その感情の名はすぐそこに

※ゆうきさまリクリスト
※「才鎌で鎌之介を意識し始める才蔵を面白く見てるアナと伊佐那海」





最近鎌之介はよく佐助と一緒にいる。興味があるのは佐助本人ではなく佐助が飼っている雨春という名前の動物の方らしいのだが、佐助とも何やら楽しげに話していた。

才蔵は自分の目の前で仲良さそうに笑っている佐助と鎌之介をじとーっと見つめていた。縁側に胡座を掻いて頬杖をついている才蔵は傍目から見てもイライラしている。最高に機嫌が悪そうだった。


「才蔵機嫌悪そうだね」
「そうねぇ、分かりやすくて笑えるわ」


庭でじゃれあっている佐助と鎌之介、縁側に居座り二人を睨む才蔵、そのどちらをもしっかりと観察できる場所に陣取っている伊佐那海とアナは面白そうな展開に目を輝かせていた。

はじめ鎌之介は才蔵にいつものようにヤろうヤろうと付きまとっていたのだが、そこを通りかかった佐助に気付き才蔵を放ってそちらの方に行ってしまったのだ。鎌之介がいなくなった時は意外そうな顔をしながらも清々したようにその場から去ろうとしたくせに、今では何故かその場に居座って鎌之介たちを睨んでいる。その一部始終をしっかりと見ていた伊佐那海とアナは声を必死に抑えながら爆笑した。才蔵の行動があまりにも幼稚だったからだ。


「才蔵ってばめちゃくちゃ気になるくせに何でもない風を装ってるよ」
「ま、才蔵自身、自分の気持ちには気づいてないみたいたけど」


伊佐那海やアナからしてみれば才蔵は完全に鎌之介に惚れている。最初の頃は鎌之介をうざがっていた才蔵が、最近になってやたらと鎌之介に甘くなっていたからだ。口ではウザイと言いながらも相手をしてやったり、鎌之介がおいしいと言っていた団子を土産に持って帰ってきたり。鎌之介がぱぁぁと無邪気に笑うのを嬉しそうに見つめる姿は完全に恋する青年のそれだった。


「才蔵が自覚したら面白くなりそうだよね!」
「そうねぇ……」


ちょっとお膳立てしてあげようかしら。そう呟いたアナはニヤリと小悪魔的な笑みを口元に滲ませた。


********


才蔵は最近自分の不調に気付いていた。鎌之介が自分の傍にいなかったり、別の人間と一緒にいたりすると酷く胸がざわつくのだ。そして鎌之介が傍にいれば動悸が激しくなり、身体に触れられればその部分が火でもついたかのように熱くなる。自分自身のことが分からなくなった才蔵は悶々とする。

才蔵が自分の気持ちに整理をつけようと清海に無理やり教えられた般若心経を唱えていると、どこからともなく現れたアナが佐助を連れてその場から立ち去った。当然雨春も佐助について行ったので、鎌之介は諦めたように才蔵の方へとやって来た。


「ちぇ、金髪女のせいで雨春が行っちまった」
「……………」


鎌之介は才蔵の隣に座ってブラブラと両足を動かす。白い肌に昼の日差しがあたりやたらと輝いて見える。才蔵は鎌之介を横目でチラリと窺う。屋敷内ではあの白い上着を着用していないため、鎌之介の露出度は普段よりも上がっていた。
腹だけでなく背中まで素肌が見えて、ついじっと見つめてしまう。それだけでなく、横で結わえた朱髪の間からチラリと覗くうなじに思わずドキリとする。一度意識してしまうとそこからなかなか視線が外せない。才蔵は心臓がバクバクと激しく脈動するのを感じていた。


「なぁ才蔵! ヒマだ! ヤろうぜ!」
「ばっ………!」


突然鎌之介が才蔵の方を振り向いた。ジッと見つめていたのでばっちりと目が合う。しかも顔が近い。才蔵は顔が赤くなっていないか心配だった。


「ばっかお前っ、近いんだよ!」
「はぁ? いつもこんなんだろ?」


言われてみれば確かにそうだった。こんな距離、才蔵と鎌之介にとっては日常茶飯事、特別珍しいことではない。何だか自分だけ妙に意識してしまっているようで恥ずかしい。才蔵は今すぐ逃げ出したくなった。


********


「もう、焦れったいなぁ。私なら即刻押し倒して既成事実作っちゃうのに、才蔵のへたれ!」
「伊佐那海ったら案外積極的なのね。でも恋には駆け引きも必要よ」
「アナってば格好いいー!」


依然として才蔵たちを観察している二人は才蔵が気づいていないのをいいことに好き勝手に言いまくっている。完全に今の状況を楽しんでいた。

アナは意識していなければすぐに緩んでしまう口元を手で抑えながら才蔵の方を窺う。佐助に物見を頼んで二人きりにしてみたら、予想以上に面白い展開になってきた。これで才蔵が鎌之介への気持ちに気づいたら何も言うことはないのだが、そればかりは本人が気づくのを待つしかない。
だがそれでいいと思った。あの二人はこれからもきっと一緒にいるのだから。これぐらいの速さで歩み寄っていけばいいのだ。


「さぁ伊佐那海、そろそろ行きましょう」
「えー! 今すっごくいいところなのにぃ〜」
「あの様子じゃまだまだ気づかないわよ才蔵は。…今日の夜にでも一緒の風呂にぶち込んでやろうかしら」
「何それ、アナ天才! 私手伝うよ!」


鎌之介に乗っかられるようにして迫られている才蔵に背を向けてアナと伊佐那海は夜の計画について話しながらその場を去った。


********


「なぁなぁ才蔵ー」
「ばかっ、上に乗んな!」


才蔵は迫ってくる鎌之介から身を引く。端から見れば鎌之介が才蔵を押し倒しているような格好だ。よく分からないがこの状況を誰かに見られたらまずい気がする。既にアナたちに目撃されていたことなど知らない才蔵は鎌之介の肩に手を置きグイッと自分の上から押しのけた。


「分かった! 遊んでやるから退いてくれ!」
「ほんとか!? いよっしゃあああ!」


じゃあ武器取ってくる! そう言い残して走り去っていく鎌之介の後ろ姿を見送って才蔵は深い溜息を吐く。鎌之介がいなくなって楽になるかと思ったら、今度は喪失感に襲われ胸が苦しくなった。


「くそっ、わけわかんねぇ……」


ぐしゃぐしゃと頭を掻き回して目を閉じる。佐助やアナといる時には感じないこの気持ちはいったい何なのだろうか。必死に考えるが答えが見えない。分からないなら考えても仕方ない。才蔵は嬉々としてやって来るであろう鎌之介の姿を想像し、それが嫌ではないことに驚いた。


「ついにおかしくなったか、俺……」


才蔵はさらに頭を抱えてしまった。



自分をおかしくするのが鎌之介だけだということに気づくのは、アナと伊佐那海に鎌之介が入っている風呂にぶち込まれた時だった。




120220


ゆうきさま、リクリスト有難うございました!






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