――スミレが、何も喋らない。

ズバットの兄ちゃんが仲間になって、変わったじいさんにバイバイして、俺達はポケモンセンターまでやってきた。

シズルがスミレのトレーナーカード?を発行して、部屋を借りて、キンカがウツギ博士に電話を掛けに出て行った。ズバットの兄ちゃんも一緒に。

その間、俺はずーっとスミレの腕に抱かれていた。見上げた先のスミレは、さっきみたいな明るい顔じゃなくて、何て言うか・・・死んだ人みたいな顔だ。

じいさんとか、ズバットの兄ちゃんの話を、俺はちゃんと聞いてた。

――だけど、よく、わからないんだ。

スミレは、"ロケット団"は悪の組織で、悪い奴なんだって、言ってた。
でも、スミレは優しくて、面白くて、いい奴だ。一番悪くて偉い奴の娘だなんて、思えないくらい。

シズルだって、キンカだって、いい奴だとわかる。
シズルは無表情で無口でも、優しいし、親切だ。俺は"親"っていうのを知らないけど、きっちりしたキンカは、世の中でいう"父さん"みたいだって、思った。

スミレは俺も家族だって、言った。

なら、スミレは姉ちゃんで、シズルが兄ちゃんで、キンカが父さん。スミレの自慢の父さんは、もう一人の父さんだ。

タンス・・・じゃない、ランスとか、アポロとか、ラムダとか、アテナとかいう奴だって、そうなんだと思う。

スミレは、ロケット団が悪い奴だって言ったけど、俺は、もっと悪い奴を知っている。

俺をパートナーに選んで、「使えない」って言ったアイツ。いっぱい蹴られて、いっぱい殴られた。笑顔で降ってくる暴力に、『悪魔っていうのは、こんな顔なのかな』って、思った。

スミレは、言った。
そいつに、みんなで復讐してやろうって。

それがいいことじゃないのは、わかってる。
でも、それがみんなの優しさだって、理解できた。嘘臭い慰めの言葉より、すっげー嬉しかったんだ。

あのじいさんは、変だけどいい奴だと思う。
俺が"アイツ"に出会う前で、なんにも知らないで、ズバットの兄ちゃんと同じ境遇だったら、ずっとじいさんと居たと思う。
あの家は、なんだか生温くて、居心地が良かった。

でも、ズバットの兄ちゃんは言ったんだ。

――ロケット団に、帰りたい。

って。

俺には、"悪い奴"がなんなのか、よくわかんなくなった。

犯罪を犯したら、悪い奴なのか?
じゃあ、笑いながら俺を殴って捨てたアイツは、悪くないのか?

スミレにも、博士にも、ロケット団にも、夢がある。その夢が何かは、知らないけど。

夢を叶えたいって思うのは、悪いこと?

どうして、スミレとか他の奴の夢が、"善いこと"と"悪いこと"に別けられるの?

目指す場所が人と違ったら、それは悪いことなの?

誰が、どうして、そんなこと決めたの?


俺は、スミレの夢ってやつを、叶えたい。
シズルとかキンカとかズバットの兄ちゃんみたいに、同じ場所を目指したいよ。


――だから、ねぇ、スミレ。


俺はスミレの弟のシルバー?ってやつ、知らないし、何が何だかよくわかんないけど、

俺とスミレが家族なら、そいつだって家族なんだよな?

なら、探そうよ。
どうして怒ってるのか、聞きに行こうよ。

だって、そいつもさ、スミレが大事だから怒ってんだろ?


――なら、みんな一緒じゃねーか。


だって、スミレにとっては、俺達が、ロケット団が家族で、




大切なんだから
(正義とか悪とか関係なしに、俺はスミレが大事なんだ)




2011.05.17
だからお願い、泣かないで



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