君の笑顔を追い求める

※華恋さまリクエスト
※「才♀鎌/先天的女体化で才蔵とイチャイチャ」
※女体化ですので苦手な方はご注意下さい





上田の城下は常に賑やかだ。活気にあふれ、町行く人々は皆笑顔だ。才蔵と鎌之介は並んで町中を歩いていた。六郎に買い出しを頼まれたのだ。
普通買い出しなどは女中たちの仕事だが、何故か才蔵にその仕事が回ってきた。不思議に思う才蔵に六郎が微笑しながら「買い物には絶対に鎌之助を連れていくこと。目的の物を買った後は自由にしていいそうです。ちなみにこれは、幸村さまからの“命令”です」と告げたことにより、納得がいった。
つまるところ、これは幸村が才蔵と鎌之介に気を利かせたということなのだろう。その“命令”を聞いたとき、思わず笑ってしまった。どうやら自分はそうとう良い主を持ったようだ。

そういう訳で頼まれた買い物を済ませた才蔵は鎌之助と共に適当に城下をふらふらとしていた。幸村に仕えて暫く経つが、才蔵も鎌之介も今までこうしてゆっくりと町を見て回ったことがなかったので、ちょうどいい機会だと町中を歩くことにしたのだ。鎌之介は出店を興味津々といった様子で覗いている。その姿は年相応の少女のようで、才蔵は口元が緩むのを感じた。幸村には帰ってから礼を言わなければならないと改めて思う。


「さいぞー、あっち行こうぜ!」
「おいこら、あんま引っ張んなよ」


きらきらと目を輝かせて才蔵の腕を引く鎌之介には彼の忠告など聞こえていないようだ。仕方ないな、と溜息を吐きつつも腕に絡められた鎌之介の手には悪い気はせず、才蔵は大人しく引っ張られるようにしてついていく。目の前でぴょこぴょこと元気よく揺れる朱髪が可愛らしい。
ただ町に一緒に行くだけでこれほど楽しそうにしているのであればもっと早くに連れてきてやればよかったと思う。鎌之介が楽しそうにしていると才蔵まで嬉しくなるのだ。これはそうとう惚れこんでしまっているな、と他人事のように内心で呟く。

一体いつから好きになってしまったのかは自分でもよく分からないが、いつの間にか鎌之助を目で追うようになっていた。第一印象こそ最悪だったが、仲間になり同じ時間を過ごすようになってから、鎌之介の良いところが見えるようになってきた。単純そうに見えて思慮深く、がさつそうに見えて繊細で。特に男だと言い張っておきながら本当は女であったことなど、知った時は本当に驚いた。
女でありながら武器を手に取り最前線で戦う鎌之介の姿を見ていて、知らないうちに守ってやりたいと強く感じるようになった。華奢な身体で戦地を駆ける鎌之助を、自分がこの世のすべてから守り抜いてやりたいと思ったのだ。

才蔵は特別女の扱いに手慣れているというわけではない。仕事であれば難なくこなすが、恋人を相手にするとどうにも上手くいかない。一体何をしてやれば喜んでくれるのかが全く分からないのだ。鎌之介が喜ぶことなど手合わせをすることぐらいしか思いつかない。
佐助のように動物を自在に操ることなどできないし、六郎のように鎌之介が興味を持つような話を持っている訳でもない。そんな才蔵を見かねて幸村が手を打ったのかもしれないと思うと、何だか恥ずかしく感じる。才蔵は後でアナに女心とやらでも尋ねてみようかと本気で考えた。

鎌之介が足を止めたので才蔵も同じように立ち止まる。町中を歩いているときに何度か足を止めて店先を覗くことはあった。だがすぐに興味を失くしたように鎌之介は次の店へと移ってしまう。
今回もそうだろうと才蔵は鎌之介の隣に立っていたのだが、なかなか移動しようとしない。どうしたのかと視線を遣れば、鎌之介は微かに頬を蒸気させてじっと何かを見つめていた。


「………?」


不思議に思って鎌之介の視線の先を辿る。そこには薄水色の花模様が散った髪飾りが鎮座していた。女物の小物を扱う店のようで、同じような品が何点も飾られてあった。鎌之介が見ているのはその髪飾りのようだ。視線を奪われて外せないといった様子の鎌之介の横顔を暫く見つめていた才蔵は、店番をしていた壮年の女性に声を掛けた。


「すいません、これ貰えますか?」
「えっ、才蔵!?」


髪飾りを指差す才蔵に鎌之介は驚く。二人に気付いたらしい店番の女性が優しく微笑んだ。


「あら、その子に贈り物かしら?」
「ええ、まぁ」
「え………」


店番の女性はにこにこと人の良い笑みを浮かべて「それじゃあちょっとお安くしておくわね」と本来の値段よりもかなり安い値でその髪飾りを才蔵に売り渡してくれた。「ありがとうございます」才蔵が礼を言って驚いたままの鎌之介に向き直る。そして鎌之介の髪を解き、先程購入した薄水色の髪飾りをゆっくりと朱髪を束ねる。驚くほど優しい手つきでつけられた髪飾りは、鎌之介によく似合っていた。


「……うん、似合ってる」
「さ、さいぞ……」
「綺麗だ」


薄水色の髪飾りは鎌之介の朱髪によく映えとても美しかった。ふわりと鎌之介の頬を優しく撫でながら、才蔵は微笑む。その笑顔を見た鎌之介はボッと顔を真っ赤にさせた。元が白いだけに赤面するとよく分かる。真っ赤になった鎌之介は小さな声で「あ、ありがと……」と呟いた。その様子を眺めていた店番の女性は「若いわねぇ」と頬に手を当て嬉しそうに笑った。


********


「まさか才蔵に贈り物をするなんていう脳があったなんてね」
「お前俺のこと馬鹿にしてるだろ、そうなんだろ」
「あらやだ、これ褒め言葉よ」
「まったく嬉しくねーんだよ!」


その日の夜。鎌之介の髪飾りに目敏く気付いたらしいアナが才蔵の元を訪れていた。アナは柱に背を預けてにやにやとしている。まるで主の幸村を彷彿とさせるような笑みだった。もちろん本人には口が裂けても言えない。言ったら最後、凍らさせるに決まっているからだ。


「鎌之介、嬉しそうだったわよ」
「……ああ、そう」
「照れないの」
「照れてねぇ!」


口ではそう言うものの、帰ってきて勇士たちに口々に「鎌之介に贈り物したんだ」と言われると気恥ずかしさを感じた。だが、髪飾りにそっと指先で触れて嬉しそうに微笑む鎌之介の姿を思いだすと、その気恥ずかしさもどこかへと吹き飛んでしまう。鎌之介が喜んでいるのであれば充分だ。


「これを機会にもっと鎌之介のことを恋人みたいに扱ってあげることね」
「……分かってるよ」
「そう。じゃ、頑張ってね」


そう短く言い残してアナが去っていく。その背中を見送りながら、才蔵はどうしたものかと頭を悩ませる。贈り物はもうしてしまったのだから、今度は別のことをしてやらねば。鎌之介が喜ぶこと。鎌之介が笑顔になれるようなこと。ぐるぐると考えながら、才蔵はこういうのもいいなと思った。
誰か一人を喜ばせるために悩み、行動する。なかなか頭を使うが、楽しさもある。今まで感じたことのない種類の楽しみだ。才蔵はそれを教えてくれた鎌之介の姿を思い浮かべる。才蔵にありがとうと礼を言った後、小さく微笑んだ鎌之介。あの笑顔をもう一度見れるのであれば、何度でも悩もうと強く思った。


「……次は温泉にでも誘うか……」

そうと決まれば行動あるのみ。才蔵はその場から立ち上がり、鎌之介の部屋へと向かう。鎌之介の笑顔を見れる日は、すぐにやってきそうだった。


120227


華恋さま、リクエスト有難うございました!




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