「よっ」

ある日の放課後。いつもの空き教室でぼんやり外を眺めながらお菓子を食べていると、廊下側の窓が開く音と共に誰かが声を掛けてきた。……と言っても、この教室に来る人なんて、私以外には一人しかいないんだけれど。

「恭介」

私が振り向くと恭介は笑顔を見せてくれる。振り向いて廊下に誰もいないか確認した後、慣れた動作で窓枠を乗り越えて教室へと入ってきた。

私たちが付き合い始めて以来、この教室は私だけの秘密の空き教室から私たち二人だけの秘密の空き教室になった。
……二人だけの秘密っていうのが、なんていうか少し気恥ずかしく感じてしまうのは、私がまだこの関係に慣れていないからなんだろうか。

「いいもの食べてるじゃないか」

いつもの場所――私と一つ机を挟んで向かい側に置いてある椅子だ――に座ってこちらを見る恭介の視線は、私の口元にあるポッキーに向けられていた。

「……食べる? 最後の一本、ちょっとかじっちゃったけど」
「……俺は後で食べるから、なまえが食べろよ」
「? ありがと」

後で食べるって、ポッキー、誰かに貰ったんだろうか。そんな風に考えながらもポッキーを口に運ぶけれど、それを見つめる視線が一つ。頬杖をつきながら私を見つめる恭介に、少し緊張してしまう。
――早く食べきってしまおう。
そう考えて口を進めようとすると、ふいに名前を呼ばれた。

「なまえ」

――目が合った。その瞬間、魔法にかけられたかのように動けなくなる。恭介が机に片手をついて近づいてきて。恭介の左手が私の手をとり、私の口元にあるポッキーをくわえた。触れそうで触れない距離。心臓がばくばくとうるさくて、どうにかなってしまいそう。

恭介は少し目を細めた後、一気に距離をつめた。唇と唇が触れあって、何も考えられなくなる。一瞬が、何分何秒にも感じられた。

どれくらいの間、こうしていただろうか。唇が、離れていく。少し名残惜しいと思ってしまったけれど、どうにも恥ずかしさの方が勝ってしまい恭介のことを直視できない。

「ごちそうさま」

その声に顔を上げると、微笑む恭介の顔。……どうしてこの人はこんなにも余裕なんだろう。

「ばか……」

悔しくなって悪態をついてしまう。そんな私をあやすように頭を撫でる恭介に、すぐに機嫌がよくなるなんて私も単純だなあなんて思うのだった。


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