小さな見栄

※サクラさまリクエスト
※「brave10Sの幕間から鎌が気絶した後の話 (才鎌/甘々)」




気絶した鎌之介を自室に敷いた布団の上に寝かせた才蔵は小さく溜息を吐く。皆明らかに与頭を雑用係だと考えている。喧嘩の仲裁が与頭の仕事だなんて今日初めて知った。


「筧さんはともかく、清海だけは勘弁……」


六郎の技によってぶっ倒れた鎌之介と十蔵と清海の世話を才蔵がやるようにと言われたが、清海は床の上でも大丈夫だろうとあの場に放置したままだ。十蔵は一応彼の部屋に運んでおいた。そして鎌之介は近かった才蔵の部屋に運んだのだ。
六郎は相手が誰であろうが容赦ない。主である幸村にさえ躊躇うことなく技を使う。あの技はかなり厄介だ。才蔵自身何度も世話になったものだ。


「こいつには負けるけどな……」


布団の上で眠る鎌之介を見る。上田城一の問題児である鎌之介はよく騒ぎを起こしては六郎にお仕置きをされるのだ。先程のも加えると軽く百回は越えているかもしれない。
懲りないよな、コイツも。才蔵の顔に呆れの色が浮かぶがその表情は穏やかだった。慈しむような優しい瞳で鎌之介を見つめる。指先で頬に掛かった朱髪を払ってやる。アナには縛って転がしておけと言われたが、どうにもそういう気にはなれなかった。


「……ん……」
「お、起きたか」


翡翠の瞳が微かに開かれる。しばらく宙を泳いだその視線は、傍らに座る才蔵の顔の上で静止した。


「……さいぞー……?」
「おう」
「……ここ、どこ?」
「俺の部屋」
「………何してたっけ………」


どうやら記憶が飛んでいるらしく、何故自分が気絶する羽目になったのか覚えていないらしい。鎌之介は布団から上体を起こして頭を抱えている。
才蔵の希望としてはこのまま思い出してほしくないのだが、ハッと何かを思い出したような表情を浮かべた鎌之介の姿に希望が打ち砕かれたのを悟った。


「くじ! 順番!」
「諦めろ」
「嫌だっ」


このままでは先程の展開をまた繰り返すことになってしまう。それだけは御免だ。正直言って何度も気絶する鎌之介を見るのは嫌なのだ。
才蔵は布団の上に座り込んで嫌だと連呼する鎌之介を押し倒し、口を塞ぐ。もちろん唇で、だ。「!!?」驚く鎌之介に構うことなく接吻を続ける。数秒か、それとも数分か。一体どれほどの時間が経ったのかは分からないが、鎌之介には永遠にも思えた。

鎌之介が暴れるとようやく唇が離される。すっかり息の上がった鎌之介は布団に押し倒されたままの状態で才蔵を見る。



「な、何す……っ!」
「あんまり文句を言うようだと、」


一旦言葉を区切って鎌之介の瞳を覗き込む。鎌之介は身体中の熱が上がるのを感じた。先程よりお互いの距離は遠くなったのに、何故か心臓が激しく脈打つ。


「お仕置き、するぜ?」


短く囁かれた台詞に、くらりと目眩がした。鎌之介は口を閉じる。小さく「…才蔵のあほ…」と呟けば、ポンポンと頭を撫でられた。あんな声音で囁かれたら、文句など言えるはずがない。心臓はさらに激しく鼓動し今にも破裂してしまいそうだ。


「大体相手はおっさんの親族だぞ。お前が期待してるような殺し合いはねぇよ」
「……じゃあ、才蔵が相手しろよ」
「俺が?」


ふむと考え込む。最近は与頭としての仕事が忙しく、あまり鎌之介の傍にいてやることが出来なかった。もちろん手合わせなど全くしていない。
拗ねたように唇を尖らせる鎌之介。最近は平和な日々が続いている。きっと退屈していたのだろう。だからこそやたらと順番に拘ったに違いない。

仕方ない。相手をしてやろう。鎌之介と二人きりの時間を取るのも悪くない。才蔵は布団から鎌之介を引き上げた。


「分かったよ、相手してやる。泣き入れるまで、な」
「ほんとかっ!?」


頷けば、鎌之介は目を輝かせてはしゃぎ出す。無邪気に笑うその姿につい口元が緩んでしまう。よく困らせられるが、この笑顔を見ていたらそれさえも愛おしく思えるのだ。惚れた弱味だろうか。

早くヤろうと腕を引っ張る鎌之介に、才蔵は仕方ないというように立ち上がる。本当は才蔵も悪い気はしていないのに、だ。小さな見栄を張った才蔵に、鎌之介は気付かなかった。



120301


サクラさま、リクエスト有難うございました!




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