朝のホームルームが終わった後の休憩時間、恭介と一緒に教室へと入る。席に着くと、隣の席で予習をしていたあーちゃんがにやにやしながら話しかけてきた。

「おはようなまえ、棗くん。二人揃って遅刻なんて、何してたわけ?」
「な、何してたって別に、あーちゃんが思ってるようなことは何も……」
「朝食中にいろいろあって遅くなっただけだ。真人と謙吾は一緒にいると、すぐ喧嘩始めようとするからな」
「そう? ざーんねん」

一人わたわたしていると、前の席から恭介が助け船を出してくれた。あーちゃん、今絶対楽しんでたよね……。そんな風に考えていると、大きな声と共に先生が教室に入ってきたので、思考を中断した。


「なまえ、お昼食べましょ」

午前の授業の終わりを告げるチャイムの音が鳴り、それと同時に、お弁当を手に持ったあーちゃんがこちらに笑顔を向けた。

「今日は大丈夫なんだ。じゃあ一緒に食べよ」
「ええ。最近忙しかったから久しぶりになまえと一緒に食べられるわ」
「いつも大変だね、お疲れ様」

私たちはいつも一緒にお昼を食べているけれど、あーちゃんは寮長の仕事が忙しいときは寮長室で仕事をしながら食べるようにしているから、一緒に食べるのは久しぶりだ。あーちゃんがいないときは、私は恭介たちと食べたり、お気に入りの空き教室で一人でのんびり食べたりしている。恭介たちと食べるのは楽しいし、空き教室は他に人が来ない私だけの秘密の場所だから一人でゆっくりできるしいいんだけど、やっぱり久しぶりにあーちゃんと一緒に食べられるのは嬉しい。あーちゃんも仕事から解放されたこともあって楽しそうだし。

「そういえばさっき聞いたんだけど……」




――放課後。恭介と一緒に部室へと向かう途中。

「それで、メンバーは集まってきてるの?」
「いや、まだだ。だが試合は来週末だからとっとと集めないとな……」

その言葉に、思わず足を止め恭介を見つめる。恭介はそんな私を見てすごく不思議そうな顔をしているけど。

「……え、ちょっと待って。試合は来週末って……」
「ありゃ? なまえには言ってなかったか?」
「聞いてないし、来週末って間に合うの!?」
「間に合わせるさ」

恭介はそう言ってるけど、やっぱりすごく不安だなあ……



「よし、揃ったか」

部室に五人が揃う。みんなのことを見渡してから、恭介が話し始めた。

「まず今日はみんなに先に話がある。これからの練習方針についてなんだが……」

今度は何を言い出すんだろう。そんな風に思いながらロッカーに背を預けて話を聞いていると、恭介が理樹の方を向き、言った。

「理樹をバッターとして徹底的に鍛え上げる」
「はい?」
「また、どうして」

本当、恭介は突拍子のないことを言うなあ……理樹と真人も、意味が分からないって顔してるし。鈴だけは、あんまり興味なさそうだけど。

「この中で一番ひ弱そうだからだ。そんな奴がシュアなバッティングでヒットを連ねてみろ、意外性があって、展開的に燃えるだろ」
「なんだ、また漫画の影響か?」
「さあ……」

ま、そんなところだろうなあ……

「で、鈴がピッチャーだ」
「一応理由を聞いておくが」
「無論、そのほうが展開的に燃えるからだ」
「展開ってなんの展開?」
「漫画の影響だな……」
「ばかだな、こいつは……」
「まあ、それが恭介なんだから、ね?」

無駄に自信満々な恭介の言葉に、みんなが呆れ顔で言葉を返す。でも、みんななんだかんだ言っても楽しんじゃうんだろう。――私も含めてだけど。

「じゃあ、練習を始めるぞ」

恭介の声が部室に響き渡った。



「理樹、練習するぞっ!」

さっきまでとは一変、鈴がこうしてやる気を出したのには理由がある。
あの後グラウンドへ出て練習を始めたみんなだったけれど、そこにきて鈴のノーコンが発覚。しかもマウンドからホームベースの方へまっすぐ投げるはずが、なぜか斜め四十五度の方向へと球が飛んでいくというとんでもなさ。そのあまりの暴投ぶりに、恭介から『神なるノーコン』の称号を授かってしまったからだった。

……ていうか、ボールから目を離したら今度はこっちに飛んできそうで怖いなあ……

「ボールがそっちに飛んでいったらちゃんと守ってやるから、お前は勉強に集中してろ」
「っ」

驚いて恭介の方を見る。当の恭介は、グローブをはめた左手を上げて三塁の方へと歩いて行った。
……そんなこと言われて、集中なんかできるはずないじゃんか……
赤くなった顔を隠すようにして、私は単語帳に顔を向けるのだった。


結局、恭介のことが気になってあまり集中できなかった。鈴の方は今日の練習だけでだいぶ成長したみたいで、まだまだストライクにいく確率は高くはないけれど、最初みたいに全然違う方向に球を飛ばしてしまうことはなくなった。そのおかげで、『神なる』は取ってもらえたようで。鈴のノーコン返上の日が来るのはそんなに遠くないかもしれない、なんて、ぼんやりとそんなことを考えるのだった。


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