スミレがヒノアラシを抱き抱えてウツギ博士の元へ行くと、博士も助手も「信じられない」という顔をした後、凄まじい勢いで喜んだ。


「スミレちゃん、君は本当にすごいね!君を信じて正解だったよ!」

「そんなことないです。ちょっと話をして、同盟を組んだだけですよ。ね、ヒノアラシ君」

『おう!』

「同盟?」

「ヒノアラシ君を捨てた"無責任なアイツを半殺し☆"同盟です」

「あはは!暴力はよくないけど、僕もそれは賛成だな」

「ウツギ博士も入隊しますか?」

「そうだね!是非入れて欲しいな!」

「では、博士は隊員No.1ですね。良かったね、ヒノアラシ君」

『お、おう・・・』


スミレの腕の中で挙動不審になっているヒノアラシは、どうやら照れてしまっているらしい。そんな彼を見て、スミレは柔らかく微笑む。


「で、ヒノアラシ君はウツギ博士に言わなきゃいけないことがあるよね?」

『・・・うん』

「?なんだい?」


首を傾げるウツギ博士。スミレが腕からヒノアラシを解放すると、彼はとてとてとウツギ博士の目の前まで歩いて行った。


『あの・・・その・・・傷だらけの俺を拾ってくれて、ありがとう。噛んだり引っ掻いたりして、ごめん』


ぺこり、頭を下げるヒノアラシ。ポケモンの言葉がわからないウツギ博士に、スミレが通訳としてヒノアラシの言葉を伝える。
すると、ウツギ博士は優しく微笑み、ヒノアラシの頭をそっと撫でた。


「気にしなくていいんだよ。あんなことをされたら、誰だって傷付くさ。君がしたのは、自己防衛だろ?
僕に悪いと思うなら、その分幸せになるんだよ。その方が、僕は嬉しい」


ただの変人だと思っていたウツギ博士だが、彼は心底人間の出来たお人よしのようだ――スミレは、ウツギ博士のイメージを心の中で塗り変えた。

しかし、撫でられているヒノアラシは恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、ぱぱっと逃げるようにスミレの足へしがみつく。


「君、照れ屋さんなんだね」

『て、照れてない!』

「はいはい」


苦笑しながら再び抱き上げてやると、ヒノアラシはほっとしたような息を吐いた。




一行が研究所へ戻ると、ウツギ博士は「ちょっと待っててね」と言って、がさがさと何かをし始める。
スミレは待つことしか出来ないので、新しい仲間の初顔合わせをしようと決めた。


「ヒノアラシ君、ちょっと大きい子達だけど、怖くないからね」

『わかった』


緊張気味なヒノアラシを左腕に抱き、ポシェットから出した二つのボールを器用に放る。出てくるのは、勿論キンカとシズル。

それを見たヒノアラシは、


『・・・・・・・・・!?』


――絶句した。
しかし、スミレは気付いていないようで、普通に声をかける。


「シズルもキンカも、空気読んでくれてありがとね」

『いいえ、お嬢様』

『・・・・・・別に』

「あ、ヒノアラシ君。こっちの礼儀正しい子がキンカで、こっちの無愛想が相棒のシズルだよ」

『お、俺、こんなポケモン見たことない・・・』

「ああ・・・二人共カントーの子だから。キンカはペルシアン、シズルはミュウツーね」


カチコチになってしまったヒノアラシの緊張をほぐすよう、スミレは優しくその頭を撫でた。


「ほら、シズルもキンカも挨拶して。これからは一緒に旅するんだから」

『はい、お嬢様。
私はペルシアンのキンカです。よろしくお願いしますね』


『こ、こちらこそ!』

『・・・・・・・・・・・・』

「・・・シズル」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

「・・・ごめんね、ヒノアラシ君。シズルは極度の人見知りなんだ・・・。でも、根は優しい子だから」

『う、うん・・・』


初顔合わせを終えた時、ちょうど良いタイミングでウツギ博士がスミレを呼んだ。
スミレは二人を放置し、ヒノアラシを抱いたままそちらへ向かう。


「はい、スミレちゃん」

「?これは何ですか?」


ピカチュウがプリントされた可愛らしい手提げを渡され、首を捻る。


「ポケモン図鑑ときのみプランターと傷薬とモンスターボールと木の実を何個かだよ」

「え!?そ、そんなに、貰えませんよ!」

「気にしないで!旅に出るトレーナーさんにはポケモン図鑑を渡すって決めてるし、他はヒノアラシと卵のお礼だよ」

「そんな・・・」

「いーからいーから。僕の気持ちなんだし」

「・・・ありがとうございます」


きのみプランターの使い方をウツギ博士が説明している時、スミレは一つのことを決めた。


「・・・で、日当たりの良い場所に置いておけばすぐに育つから」

「あ、はい。・・・あの、博士」

「ん?」

「見て頂きたいことがあります」

「?うん」


そう言うと、スミレはシズルとキンカを呼び、耳打ちする。


『・・・・・・え』

『い、いいのですか、お嬢様!』

「構わないよ。ウツギ博士がすごくいい人ってことはわかったし、何か知ってるかもしれないでしょ?」

『ですが・・・』

「何かあったら"私たち"で対処できるもん」

『・・・・・・わかりました』


スミレの言う"私たち"は、即ち"ロケット団"の意味だ。つまり、「何かがあったら、ロケット団が黙ってないよ」ということ。
無邪気な笑顔で恐ろしいことを言うスミレに、キンカは『さすが、サカキ様の娘様ですね・・・』と、妙に納得する。


「じゃあ、せーのでいくよ」

『はい』 『うん』

「せーのっ!」


スミレが声を掛けた瞬間、シズルとキンカが光に包まれ、次には人間になっていた。


!!!?


ウツギ博士は目を見開き、ヒノアラシは何が起こったのか解らないという表情をしている。


「ここここここれは、」

「これは、私たちにとって最大の秘密であり、一番の謎です」

「ひ、人に、なった・・・?」

「はい・・・シズルとキンカは、何故か人間になることが出来るんですよ。二人ともいきなり出来るようになったらしく、自分達でも何故出来るようになったのか、わからないそうです」

「君が、シズル君かい・・・?」

「・・・・・・・・・うん」

「こっちは・・・」

「ペルシアンのキンカです。改めて初めまして、ウツギ博士」

「うわあ!これは凄い発見だ・・・!ポケモンが人になれるなんて・・・!!」


興奮して自分達をじろじろと見るウツギ博士に、キンカは苦笑した。(シズルは無表情だが、少し不愉快なようだ)


「このことは、誰にも言わないで頂きたいんです。変な研究員に追いかけ回されたりしたら、困るので」

「あ、うん!わかったよ」

「それで・・・ウツギ博士はこのような現象について、何か知ってることはありませんか・・・?」

「うーん・・・僕は良くわからないけど・・・確か、シンオウの方の昔話で、"ポケモンと人間は結婚することができた"って、聞いたことがあるなあ」

「では、シンオウに向かえば手がかりがあると?」

「そうだね・・・うん、君達は旅があるだろうし、僕も調べてみるよ!一研究者として、この現象はとっても気になるからね!」

「ありがとうございます!」

「こちらこそ、素晴らしい発見に出逢わせてくれてありがとう!」


そうして、スミレ達はちょうど昼時だということで、ウツギポケモン研究所で昼食を済ませ(助手さんの作ったチャーハンはとても美味しかった)、ワカバタウンを後にする。


「本当に、ありがとうございました」

「ヒノアラシ君と卵のこと、よろしくね」

「勿論ですよ」

「じゃぁ、何かあったら連絡してねー!」


歩き出すスミレ達に、大きく手を振るウツギ博士は、まるで子供のようだ。


「初日から良い出逢いばっかりだねー」

『幸先良さそうですね』

「良い旅になりそう!」

「・・・・・・だね」

『おう!』




幸せ一歩!
(そういえば、博士が吹聴したらどうする気なのです?)
(ランス兄様に「奴隷にどうぞ」って渡すかな)
(・・・・・・・・・・・・)




2011.05.16
ウツギ博士に冷酷(笑)フラグが立ちました。



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -