遊ばれる独占欲

※依織さまリクエスト
※「才鎌でALL/寝ている鎌を勇士が順々に見つけてみんな集まって寝顔みたりほっぺたつついたりしてたら才蔵がでてきて怒る」





穏やかな昼下がり。大した騒動もなく久々に平和な日常が上田城に訪れていた。


「うわぁー…」


弁丸は大きな目をさらに大きくして目の前の光景に見入っていた。よく相手をしてくれる清海が町に団子を買いに行ってしまったので、弁丸は一人で上田城を散策していた。何か面白いものはないのかと廊下を歩いていると、完全に寝入っている鎌之介を見つけたのだ。

鎌之介には足蹴にされたりガキガキとからかわれたりとあんまりいい思い出がないのだが、こうして大人しい鎌之介を見ていると確かに甚八が騒いでいる通りの美人である。


「確かに、きれ〜」


伏せられた睫毛は長いし軽く開いた唇は柔らかそうだ。いつの間にか傍にしゃがみ込んでじっくりと観察していた弁丸は、はっとする。すぐ目の前に鎌之介の端麗な顔があって慌てて立ち上がる。顔がどんどん赤くなるのを感じながら弁丸は頬を両手で挟んだ。


「なんか…照れる……」


からかわれている時はさほど意識していなかったがこうしてじっくりと見ていたら何だか変な気分になってしまう。急いでその場を去ろうとするが、何だかそれも惜しい気がする。弁丸は気持ち良さそうに寝ている鎌之介をじっと見下ろした。


********


清海が町に出て団子を買ってきてくれるとのことで、伊佐那海はふんふんと気分よく鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。団子が届いたら才蔵たちとお茶でもしよう。これからの計画を頭の中で立てていた伊佐那海は「ん?」と鼻歌を止めて立ち止まる。
鎌之介が廊下で寝ている。別段それは珍しいことではない。よく六郎に廊下で寝るなと怒られている姿を見かけるからだ。また寝ているところを見ると全く懲りていないらしい。伊佐那海は呆れるが、それよりも彼女の気を引いたのは鎌之介の腹部辺りに寝ころんでいる少年だった。


「弁丸くん……?」


鎌之介のお腹を枕にするようにして弁丸が眠っていた。伊佐那海は足音を立てないようにそっと近寄る。二人ともすっかり熟睡しているようで、起きる気配はなかった。


「やだ…何これ可愛い……!」


思わずにやける口元を袖で抑えて伊佐那海は二人を見下ろす。鎌之介も弁丸も可愛すぎる。今すぐ絵師を呼んできて描き写して欲しいくらいに和む光景だった。


「ん…絵師……? あっ、そうだ!」


いいことを思いついたとばかりに伊佐那海はその場から走り去った。


********


「それで私を呼んだと?」
「えへへ……」

伊佐那海に連れてこられたのは六郎だった。六郎の右目にこの光景を記録させようというのだ。
六郎はまた廊下で寝ている鎌之介にはぁぁと深い溜息を吐く。鎌之介はくーくーと小さな寝息を立てている。その幸せそうな寝顔を見ていると起こす気にはなれなかった。


「駄目…ですか?」
「………そうですね………」


不安そうな伊佐那海の視線を感じながら六郎は鎌之介たちを見下ろす。普段の暴れようが嘘みたいに静かだ。つい目元が緩んでしまう。


「こんな素敵な光景を記録しないわけにはいきませんね。私に任せなさい」
「さすが六郎さんっ! 話が分かる!」


喜ぶ伊佐那海の声援を受けながら六郎は右目に巻いた包帯を解き始めた。


********


「何これ」


アナスタシアは腰に手を当てて伊佐那海と六郎を見た。
物見から帰って来て自室に戻ろうとしたら、廊下に寝ている鎌之介と弁丸をじっと見つめている六郎と鎌之介の髪を弄って遊んでいる伊佐那海に出会ったのだ。


「あ、アナ。見て見て、鎌之介のおさげ姿!」


伊佐那海に近寄ると鎌之介の髪型が三つ編みに変わっていた。完全に遊ばれている。アナスタシアは「ふむ」と顎に手を当て思案顔になると、どこからともなく髪飾りを出してきた。


「ちょうど良かったわ。幸村様に貰ったこの髪飾り、鎌之介につけてみたかったのよ」


アナスタシアが取り出してきたのは小さな花が散りばめられた可愛らしい髪飾りだった。確かに鎌之介に似合いそうだ。目を輝かせる伊佐那海の隣に腰を下ろしたアナスタシアは六郎が見守る中、鎌之介弄りに参戦した。


********


愛する妹・伊佐那海のために大量の団子を買ってきた清海は異様な光景に目を瞬く。何かと伊佐那海と喧嘩をしている鎌之介が女性勇士二人に遊ばれていた。


「…何だこれは?」
「あっ、お兄ちゃん!遅いー!」


団子を近くにいた六郎に手渡した清海は鎌之介に近寄る。鎌之介はあれだけ髪の毛を弄られていながらも全く起きる気配を見せない。一緒に寝ている弁丸も同様だ。


「楽しそうなことをしているな」
「お兄ちゃんも混ざる?」
「おお、いいな! ほれほれ」


清海は鎌之介の傍にしゃがみ込み、白い頬をちょんちょんと指先でつつく。予想していたよりも柔らかい頬の感触に清海は「おお…っ!」と感嘆の声を洩らす。何だかとても面白い。普段清海に対して憎まれ口しか叩かない鎌之介がやたらと可愛く見える。伊佐那海と並んでいるともはや犯罪級の可愛さだった。


「伊佐那海…! お兄ちゃん、新しい道を切り開きそうだぞ…!」
「才蔵に殺されちゃうよ?」


********


一人鍛錬をしていた十蔵はヴェロニカを引き連れて歩く甚八の姿に手を止める。何やら楽しげな顔だ。また鎌之介に対して変なことをしようと企んでいるのではないかと不安になった十蔵は甚八を引き止めた。


「甚八」
「おお。どうしたよ」
「それはこちらの台詞だ。そんなに緩んだ顔をしてどこに行く?」


すると甚八はニヤリと含みのある笑いを見せて「着いてくれば分かるさ」と歩き去ってしまう。不審に思いながらも、もしまた鎌之介が襲われでもしたら大変だと十蔵は彼の後に着いて行った。




「いったい何だこの状況は!」


目の前に広がる光景に十蔵は失神するかと思った。甚八の後に着いて来た場所は勇士の部屋に続く廊下。遠目からでも人だかりが出来ているのは分かったが、まさか鎌之介を中心にして集まっているとは思ってもみなかった。しかも鎌之介は伊佐那海とアナスタシア、果ては清海にまで遊ばれている。
驚いたままその場に固まってしまった十蔵の傍を通り過ぎ、甚八は鎌之介を眺めて一言。


「やっぱいい身体してんなぁ」
「! 甚八!」


欲を孕んだその言葉に十蔵は即座に反応する。甚八が鎌之介を狙っていることなど勇士内では常識だった。十蔵が才蔵に「余計なおっさん連れてきやがって」と文句を言われたのは記憶に新しい。


「お前はまた……って、こら! 鎌之介の腹を撫で回すな!」
「何だよ、別にいいだろ腹くらい」
「いいわけあるか!」


鎌之介の露出している腹を無遠慮にも触っている甚八の手をバシンとはたき、十蔵は自分の上着を鎌之介に掛けてやる。「ちぇっ」と拗ねる甚八を一睨みしてから十蔵は弁丸にも近くにあった毛布を掛ける。
鎌之介の髪を手櫛でといていた伊佐那海がそれを見てふふふと笑った。


「何か筧さんお母さんみたいだね!」


ブッと噴き出した甚八の頭を一発はたいてから十蔵は叫ぶ。


「せめてお父さんと言え!」


********


急に走り出した雨春を追い掛けて行くと、何故か廊下に勇士が勢揃いしていた。何事かと近寄れば、どうやら寝ている鎌之介で遊んでいるらしい。雨春が鎌之介の腹の上に乗っかったので、佐助も自然と輪の中に入っていった。


「あら佐助じゃない。あなたも鎌之介で遊ぶ?」
「……否」
「なぁに? 恥ずかしがってるの?」
「い、いいい否!」
「あははっ、佐助顔真っ赤〜!」


伊佐那海に指摘された通り、佐助の顔は赤く染まっていた。慌てて否定しているが、その顔を見れば照れているのは一目瞭然である。相変わらず初な佐助にアナスタシアはくすりと微笑む。
いま集まっている勇士の中で鎌之介に一番気があるのは佐助だろう。それなのに鎌之介からは一番離れた場所にいる。どこまで奥手なんだと呆れてくるが、そこが佐助の良いところなのかも知れない。少なくとも初対面で鎌之介に同棲しないかと持ち掛けた甚八よりは良いだろう。


「佐助、いつもと違う鎌之介も可愛いでしょ?」


アナスタシアが持参してきた花柄の髪飾りをつけたまま寝ている鎌之介を佐助はじっと見つめる。これだけ騒いでおきながら一向に起きる気配をみせない鎌之介はくーくーと寝息を立てて安心しきっている。
鎌之介にもこうして安心して眠れる場所が出来たのだと思うと嬉しくなり、佐助は微笑みながら頷いた。


********


「何だこりゃ!?」


いつも自分の周りにいる鎌之介や伊佐那海がいないことに違和感を覚えた才蔵が「別に鎌之介がいないから寂しいとかそういう訳じゃないんだほんとに」と誰も聞いていないのにブツブツと呟きながら屋敷を歩いていると勇士たちがわいわいと楽しそうに集まっている。
幸村の傍にいることの多い六郎までいることに驚きながら傍に寄れば、全員が集まっている原因が呑気に眠っていた。


「鎌之介!?」
「あ、才蔵だー」
「あら遅かったわね」


何故かアナスタシアが鎌之介を膝枕していた。伊佐那海はその傍らに座って髪の毛を弄っている。弁丸は鎌之介の隣で丸まって寝ており、清海は鎌之介の頬をつついたり引っ張ったりしている。佐助は雨春の前足で清海とは反対側の鎌之介の頬をぷにぷにとつついており、六郎は何故か右目を露わにして弄られる鎌之介を見つめている。十蔵はそれを微笑ましそうに見ながら隣に座る甚八の不埒な手をはたき落としていた。


「いやいやいや可笑しいだろこれは! お前ら何してんだ!?」
「見て分からないの? 鎌之介で遊んでるのよ」


悪びれる様子もなくしれっと言ってのけるアナスタシアはどことなく今の状況を楽しんでいるようで、才蔵は眉間に皺を寄せる。自分の知らないところで鎌之介を好き勝手にされて沸々と怒りが込み上げてきた。
才蔵は弁丸をすっ転がし佐助と清海を押しのけアナスタシアの膝から鎌之介を救出する。「あ、才蔵ずるーい」伊佐那海が唇を尖らせるが才蔵はキッと睨み勇士一同を見回した。


「俺の鎌之介で遊ぶなっ! こいつに触っていいのは俺だけなんだよ!」


眠る鎌之介を抱き寄せながらそう宣言する才蔵に、一同は顔を見合わせて笑い出した。普段は鎌之介につきまとわれて嫌がっているくせに、結局鎌之介のことが好きで好きで堪らないのだろう。全くもって素直ではない。しかしそれだからこそからかい甲斐があるのだ。
鎌之介だけでなく才蔵も勇士たちに遊ばれていることに、才蔵は気づいていなかった。


「何笑ってんだよ!」
「べっつにー?」
「ふふふっ」
「素直ではないな」
「………馬鹿」
「しっかり記憶させていただきました」
「正直言えば羨ましい」
「甚八!」
「むぅぅ…寝てたのにぃ〜……」


才蔵に抱き締められた鎌之介が起きたのはそれから数分後のことだった。




120219



依織さま、リクエスト有難うございました!



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