元ロケット団の今後へ向けての会議中、会議室へ飛び込んで来た少女――スミレにより、会議は一時中断となった。お互いがお互いに聞きたいことが多すぎるのである。
そして、今は元ロケット団側からの質問中。


「サカキ様と共にいなくなったという我々の予測は当たっていたのですね・・・」

「父様と、父様のパートナーのペルシアン・・・キンカに、シズルとマシロは、私と一緒に異世界で暮らしてたのよ」


「お嬢様・・・」


今や元ロケット団最高幹部であり、スミレが幼少から共に過ごしたアポロは、スミレを涙目で見つめる。
そんなアポロに胸を痛めつつ、彼等には残酷であるだろう事実をスミレは言葉にした。


「父様・・・サカキだけは、まだ向こうの世界にいるの。
・・・やり残したことがあるらしくて」

「・・・そう、ですか」


明らかに落胆しているようなアポロだが、スミレはスミレで、言いたいことがあった。


「アポロさんは・・・ヘルガーとデルビルを、愛してる?」


アポロは急な質問に、当たり前だというように頷いた。


「ランス兄様は・・・?」

「・・・ハッ、見てください、スミレ」


ランスのボールから出てきたのは、ゴルバットではなく、クロバット。
トレーナーに絶対の信頼を置き懐いていなければ、進化しない種族。


「・・・ランス兄様は、愛されてるんだね」

『俺の主人はランス様だけですから』


クロバットの声を聞き、スミレは心なしか安堵した。敬語口調はランスから移ったのかと思うと、可笑しくなってしまう。


「アテナ姉様と、ラムダさんも・・・元気そうだね。アテナ姉様は相変わらず綺麗だし、ラムダさんもかっこいいし」


そんなスミレの台詞に喜び、アテナとラムダは上機嫌だ。
そこまで話たところで、スミレは本題を切り出した。


「みんな、当時から今までの現状を理解できてるとは思えないから・・・ちゃんと話すね」


――サカキ率いるロケット団が解散した後、スミレとシズル、サカキとそのパートナーは異世界に飛ばされたということ。
サカキの他の手持ちは、元凶であるマシロがサカキに頼まれて逃がしたということ。
またしてもマシロの"気まぐれ"で帰郷できたこと。(幹部メンバーは擬人化のことを知らないので、マシロとシズルの名前は伏せた)

そして、サカキは――


「父様は、向こうの世界での面倒を片付けたら、こちらの世界へ来る予定よ」


――異世界。
それは、リアリストな元幹部陣にとって信じられないような事実であった。
しかし、それなりに長い付き合いをしてきた彼等は、スミレがくだらない嘘をつかぬ人間だと知っている。
様々な疑問が交差するものの、四人はスミレを信じようと思った。


「・・・もし、ね。確証が持てないのなら――キンカ」


そう呼ばれた瞬間、ピカチュウポシェットからしなやかに出てくるペルシアン。


「・・・!サカキ様の・・・!?」

「父様から譲り受けたの」


全員が沈黙する中で、スミレは父親であるサカキからの伝言を伝えた。


――私がそちらに戻ったら、ロケット団は今までとは違う方向へと動き出す。
表社会で、正式にだ。巨大な隠れみのを作る。

それまでは、お前達も普通の生活をするなり、私の意思を汲み取れなかった残党を処分するなり、意見が合わないのであれば逃げてもいい。お前達の好きなように生きろ。

・・・"我が家"を守ってくれたこと、感謝する。
私はまだ戻れない。指示が欲しいならスミレに聞け。

・・・お前達の"プライド"を忘れるな。私が戻れば、新生ロケット団の再結成だ。


スミレが話し終えると、奇妙な静寂が辺りをさまよっていた。
シズルは元から無口・無表情であるのでいいのだが、マシロまで黙ってしまっている。
疑問に感じてマシロを見上げると、口パクで「大丈夫だよ」と言った。


「・・・わかりました。それで、お嬢様はどうするおつもりですか?」

「いや、普通に旅に出るつもりだけど」

「そうで・・・え?」

「私は旅に出るよ」


スミレの台詞へ、呆然とするのはアポロだけではない。


「スミレ、何が目的ですか?」

「確固とした目的はまだ特にないけど、昔から旅に出たかったの」

「しかし・・・」

「シズルにも色んな世界を見せてあげたいし・・・シルバーにも会いたいし。ここにはいないみたいだから」


"シルバー"という名前を聞いて、ランスは閉口する。
父親であるサカキを残してきたスミレにとって、シルバーは掛け替えのない弟だ。一同は、それぞれ納得した。(ただ、アポロだけは、ラジオ塔で再会したことをスミレに言えなかった)


「では・・・次は私達の番ですね」

「ええ・・・まぁ、聞きたかったことの大体はマシロから大まかに聞き終えちゃったんだけど・・・取り合えず、ここってどこ?」

「ワカバタウンですよ。私の立ち上げたロケット団が解散し、追われる身となりましたので・・・今はこの田舎街で、生き残った幹部と、世間で"ロケット団"という認識が薄れるまで潜伏状態です。他の団員達は一般人として身分を偽り生活しています」

「潜伏・・・それ、辛いよね。軟禁みたい」

「まぁ、そうですね」

「そっか・・・うん、旅の目的、決めたよ!」

「「「「え?」」」」

「チャンピオンになって、チャンピオンの権限でアポロさん達にもっと住みいい環境を提供する!」

「「「「「「え!?」」」」」」

「あと、ロケット団を馬鹿にした奴見付けたら、潰してくる

「「「「・・・・・・・・・」」」」


一同は何も言えなかった。
ロケット団の一員であることで、正式なトレーナーになることができなかったスミレ。
しかし、ロケット団は解散し、コガネのラジオ塔事件に関わっていないので、スミレの存在を知る者は殆どいない。


「ということで、チャンピオン目指して旅に出るよ。名声がつけば、父様の新しい野望にも役立つし」

「・・・スミレ、目立つの嫌いじゃなかったっけ」

「嫌いだけど・・・しょうがないし、ね」

「・・・うん」


「さて、思い立ったらすぐ行動!」と動き出すスミレを、アテナが止めた。


「・・・アテナ姉様?」

「行動は明日にした方がいいわよー?こんな夜遅くに小さい女の子・・・しかもこんなに愛らしい子がうろちょろしたら、わるーいおじさんにさらわれちゃうわ」

「小さい・・・?」


アテナの言葉に、スミレは首を傾げる。スミレはもう成人を過ぎた、いい歳の大人の女だ。
はっ、と、何がに気がついたスミレは慌ててマシロを呼んだ。


「ま、マシロ!」

「んー?」

「もしかして、私・・・」

「んとねー・・・今の見た目だと十三歳くらいかなぁ?」

「・・・・・・うわぁ」


そんなやり取りに首を傾げたアテナへ「なんでもない」と笑い、スミレは後でマシロを問い詰めようと決めた。




まさかの事実
まさか、若返るだなんて




2011.05.13



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