「さあ、そこの装置で好きな子を選んで!」


ウツギ博士に指された装置は、卵を保管していた装置だった。
スミレが近づき、装置を開くと、三つのモンスターボールが並んでいる。


「ウツギ博士・・・」

「なんだい?」

「一つだけ、傷だらけのモンスターボールがあるんですが・・・」

「え!?」


スミレの発言に驚くと、ウツギ博士はスミレの横に並び、装置の中を覗いた。


「あ!どこに行っちゃったのかと思ったら・・・新しく入れる予定だった子と間違えて擦り替わっちゃったみたいだね」

「この子は・・・?」

「この子はね・・・トレーナーになったばかりの子が、初めて受け取った子なんだけど・・・」

言い淀むウツギ博士に、スミレは嫌な予感しかしない。


「・・・その子が旅に出てから、三日だったかな・・・所用でヨシノシティに行く途中、傷だらけで倒れているのを見つけたんだ。その子の近くには、ボールも・・・落ちてた」

「・・・つまり」

――捨てられた。


その事実に、スミレは怒りを感じ、黙って聞いていたシズルやキンカも渋い顔をしている。


「ウツギ博士・・・この中から、新しい子を選んでいいんですよね?」

「そうだけど・・・まさか、スミレちゃん!?」

「私、この子に決めました」

「で、でも、この子は今かなり人間不信になってて・・・手を近付けるだけで噛み付いてきたりするんだよ?」

「良いですよ。ほら、良く言うじゃないですか。
"一度人に飼われた鳥は、二度と独りで生きていけない"って。
この子は鳥じゃありませんけど、野生を知らず、一生何かに怯えて生きなきゃならないなんて、残酷すぎます」

「でも・・・」

「トラウマは、身体の怪我みたいに治らない。でも、辛い記憶は楽しい記憶で、悲しい記憶は喜びで上塗りすることができる・・・違いますか?」

「・・・うん・・・そうだね。スミレちゃんの言う通りだ」

「それじゃあ・・・」

「この子のこと、頼んだよ」

「ありがとうございます!」


傷だらけのボールを握りしめて喜ぶスミレを、キンカは感慨深い表情で見つめていた。


『さすがお嬢様ですね・・・』

『・・・スミレ、僕と出逢った時から、変わってない』

『マスター・・・サカキ様の元で育ったお嬢様は、善悪をきちんと理解しておりますから。表の正義も、裏の正義も』

『・・・・・・そうだね』


スミレはウツギ博士とその助手(先ほどの研究員(仮)に、傷だらけのモンスターボールに入っているポケモンと二人きりにさせてもらえるよう頼んだ。
ウツギ博士も助手も快く了解し、席を外す。キンカとシズルは、空気を読んでボールへ戻った。


「さて、と」


誰もいなくなった研究所。
ポツンと一人佇むスミレは、ボールを宙に向かって投げる。
赤い光に包まれて出てきたのは、警戒心まるだしで震えているヒノアラシだった。


「初めまして、ヒノアラシ君・・・ちゃん?」

『・・・・・・俺、オス』

「そっか、男の子なんだ。じゃぁ、ヒノアラシ君だね」

『・・・・・・俺の言葉、わかるのか?』

「うん、わかるよ」


ヒノアラシは、スミレに顔を向ける。糸目なのでわからないが、おそらく視線を合わせたのだろう。
スミレはヒノアラシの首が疲れないように、しゃがみ込んだ。


『・・・変な奴だな、お前』

「なんで?」

『・・・ボールの中で、少しだけお前の話聞いてた』

「そっか」

『同情されるのは嫌いだ。偽善者も嫌いだ』


キッと、ヒノアラシは殺気をスミレに向ける。しかし、スミレはそんな殺気もどこ吹く風。平然と微笑んでいる。


「奇遇だね。私も、同情されるのも偽善者も大っ嫌い」

『なっ・・・』

「ヒノアラシ君は、ロケット団って知ってる?」

『・・・知らない』

「三年半前に一度解散して、半年前にまた消えた悪の組織・・・ポケモンマフィアだよ」

『・・・それがどうしたってんだよ』

「私はね、そんなロケット団首領の娘なの」

『・・・は!?む、娘!?
じゃあ、お前悪い奴なんじゃねーか!』

「そうだね・・・。
・・・でもね、何が正しくて何が悪いかなんて、神様にだってわからないものなんだよ」

『・・・・・・は?』

「私たちには、私たちなりの譲れない"正義"があった。だから、戦ったの・・・負けちゃったけど、ね」

『・・・・・・・・・』

「"正義の反対は悪じゃない。また別の正義なんだ"
って、ヒロシも言ってたし」

『誰だよヒロシ』


ふっ、と、ヒノアラシが笑う。それは、スミレが初めて見たヒノアラシの笑顔。
警戒心は完全に消えていないものの、震えは止まっている。


「私は「仲間になろう」なんて、生温いことは言わない」

『・・・、・・・あぁ』

「でも、私は君を傷付けて捨てた無責任な奴に、すごく怒ってる。命に責任を持たない奴も、嫌い。悪事ばかりしていたロケット団だって、自分の仲間を捨てるようなことはしなかった」

『・・・?』

「だから、さ。
――君を捨てた無責任な奴に、一緒に復讐しない?」

『!』


ニヤリ、悪戯を企てている子供のように笑ったスミレ。
ヒノアラシは、思わず笑ってしまった。


『あはは!お前、面白い奴だな!』

「そう?」

『俺、お前のこと気に入った!復讐の旅・・・連れてってくれよ!』

「うん!シズルとキンカ・・・あ、私の仲間なんだけど、二人共協力してくれるよ、絶対。だから、そいつ見付けたら四人でフルボッコにしちゃお!」


輝かしい笑顔で洒落にならないような提案をするスミレに、ヒノアラシは僅かに冷や汗が流れるのを感じる。


『フルボッコ・・・』

「元ロケット団を舐めちゃだめだよ。目には目を、歯には歯を。やられたならば、万倍返し!」

『・・・だな!』


そうして、今ここに"無責任なアイツを半殺し☆"同盟が結成された。




アイツを半殺し☆
(さすがお嬢様・・・ロケット団の鏡です・・・)
(・・・・・・ホント、変わってない)
in ボールの中




2011.05.15
ヒロシはクレヨンしんちゃんのパパです



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