こんな大勢の生徒が注目している中で何の躊躇いもなく足を晒す鎌之介に頭が痛む。鎌之介がスカートを捲った瞬間、周囲の視線がかなり強くなった。確実に男子生徒のものだろう。

鎌之介はどうも自分の顔の良さを理解していないらしい。学年に関わらず男子にどれほど人気なのか分かっていないのだろうか。否、分かっていたら窓から飛び降りる訳がない。その無自覚さが可愛くもあり危険なのだ。


「なぁなぁ才蔵、何で俺とヤってくんないんだよ」
「女と喧嘩なんかできるかよ」
「差別だ!」
「はいはい、すみません」


ムッと頬を膨らませる鎌之介を身体の上から退かして才蔵は立ち上がる。そろそろ昼休みが終わる時間だ。今日はもう授業を受ける気が失せてしまった。
後頭部を乱雑に掻き毟る。自分の足元にぺたんと不服そうに座り込んでいる鎌之介の頭にポンと手を乗せて、才蔵は美少女の顔を覗き込んだ。


「鎌之介。ジュース奢ってやるから一緒に授業サボろうぜ」
「! ホントか?」


さっきまでの不満そうな顔が一転して明るいものになる。きらきらと瞳を輝かせる鎌之介は美少女の名に相応しい可愛らしさだった。
これで趣味は格闘技、好きなテレビ番組がK-1でなければ完璧なのに。しかしそんなところも好きなのだから救えない。才蔵は惚れた弱みだとすでに諦めている。


「男に二言はねぇよ。で、なに飲みたい?」
「新発売・直江兼続の毒舌ワインレッドビタミンドリンク!」
「………死人が出そうな名前だな」


購買近くにある自動販売機を目指して歩きながら、隣ではしゃいでいる鎌之介を盗み見る。

多分これからも喧嘩をしてやることは出来ないが、その分鎌之介が喜ぶことをしてやろうと思った。それに勝敗ならすでに決している。

先に惚れた方が負けなのだから。


120304




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