「ついたー」


メンバーで笑いながら訪れたのは、それなりに大きな一軒家。一人暮らしの老人には少し大きすぎる気がしたが、スミレは気にする風でもなくインターフォンを押した。


「すいません」

「はいはーい」


ガチャリと玄関のドアを開けたのは、至って普通の好々爺だ。


「?どちら様かな?」

「あ・・・ウツギ博士に言われて来ました」

「!やあやあー、君がスミレちゃんで・・・そっちがシズルくんかな?」

「・・・はい」

「ようこそ、遠慮せずに上がっておくれ。昨日ウツギ博士に連絡したのは、私だよ」


好々爺――ポケモンじいさんの言葉に甘え、家の中に上がる一行。


「君たちに会いたいというのは、彼だよー」

「あ、」
「!」
『成る程・・・』


案内された居間では、既にコーヒーを飲んでいる一人の老人。スミレやシズルだけではなく、キンカも彼には見覚えがあった。


「!おお!久しぶりじゃな、スミレちゃんもシズル君も!」


満面の笑みで振り向いたのは、ポケモン研究家の権威として有名な老人――オーキド博士だった。


「本当に久し振りですね、オーキド博士」

「(こくり)」

「ほらほら、二人とも突っ立っていないで椅子に座ったらどうだい?」

「ありがとうございます」


ポケモンじいさんに促され、スミレはオーキド博士の目の前、シズルはその隣に腰掛ける。エンジはスミレの頭、ズバットは肩に乗ったままで、キンカは床にスミレへ付き従うように床へ腰を降ろした。


「スミレちゃんもポケモンを持つようになったんじゃなぁ・・・。ヒノアラシにズバットか・・・そこのペルシアンは随分と鍛えられとるようじゃ」

「ヒノアラシはエンジ、ペルシアンはキンカです、博士」

「そうかそうか!む?ズバットに名はないのか?」


ぴくり、ズバットが反応したのを、スミレは視界の端に捉える。しかしズバットが何も言わないので、スミレも気付かなかった振りをした。


『スミレ、このじーさん誰?』

「ポケモン研究家の権威って有名なオーキド博士だよ。昔トキワシティ・・・ここより遠いところに住んでた時、お世話になったの」

『へー!よくわかんねーけど、すげーじーちゃんなんだな!』


エンジと言葉を交わすスミレに、オーキド博士は懐かしいものを見るように優しく目を細める。


「相変わらず、ポケモンと仲良くしとるんじゃな・・・」

「・・・そうですね」

「昔はよく野性のポッポやコラッタと遊んでたのう」

「"彼ら"に出会うまで、同年代の友達がいませんでしたから・・・」


苦笑するスミレに、オーキド博士も同じような笑みを零した。


「・・・キンカ、ちょっとエンジとズバットと・・・外で遊んできてくれないかな?」

『わかりました、お嬢様』



『行きますよ、二人とも』


スミレがこれからオーキド博士へ持ち出そうと思っている話の内容を悟ったのか、キンカが疑問符を浮かべる二匹を背中に乗せ、部屋から出て行く。
三匹の気配が家の外まで行ったことを確認したシズルがスミレの服の袖を小さく引き、合図。スミレはゆっくりと口を開いた。


「オーキド博士、彼ら・・・レッドとグリーンは、元気ですか?」

「おお、二人が旅に出とったことは知っておったの?」

「はい、引っ越した後で一度マサラに遊びに行った時、オーキド博士とレッドのお母さんに聞きましたよ」


ロケット団の活動がそこまで盛んではなかった幼少時代、スミレはトキワシティで暮らしていた。仕事であちこちへ飛び回っていたサカキは、流石に小さいスミレやシルバーを連れていけなかったのだ。

サカキと二人の子供の関係性は、ロケット団の幹部や幹部候補だった団員しか知らない。それは、常に危険が付き纏うサカキの言い付けだった。
そんなトキワシティで暮らしていた時、出会ったのがマサラタウンの二人の少年――レッドとグリーン。まだ小さすぎたシルバーを世話係のアポロに任せて、スミレは二人の少年とよく遊んでいた。
所謂、幼なじみの関係だ。


「グリーンは一度チャンピオンになってな・・・その後、レッド君がグリーンを敗って、最年少チャンピオンとなった。そのことは知っとったかね?」

「いえ・・・」

「そうか・・・グリーンは今トキワシティのジムリーダーになったんじゃ」

「グリーン、が・・・」

「うむ!このまま旅を続けていれば会うこともあるじゃろう!」

「そう・・・ですね・・・」


それは喜ばしいことでもあるのだが、自分の父親の後を幼なじみが継いでいるというのはやはり複雑だ。
しかし、そんなことを知らないオーキド博士に悟られてはいけない。スミレは精一杯の微笑みを作った。


「レッド君はチャンピオンになった途端、その権利を放棄してしまって・・・今はどこにいることやら・・・」

「行方不明、ですか?」

「いや、グリーンが何かしら知ってるようなんじゃがなぁ・・・いっつもはぐらかされてしまうんじゃ」

「ふふ、でも便りがないのは元気な証って言いますし」

「そうじゃなあ・・・うむ、レッド君のことじゃから、元気にしとるんじゃろ!」


にこやかに笑うオーキド博士へ、スミレも笑う。

ズバットやエンジに聞かせたくないのは、まさにこの二人の話だった。
キンカはともかく、ロケット団にその二人――特にレッドを良く思っている存在などいないに等しい。ズバットは、もしかしたら怒り狂ってしまうかもしれない。
エンジはまだロケット団のことすら"悪の組織"というだけで、詳しいことを知っているわけではない。旧ロケット団を壊滅に追い込んだレッドとの確執、スミレとレッドが友人関係にあり、壊滅した時に何が起こったのかなどはまだ幼い彼は知らなくていいことだと判断したのだ。


「もしも旅の途中でレッド君に会ったら、たまにはマサラタウンに帰って来るよう伝えてくれんかの?」

「勿論ですよ」


それから暫く世間話をして、オーキド博士は「今日はラジオの収録なんじゃった!」と、ポケモンじいさんの家を出て行った。(ちなみに、オーキド博士をスミレとシズルへ会わせた後、空気を読んだ彼は別室にいたらしい)

スミレも次の目的であるキキョウシティへ向かおうと、ポケモンじいさんに挨拶をして家を出れば、空の向こうから「おーい!」という声が聞こえてきた。


「・・・?」

「・・・博士、戻ってきた」

「え、なんで?」

「さぁ・・・?」


全員で首を傾げれば、オニドリルが着地し、焦った様子のオーキド博士が年寄りに見えない動作で飛び降りてスミレに近付いてきた。


「どうしました?」

「いかんいかん、話に夢中で忘れとった!スミレちゃんはラジオカードを持っとるかい?」

「持ってませんね・・・」

「なら、これをやろう!ポケギアに差し込めばラジオが聞けるから・・たまにラジオの感想とか意見があったら教えて欲しくての。旅をしているトレーナーの生の声が聞きたいんじゃ。あと、珍しいポケモンがいたら教えとくれ!」

「あ、はい。ありがとうございます」

「なんのなんの!お礼を言うのはこっちの方じゃ!わしの連絡先はこれじゃ。
では、気をつけて!スミレちゃんにとって素晴らしい旅になることを祈っとるよ!」


それだけ言い残し、「遅刻じゃー!」と慌ただしく再び飛び去っていくオーキド博士。


『・・・なんか、すげーじーさんだったなぁ』

「あー、うん。オーキド博士は忙しい人だからね」

『まぁ・・・折角ラジオカードを頂いたのですし、行きはラジオを聞いて行きませんか?』

「ん、そうだね!」




懐かしい知り合い
「・・・そういえば、オーキド博士の着信音は何にするの?」
「んっとねー・・・"ポケモン言えるかな?"!」
「・・・(うわぁ・・・)」




2011.10.02



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