宣戦布告、しかし恐れず

※流野さまリクリスト
※「根津に迫られてる鎌之介を才蔵がかっさらっていく」






根津甚八といえば誰もが知っている極度の女好きである。美人がいれば所構わず出向いていっては手八丁口八丁でばっちりと口説き落としている。
その彼が最近追いかけているのは同じ勇士の由利鎌之介だ。顔は文句なしの美人だし、スタイルだっていい。問題は性別が不明なことだが、甚八はそんなものはどうでもいいと思っていた。

ただひたすらに鎌之介を抱いてみたいのだ。

鎌之介のような美人はそうそういない。甚八が勢い込むのも無理はないが、いかんせん相手が悪すぎた。
以前「抱かせろ」と言ってみたところ、鎌之介に「ふざけんなぁ!」と容赦なく鎖鎌を振り下ろされた。もちろん避けたがその後にどこからともなく苦無が飛んできて甚八の頬を掠めて壁に突き刺さった。どうやら上田には鎌之介に想いを寄せる人物が多数いるらしい。甚八はかなり真剣に命の危機を考えた。

だからといって簡単に諦めるほど彼は甘くない。自由に生きることを信条としている彼にとって、鎌之助を諦めるなどという選択肢は全くなかった。むしろ障害があったほうがこういうのは燃えるのだ。

鎌之介のような気が強く血気盛んなタイプは一度手籠めにすると後は従順なものだ。じっくりと本当の快楽というものを教えてやろうではないか。思わず緩む口角を引き締めながら甚八は鎌之介の部屋へと向かう。この時間帯に鎌之介が自室にいるのは既に確認済みだ。

部屋に着き、無遠慮に障子を開ける。するとさっきまで昼寝でもしていたのか、ぼんやりとこちらを見つめる鎌之助と視線が合った。


「んあ? 海賊のおっさん……?」
「よお」


これは好都合だ。まだ眠気から覚めないのか、鎌之介は手の甲で目元をこすっている。乱れた服に潤んだ瞳。まるで誘っているようではないか。甚八ははやる気持ちを抑えて室内に足を踏み入れた。


「なんか用かよ……」
「あー、そうだなぁ……。用なら、ある」
「はぁ? 俺に一体なんの………っ?」


床に座り込んでじっと見つめてくる鎌之介の上目遣いに遂に理性が切れた。甚八は鎌之介の両手首を掴み床へと押し倒す。驚いたように目を見開くその様が余計に甚八を興奮させた。


「な、なに……?」
「……………」


寝起きのせいか身体に力が入らないらしく、鎌之介はとても大人しい。これが普段の鎌之介であるならば、速攻で腹にでも蹴りを入れられていたことだろう。しかし今は違う。状況をうまく把握できていないのか、実に無垢な瞳で甚八を見つめている。


「ああ、いい眺めだな、やっぱ」


散らばる朱髪、服の裾からのぞく白い肌。そのどれもが甚八の気分を高揚させる。今からこの身体を自分の好きなようにできるのだと想像すれば気が高ぶるのは仕方のないことだった。


「ちょ、どけよ……!」
「んー、目が完全にさえる前にヤっちまうか……」
「おい、人の話し聞いてんの!?」


やっと自分がどういう状態にあるのか理解したらしい鎌之介はじたばたと暴れるが、両手を床に拘束されている上に甚八に組み敷かれているのだ。もともと力のあるほうではない鎌之介がどう足掻いてもかなうはずがなく、その努力は無駄に終わった。


「大丈夫大丈夫。俺にまかせとけば天国が見れるぜ?」
「いらねーよそんなもん!」
「そういう強気なところがそそるんだよなぁ。大人しくしてろよ。俺が本当の快楽ってもんを教えてやるよ」


ぐっと顔を近づけてそう囁く。鎌之介は耳にかかる吐息に身体を小さく震わせる。その反応に気を良くした甚八はまずは接吻を、と更に顔を鎌之介に近づける。
やっと念願のものを手に入れることができる。甚八は上田に来て一番の高揚を感じていた。アナスタシアもいい女だが、鎌之介の魅力はそれ以上だ。

さぁ、始めようか。ニヤリと甚八が笑った瞬間、ぴたりと首に苦無が当てられた。


「………あ?」
「よぉ、根津のおっさん。何してやがんだ、ああ?」


鎌之介の上から身体を起こして背後を見る。するとそこに気配もなく立っていたのは才蔵だった。床に転がったままの鎌之介が「さいぞー!」と嬉しそうに目を輝かせる。


「何って……見りゃわかるだろ。大人の世界ってやつを教えてやろうと思ってね。お前じゃ物足りなさそうだしなぁ」
「はっ! んなことねーよ。こいつには俺で十分、あんたはそこら辺の女でも口説いてりゃいいんだよ」
「へぇ、言うじゃねぇか」
「根津のおっさんには悪りーけど、こいつは俺のもんなんだよ。こいつに触れようもんなら………」


最後まで言わずに鋭い殺気を飛ばす才蔵を甚八はふんっと鼻で笑う。自分のものを取られそうになって内心焦っているくせに。やはり子供だと甚八は溜息を吐く。自分の方が鎌之介を深い快楽に誘えるのに。
しかし鎌之介は才蔵の殺気に興奮しているようで「才蔵! ヤろうぜヤろうぜ!」と騒いでいる。どうしてそんなに才蔵の方がいいのだろうか。甚八にはそれが分からなかった。


「才蔵!」
「鎌之介」


駆け寄って来た鎌之介を難なく抱き上げた才蔵は床に胡坐を掻いている甚八を一瞥した後、ニッと笑ってその場から消え去った。さすが忍、完璧な隠形だった。
一人鎌之介の自室に取り残された甚八は煙草を取り出し火をつける。その目にあるのは強い闘争心。彼は鎌之介のことを全く諦めていなかった。


「忍が恋敵か。なかなか面白いじゃねぇか」


ギリッと煙草を噛み締めて、甚八は笑う。自由を誰よりも愛する彼はたとえ宣戦布告をされようが大人しく引き下がるような人間ではなかった。
まずどうやったら鎌之介の気を引く事ができるのか。その方法を考えながら甚八はヴェロニカを探しにその場を去った。



120218

流野さま、リクエストありがとうございました!



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