「卵焼き、これで最後?」
「なまえ、もう一つ頼む」
「はーい」

お昼もなんとかピークを乗り切り、注文分最後の卵焼きを切り分ける。それをお皿に乗せカウンターの方に居る恭介に渡したところで、私はようやく一息をついた。

「って、なんで恭介が食べるの!?」
「お、なまえの作る卵焼きうまいな」
「あ、ありがと……ってそうじゃなくて! それ注文された分じゃなかったの?」
「いや、俺が頼んだ分だ」
「あ、そう……」

最後に出した卵焼きも生徒の分だと思ってたから、恭介が食べちゃってびっくりしたけど問題なかったみたい。でも恭介、注文してまで食べるなんて、そんなにお腹空いてたんだろうか。朝は半人前しか食べていないし、いつもならこの時間はもうお昼も食べ終わってるから、それも仕方のないことなんだけど。そういう私も、そろそろお腹空いてきたもんなあ……

「なまえ、恭介」

私がそんな風に考えていると、向こうで揚げ物の準備をしていた理樹が声を掛けてきた。

「そろそろ人も減ってきたし、交代でご飯にしよう。二人は先に食べて」
「お、いいのか? 悪いな」
「ほんと? ありがと」
「メニュー、何にする?」
「ミックスフライならすぐできるぜ」

揚げ物をしていた真人がこちらを振り返って言う。それなら丁度良いから、それにしようかな。

「あ、じゃあそれで」
「俺も同じの頼む」
「あいよ」

ミックスフライ定食が出来上がるまで、ご飯やみそ汁をよそいつつ待つ。お盆やお箸なんかは恭介が用意してくれて、全て揃ったところで二人で席に移動した。いただきます、と手を合わせ、待ちに待ったご飯に手を付け始める。うーん、ミックスフライの揚げ加減、絶妙だなあ……意外と真人って料理のセンスがあるんじゃないだろうか。

「……それにしても、お昼もなんとか乗り切れて良かったね。最初はやっぱり不安だったけど……」
「そうだな。だが実際はスムーズに進みすぎて、逆にびびっちまったぜ……。俺たち、実はこれが天職なんじゃないか?」
「あはは、なら定食屋でも開いてみる?」

恭介の言葉に冗談めいて提案をする。幼馴染五人と、それに小毬ちゃんも一緒に定食屋。自分で言って想像してみると、なんだかそれはとっても楽しそうに思えた。一方、それを聞いた恭介は少し考えた後。

「じゃあまたなまえの卵焼きが食えるってことか……そりゃいいな」
「えぇー、恭介は食べる方なの?」

真剣な顔して考えていると思えば、突拍子の無い事を言い出すんだから恭介にはいつも驚かされる。私が作った卵焼き、そんなに恭介のお気に召したんだろうか。…………もしそうなら、結構嬉しいかも。

「……ていうか、そんなに卵焼き食べたいなら普通に作ってくるよ?」

思わずそう口にしてしまってすぐに、なんだか一人で舞い上がりすぎたかな……と少しだけ後悔。

「お、ほんとか!? なまえ、その言葉忘れんなよ?」

だけどそれを聞いた恭介がすごく素直に喜んでくれるものだから、やっぱり言って良かったな、と思えた。

時折そんな風に談笑しながらご飯を食べ終え、私たちは理樹たちと交代して厨房の番へ。と言っても、もう生徒はみんなほぼ食べ終わってるからお喋りしているだけなんだけど。

「ね、真人、真人の揚げたミックスフライ、すごく美味しかったんだけど何かコツとかあるの?」

厨房のカウンターで頬杖をつき、正面の机でミックスフライを頬張る真人を眺めながらそう疑問を口にする。私のその問いに真人は一瞬箸を動かす手を止め、怪訝そうな顔をして振り返った。

「あ? んなモン勘だよ勘。…………いや待てよ……強いて言うなら鍛え上げた筋肉の賜物じゃねえか? なまえももっと筋肉付けりゃ美味いミックスフライが作れるようになるぜ」
「えぇー…………んー、でも真人の事だからそんな事だろうとは思った」
「ありがとよ」
「おまえそれ褒められてないぞ」

すかさず横から鈴のツッコミが入る。するとそれを聞いた真人が、机を叩き勢いよく立ち上がった。あ、これもしかして、まずくない?

「んだと!? 鈴、やんのか!?」
「受けて立とう……」
「え、鈴に勝負挑むんだ!?」

今度は理樹が真人にツッコミを入れる。
……うん。私今すっごく身構えたよ?
でもひとまずは安心して、ほっと胸をなで下ろす。対して鈴たちの方は、今だにお互い睨み合っているけれど。
その一触即発の雰囲気に、緊張感がピークに達しようとしたその時。

「待て待てお前ら、この試合は無効、ノーゲームだ。今の二人のランキングは鈴が四位、真人が六位だからな。鈴に挑みたければ、五位の俺を倒してからにしろ」

そう言いながら恭介が歩み寄る。そうして不敵に笑う恭介は、なんていうか……すごく悪役っぽい。一方、それを聞いた真人はならば、と恭介に向き直る。その様子に私が傍観を決めようとしたその時、傍らで今まで全く動じずにご飯を食べていた謙吾が箸を置きすっくと立ち上がった。

「お前ら、やるのは良いがもうすぐ授業が始まる。真人はまだ飯も食べ終わっていないだろう。早くしないと食いそびれることになるぞ」
「げええぇーーっ! もうそんな時間かよ! くそっ、恭介、鈴、今日のところは見逃してやるが次は容赦しねえ! 頭洗って待ってろよ!!」
「首を洗って、な」
「しかし今のせりふ、完全に負け犬のせりふだったな」

慌てて食事を再開する真人の背中に、兄妹の容赦ない言葉がクリーンヒットする。

「うおおおぉぉっ! お前ら、後で絶対覚えてろよおおおおおっ!!」

食堂に、真人の悲痛な声が響き渡った。


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