とある昼休みの攻防

※璃桜さまリクエスト
※「才鎌+ALL/学園パロディ/最初は才蔵と鎌之介で弁当喰べてたけど、勇士の人達が集まって飴くれたりする話/ほのぼの」
※学パロ設定が苦手な方はご注意下さい




屋上は才蔵と鎌之介のお気に入りの場所だ。日当たりはいいし適度に吹く風は気持ち良い。才蔵と鎌之介はいつも屋上でお昼を食べる。屋上には滅多に人は来ないので教室のように騒がしくなく、二人きりの時間を作るのにはこれ以上ない最適な場所なのだ。


「さいぞー、それくれ」
「ん」
「やった! サンキュー」


才蔵が食べていた焼きそばパンを両手で受け取りもふもふと食べ始める鎌之介。その姿はさながら小動物のようだ。恋人の欲目を差し引いても非常に可愛らしい。才蔵は思わず微笑む。
鎌之介とは違うクラスなので、一緒に過ごせる時間は少ない。授業終わりの休み時間はたったの十分で、しかも次の授業が移動しなければならない場合鎌之介と会える時間は皆無だ。その中で唯一長時間会えて尚且つゆっくりと過ごせるのは昼休みだけだった。だからこそ才蔵はこの昼休みが好きだった。


「うまい!」
「そりゃ良かった」
「才蔵玉子焼き好きだろ? 俺のやるよ」
「おー、ワリィな」


才蔵の昼ご飯は購買で買ったパンだ。両親が共働きで忙しいため、基本的にパンで済ませている。しかし鎌之介は弁当だった。彩りよく盛り付けられた弁当はとても美味しそうだ。驚くべきはその弁当は鎌之介自身が作っていることだ。
鎌之介は料理が得意で毎日自分で弁当を作る。鎌之介の自宅に訪問した時に何度か晩ご飯を食べさせてもらったことがあるが、どれも美味しかった。その意外な才能には驚いた。
才蔵は今のように鎌之介から弁当のおかずをもらうことがある。中でも一番好きなのは玉子焼きだった。幾重にも巻かれた玉子焼きはふわふわで食べ応えもある。何より鎌之介の手作りだというところが良い。


「ほい」
「………ん」


箸で摘んだ玉子焼きを差し出される。いわゆる「はい、あーん」というやつだ。鎌之介は特に意識していないようだが、才蔵はいつもこれが照れくさかった。別に誰にも見られていないのだが、何だか気恥ずかしく感じるのだ。しかしせっかくの好意を無駄にはしたくない。それに嬉しいのは間違いないのだ。才蔵は大人しく甘受する。玉子焼きは文句なしに美味しかった。


「あー! 才蔵ずっるーい!」
「げほっ」


突然聞こえた身に覚えがありすぎる声に才蔵は玉子焼きを喉に詰まらせかける。慌てて水で流し込んで屋上の入口を睨めばそこにはむぅと頬を膨らませたクラスメートが仁王立ちしていた。


「伊佐那海!? 何でお前がここにいるんだよ!?」
「アナが才蔵と鎌之介がここにいるって教えてくれたの」
「はぁ? 何か用なのか?」


短いスカートを靡かせながら伊佐那海は才蔵たちへと歩み寄る。そしてきらりと目を輝かせて鎌之介の傍に腰を下ろした。


「鎌之介! 私にも玉子焼きちょうだいっ」
「は?」
「伊佐那海!?」


どうやら伊佐那海は鎌之介の玉子焼きを狙いに来たらしい。そういえば以前伊佐那海に鎌之介の玉子焼きが上手いという話をしたような気がする。美味しいものに目がない伊佐那海にはとても興味を惹かれる話題だったのだろう。


「駄目に決まってんだろ!」
「何で才蔵が言うのよ! 私は鎌之介に聞いてるの。ねぇ鎌之介、いいでしょ? 今度ジュース奢るから!」
「別にまだあるし、いいけど」
「鎌之介!?」
「やったー!」


ほら、と鎌之介は才蔵にしたように玉子焼きを箸で摘んで差し出す。それをパクリと食べた伊佐那海は「んー美味しい〜!」と幸せそうに顔を綻ばせた。
才蔵はガクリと肩を落とす。鎌之介の自覚のなさが残念だった。恋人としては誰にでもそういうことはして欲しくないのだが、鎌之介は全く気にしていない。


「おら、伊佐那海。用件は済んだだろ。さっさと教室に―――」


帰れ。そう言おうとした才蔵の言葉は入口のドアがバァンと開け放たれたことで遮られた。


「伊佐那海ー! ここかー!」
「あ、お姉ちゃんいたよ〜」
「……またかよ……」


二人きりの時間が伊佐那海によって強制終了されたかと思えば今度は伊佐那海の兄と一年下のガキンチョだ。才蔵は額に手を当て眉を寄せる。何だか騒がしくなってきた。


「伊佐那海のために団子を買ってきたのだ」
「アナ先生に訊いたらここに居るっていうから来ちゃった。みんなで食べようよ!」


清海の両手には大量の団子が抱えられている。清海の肩から下りたガキンチョこと弁丸はちゃっかり鎌之介の横に陣取って団子を貪り始めた。才蔵が殺気を込めた視線を送るが弁丸はどこ吹く風とばかりに無視を決め込む。小憎たらしい後輩である。
団子を食べる伊佐那海や鎌之介を眺めながら才蔵はだんだん増えていく人数に嫌な予感を覚える。こういう展開は非常に良くない。才蔵がそう思った矢先のことだった。


「楽しそうですね」
「お前たち、あまり食べ過ぎるな。腹を壊すぞ」
「我、団子、食べる」
「……やっぱり来たか……」


教師二名に生徒一名。奇妙な取り合わせだが別段珍しいことではない。保険医の六郎に担任の十蔵、鎌之介と同じクラスの佐助は気が合うのかよく一緒にいる場面を見る。というよりは六郎や十蔵が佐助を介して鎌之介の様子を聞いているようなのだ。鎌之介は模範生ではないのだが、何故か六郎たちに人気がある。


「あ、緑だ」
「鎌之介、隣、いい?」
「おうよ。一緒に食おうぜ!」


鎌之介に笑いかけられて佐助の頬が赤く染まる。しかしばっちり隣に腰を下ろしている。全くもって抜かりのない男だ。才蔵は深い溜息を吐いた。
鎌之介は六郎に飴を貰っている。甘いものがあまり好きではない鎌之介が喜んで食べる菓子が飴だった。きっと佐助からその情報を仕入れたのだろう。嬉しそうに礼を言う鎌之介に六郎は満足気に微笑した。鎌之介の笑顔は自分だけのものだったのに。才蔵は嫉妬心がムクムクと湧き上がるのを感じた。


「この面子が揃ったということは……あのおっさんが来ないわけない、よなぁ」
「おお、正解だぜ」
「チッ! もう出やがった!」


鎌之介の周辺に揃う顔ぶれはだいたい決まっている。今までの経験からいくと鎌之介にちょっかいを出しては才蔵や六郎に叱られているあの男が来ないわけがない。何となく予想していた登場に才蔵は驚くことなく後ろを振り向く。そこには煙草をふかしてニヤリと笑う不良教師・甚八が立っていた。


「何でいんだよ!」
「アナに教えてもらった」
「またアナかよっ」


甚八は怒る才蔵を押しのけて鎌之介の正面に座る。驚いたように目を瞬く鎌之介に甚八は才蔵に見せた笑みとは全く違う、優しい笑顔を浮かべた。


「よう、鎌之介。今度俺にも玉子焼きくれよ」
「何だよ、おっさんも欲しいのか?」
「ああ」
「ずるいぞ甚八。鎌之介の玉子焼きなら是非食べたい」
「十蔵、貴方も充分ずるいですよ。鎌之介、私に作って下さい」
「それならば拙僧も欲しいな」
「じゃあオイラも!」
「我、玉子焼き、欲しい!」
「私ももう一回欲しいかもっ」

わいわいと鎌之介を取り囲む者たちの姿に才蔵はブチリと堪忍袋の緒が切れるのを感じた。基本的に才蔵は我慢強い方だが、鎌之介が関わると途端にそれは脆くなる。バッとその場から立ち上がり、才蔵は鎌之介を輪の中から引き寄せた。驚く鎌之介を背後に隠し、才蔵はビシッと伊佐那海たちを指差した。


「こいつの料理は俺のもんなんだよ! 諦めろ!」
「さ、才蔵?」
「ていうかお前ら、さっさと帰れ―――!」


二人きりの時間を奪われただけでなく、鎌之介の手料理まで約一名に奪われたのだ。才蔵は怒気を露わにして目の前にいる皆を睨み付ける。叱られた伊佐那海たちは顔を見合わせてから口々に呟いた。


「嫉妬かぁ」
「嫉妬のようだな」
「わぁ焼き餅!」
「子供ですね」
「全くだな」
「嫉妬、情けない」
「俺は別に鎌之介自身を食べさせてくれるのなら玉子焼きはいいけどな」


嫉妬心を指摘された才蔵はぐっと言葉を詰まらせる。最後の発言だけは少し種類が違ったが。好き勝手に言われまくられ、才蔵は「お前ら邪魔すんなぁぁ!」とドアの方へと皆を追い立てる。鎌之介との貴重な時間を潰された才蔵は容赦がなかった。しかしそんな才蔵の行動は既に予測済みな伊佐那海たちは軽やかに才蔵から逃げおおせる。捕まったら最後の鬼ごっこが始まった。

一人でその様子を眺めていた鎌之介はぱくりと六郎に貰った飴を食べる。いちご味の飴は甘かったがとても美味しかった。ふわりと微笑む鎌之介の頭を白い手が優しく撫でた。ぱっと振り向けば、そこに居たのは英語教師のアナだった。


「あ、金髪女」
「その呼び方止めてよね、全く」
「あいつら呼んだのお前だろ」
「あら、駄目だったかしら」


きゅっと眉を寄せて軽く睨まれたアナは肩を竦める。鎌之介は飴を咥内で転がしながら佐助を捕まえ損ねた才蔵の背中を見つめた。


「だって、あいつらが来たら才蔵が構ってくれなくなるし……」


むくれたように言う鎌之介にアナは思わず微笑む。才蔵ばかりが嫉妬をしている訳ではないのだ。鎌之介もまた、才蔵を伊佐那海たちに取られたと感じているのだろう。そのことを知っているのは自分だけなのだと思うと少なからず優越感が湧く。アナはふふふっと小さく笑いながら幼馴染に恩を売ることにした。


「それなら今度、才蔵のためにお弁当を作ってあげたらいいと思うわよ」
「才蔵に?」
「ええ。絶対喜ぶわよ」
「才蔵が……喜ぶ……」


しばらく考え込んだ鎌之介は、うん、と小さく頷いた。顔が少し赤くなっている。気恥ずかしさを感じているらしい鎌之介の頭をアナは再度撫でた。
二人の視線の先では才蔵に捕まった弁丸が清海に助けを求めている。騒がしくも和やかな昼休みに、鎌之介とアナは笑い合った。




120224


璃桜さま、リクエスト有難うございました!




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