幹部四人の住んでいる家は、スミレが異世界のゲーム・ポケモンプラチナで見たような豪邸だった。
部屋は幹部全員分に、接客用の応接室、アテナが改造した地下の研究室、ラムダ専用のメイクルームと衣装室、来賓用の部屋が三つ・・・エトセトラ。
サカキがタマムシシティのゲームセンター地下に作った旧ロケット団アジト以上に、無駄がなく、素晴らしい屋敷だった。


「・・・ランス兄様」

「どうかしましたか?」

「ワカバタウンにこんな豪邸があったら、どこからどう見ても怪しいと思うんだけど・・・」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。ワカバタウンの住民に悟られぬよう、森の奥に建ってますから」


しれっとそう言ったランスだが、マシロから聞いていた情報ではロケット団がまたしても解散してから、半年しか経っていない。半年でこの豪邸を作るのは不可能だ。
アポロは万が一のことも考え、以前からこの豪邸を建設していたのだろう――スミレは自分の元世話係の用意周到さに、呆れたような笑いを漏らす。

現在、アポロを始めとした幹部達は、偽名を使い表社会の会社を立ち上げたらしい。
ポケモンの様々な効果を上げる道具や薬等の制作会社と、化粧品会社だ。
アテナの研究と、ラムダのメイク能力が幸をそうしたのだろう。
ランスは持ち前の天才的能力で、全ての執務を行っている。アポロは社長代理として、両社の経営方針担当だ。

しかし、それも表社会での地位を上げ、様々な人種と繋がりを持ち、裏社会に口出し出来ぬようにする為。
サカキが望んだ"新生ロケット団"は、本人の知らぬ所で信頼する部下が地道に行動していた。


「ここが、スミレの部屋ですよ。向かって右隣がシズル様、左隣がマシロ様です」


ここにいる幹部四人は、シズルやマシロがポケモンであるということを知らない。シズルもマシロも、幹部以上の地位にあるものと思われている。

しかし、それはそれで都合が良かった。
シズルは旧ロケット団が生み出した"遺伝子ポケモン"のミュウツーであるし、マシロは世界を生み出したとされる創造ポケモンのアルセウス。
スミレには"サカキの娘"という肩書があるので、ミュウツーは大丈夫だろう。しかし、アルセウスはさすがにごまかせない。

どうして人型になることが出来たのかは、シズルやキンカだけではなくスミレもわかっていないのだ。マシロは知っているようだが、「自分で気付くものだよ☆」と、教えてもらうことはできなかった。
(ちなみに、会議室へ登場した時のシズルの不自然さは異世界へ飛べる能力を持つ"とあるポケモン"のヘマということでごまかせた)(マシロは不服そうだったが)


「ありがとう、ランス兄様」

「いえ・・・こちらこそ、帰ってきてくださってありがとうございます。三年半、私たちはずっと探していたんですよ」

「三年・・・半?」

「ええ・・・サカキ様とスミレが去られてから三年半も経ってしまいました」


スミレは愕然とした。
みんなはそんなに変わってないな、そう思っていたら、三年半しか経っていないというのだ。
それならば、スミレの体が小さくなったことにも納得できる。向こうの世界とこちらの世界では、時間軸が違うらしい。


「・・・取り合えず、今日は泊まらせてもらうね。明日からは旅をするから」

「そんなに早く行かれるのですか?」

「"善"は急げっていうじゃない。それに、私はランス兄様ほどせっかちじゃないよ」

「・・・それにしても、」

「え?」

「考え方が随分と大人びましたね。見た目は怖いくらいに変わっていないのに」

「まぁ、ね」


ランスと別れ、部屋に入る。広い室内は、まるで高級ホテルのようだ。
スミレはふかふかのダブルベッドへ腰掛け、溜め息を吐いた。


「・・・ピカチュウポシェットが似合う年齢になっちゃったよ・・・」


呟くと同時に、部屋へノックの音が響く。


「開いてるよ」


カチャリとドアを開けたのは、隣の部屋へ通されたシズル。後ろにはマシロもいる。


「・・・明日の予定」

「あ、そうだね。じゃあ、キンカも」


ポシェットからボールを出し、宙へ投げる。猫らしいしなやかな動作で出てきたかと思えば、すぐに人化した。

シズルは荷物から取り出したティーセットを持って、一部屋一部屋に設置されている簡易キッチンへ向かう。スミレはキンカと並んでソファへ腰掛け、マシロは向かいのソファに座った。

シズルが紅茶の準備を終え、マシロの隣に移動する。
スミレは紅茶を一口飲み、口を開いた。


「今日はアールグレイ?」

「うん」

「ありがとう・・・で、明日の予定なんだけど、ワカバタウンのウツギ博士っていう人の所に行って、そのままヨシノシティのポケモンセンターでトレーナーカード発行してもらうつもり」

「その後はいかがなさいますか?」

「出来ればキキョウシティまで行って、ジム戦したいなぁ、と。ただ、ね・・・」

「どうしたのー?」

「キンカは大丈夫なんだけど、シズルってミュウツーじゃん・・・出していいのかな、って。変な噂になるのも嫌だし」

「・・・・・・確かにね」

「んー・・・でも久々にシズルと一緒に戦いたいしなぁ・・・ジムリーダーだし、いいよ・・・ね」

「チャレンジ精神、だねっ」

「だよねー・・・いざとなったらアテナ姉様に頼んで記憶消してもらえばいいし」

「お嬢様、発想が物騒ですよ。止めませんがね」


さすがロケット団元首領の手持ちだっただけある。
ここにいるメンバーにとっては、それくらい軽いことなのだ。


「マシロはどうするの?」

「僕は今までいなかった分、他の地方の様子見がてら散歩してくるよー」

「そっかぁ・・・別行動になっちゃうんだね」

「そんな寂しそうな顔しないでよ。ちょいちょい顔出しに来るし、さ」

「うん・・・」


次の日の予定も決まり、スミレ達は眠ることにした。
シズルとマシロは部屋へ戻り、キンカは原形姿で同じベッド。柔らかいキンカの毛並みを抱きしめて寝るのは、スミレの昔からの癖。

スミレは、柔らかく微笑んでいるサカキの夢を見た。




優しい夢
(父様、みんな首を長くして、貴方の帰郷を待ち侘びてるよ)




2011.05.13



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -