――レイスが、ロケット団の早朝緊急召集で挨拶をしていた頃・・・
Side:Minaki
俺は崇拝するスイクンを追い掛け(マツバにはストーカーとか言われるけど違うからな!)(け、研究対象なんだからな!!)、今はジョウトのコガネシティで一休みしている。
――pipipipipi
昨晩泊まったホテルのベッドでぼんやりとしていた朝、ポケギアの音でふよふよしていた意識が少しばかり戻ってくる。
ベッドのサイドテーブルに置いていたポケギアを手に取り、着信相手を確認すると――"マツバ"。
俺から掛けることはしょっちゅうあるが、マツバから掛かってくることは極少と言っても過言ではないくらい、珍しい。
何か、あったのだろうか。
もしかして、彼もまた追いつづけているポケモン――ホウオウでも降り立ったというのだろうか。
俺は思考を振り切り、急いでポケギアの通話ボタンを押した。
「もしもし!マツバおいどーし『・・・った』・・・ん?」
俺の言葉を遮ってまで言った言葉は、あまりにも小さかった為、聞き取れなかった。
「マツバ・・・悪い、ハキハキ喋ってくれ」
『ミナキ君・・・レイスちゃんの家が、全焼した』
「・・・は?マジかよそれ!?レイスちゃんは無事なのか!?」
『・・・わからないんだ』
それから、マツバの話を詳しく聞くと、レイスちゃんの家はポケモンによる放火で全焼してしまったらしく、その為遺体の痕跡なども残らなかったそうだ。まさに、全焼。
レイスちゃんの父親は完全に"死亡"とされているが、隣家の人が、その晩レイスちゃんの父親と、他の男の声が聞こえた、と証言しているらしい。
「・・・つまり、レイスちゃんはその放火魔に連れてかれたって可能性もあるってことだよな・・・?」
『・・・僕は、その線が一番濃いと信じてる』
「くっ・・・そッ!!」
沸き上がる、臓が煮え繰り返りそうな程の怒り。静かに話してはいるが、恐らくはマツバも同じ心境なのだろう。
レイスちゃんは、俺とマツバが異様に気にかけていた子だ。
きっかけは、玄関に座り込み、傷だらけでか細く泣いていたレイスちゃんを、夜の散歩中だったマツバがうっかり見付けたこと。
体中、所狭しとある酷い怪我や火傷。
虐待を受けているという事実は、悲しい程に明白だった。
それでもレイスちゃんの笑顔は眩しい程に可憐で、彼女の心はまさに純白。
礼儀正しく、健気な彼女は、俺を「ミナキにぃに」、親友を「マツバにぃに」と呼び、とても懐いて、慕ってくれていた。
そんな彼女を見過ごせる筈がなく、俺達で相談した結果、マツバの家の養女として迎えようと思っていたのだ。
厄介な父親を説得するのにはかなり参ったが、最終切り札ジムリーダーの特権(+ジュンサーさんの力)で、ようやく折れてくれたところだった。
そんな矢先に――
「レイスちゃん、もうすぐ僕の妹になるんだね」
はにかみながらそう笑っていたマツバの怒りは、俺の比ではないのかもしれない。
レイスちゃん本人には知らせていなかったが、きっと彼女も喜んでくれた筈だった。
――そんな親友と大事な子の、目と鼻の先にあった幸せな未来を奪った奴。
――許せるわけが、ない。
「マツバ、お前の千里眼で見えねぇのか?」
『千里眼っていっても・・・そこまで万能じゃないよ。それに・・・』
「それに、なんだよ!」
『・・・何かに、阻まれてる』
「阻まれてる・・・?」
『レイスちゃんの居場所を見ようとしても、真っ暗なんだ。人間の仕業か、ポケモンの仕業かも、わからない』
「手掛かりゼロ。ってことか・・・」
がっくりとうなだれる俺に、マツバは言葉を続けた。
『・・・ミナキ君。僕は諦めないよ。義理だって、レイスちゃんは僕の妹になる筈だったんだ。大切な家族を奪った奴を・・・僕は、絶対に許さない』
「あぁ・・・同感だ」
普段、滅多なことじゃ怒らないマツバが、声色は静かだが、激怒している。勿論、俺も。
「取り合えず、今から速攻でエンジュ向かうから待ってろ!!」
「マツバにぃに」
「ミナキにぃに」
大切な君の笑顔は、絶対俺達が
取り戻す
(僕を敵に回したこと、後悔させてあげるから)
(俺らの大事な子奪って、ただで済むと思うなよ!?)
2011.05.03
本物の兄と愛の(?)逃避行をしたとは知らない二人