その日の早朝、最高幹部であり、現ロケット団ではトップである男――アポロ直々の緊急召集令が下った下っ端達は、皆一様に「何事だ」と不安気な表情を浮かべていた。
しかし、舞台に立つアポロはとても上機嫌なように見えるし(無表情だが)、舞台の端で腕を組んでいるアテナも、ニヤニヤしている。唯一、アテナの隣で壁にもたれかかっているラムダだけが、どことなく不機嫌そうだ。

ただ、そこに自他共に認める冷酷であり、仕事に関しては一切の妥協を許さないもう一人の幹部――ランスがいない。
彼が遅刻することなどは有り得ないし、すっぽかしなど論外だろう。

下っ端達は、ただ動揺しながら首を傾げるばかりだ。

――コンコン

その時、舞台袖に設置されている扉をノックする音が響いた。とても静かな音だったのだが、下っ端達は敏感に聞き取り、背筋を伸ばして口をつぐむ。


「遅くなりました」


入って来たのは、この場に居なかった唯一の幹部ランスと、


「・・・・・・・・・え?」


ランスの背後、団服にしっかりとしがみついている、可愛らしい服を着た子供。

先程、下っ端の内の誰かが思わず上げた小さな疑問の声を始めに、下っ端達に更なる動揺が走る。

――パンパン

はっと下っ端達が意識を戻せば、手を鳴らしただろうアポロと、いつもと変わらぬ冷酷な瞳で彼等を見下ろすランス。問題の少女は、やはりランスの後ろに隠れてしまっているようだが、ふんわりとしたスカートだけがランスの細い足からはみ出ている。


「静かになさい。今日は、新入団員の紹介に、皆さんには集まって頂きました」


しん、とするホール。
相変わらず、アテナはニヤニヤと笑い、ラムダは不機嫌そうだ。


「・・・隠れてないで、きちんと挨拶なさい」

「で、でも・・・」

「大丈夫ですよ」


隠れる少女の頭を撫でたらしいランス。彼の表情は横顔からしか伺えなかったが、"冷酷"が嘘のように柔らかい瞳だ。
口には出さないが、下っ端達の心の中はもはや混乱状態である。

意を決したのか、ランスの背後から"ぴょこ"っと効果音の付きそうな動作で現れた少女。
艶やかな常盤色のストレートロングに、シルバーグレイの大きく釣り目がちな瞳。残念なことに顔の半分は包帯で隠れてしまっているのだが、可愛らしいのは解る。
ロリータちっくな服装だったが、胸元には確かに赤く"R"の字が刻まれている。年頃は、およそ十にも満たないだろう。


「きょ、今日から、ロケット団の一員としてがんばります、レイスです・・・!」


きっちりと45度下げられた頭。下っ端達の混乱は頂点を極めた。


(何故、あんな子供が!?)


誰しも――特に、旧ロケット団を知る者は、そう思っただろう。見下ろしてくるランスの瞳がいつもの"冷酷"に戻っていなければ、口に出ていた筈だ。


「・・・彼女は、ここにいるランスの妹です」

(えぇえーーーー!!!?)


先程から、下っ端達の心の声は一致している。


「レイスの実力は、ここにいる幹部にも劣りません」

(マジで!!!?)
(信じらんない!!!!)

「"子供"に不満を覚えるのも仕方ありません。信じられぬと言うならば・・・――」


ここまで言って、アポロはランスに目配せした。それを察知したランスが、アポロの言葉を引き継ぐ。


「彼女・・・レイスに、真っ向勝負を挑むことです。それは私も許可します・・・が、」

――ドキィッ


下っ端達の心臓が、一気に冷えた。
口角を上げたにも関わらず、一切笑っていないランスの瞳に鋭い光が走ったからだ。


「レイスを口頭で侮辱した者には、喜んで私がお相手致しましょう」

(怖ぇえーーー!!!!)


ちなみに、そのバトルを持ち掛けてもいいという話は、ランスとレイスで決めたことだ。
"子供"に嫌悪感を抱く輩の多いロケット団。下っ端の不満を解消するには、実力差をはっきりと提示するしかない、と。


「レイスは今日からランスの部隊で働いて貰います」

(それにしても・・・)


下っ端達の間で、一つの疑問が浮上していた。


(あの団服?は、ランス様の趣味なのか・・・?)


しかし、そんな疑問もすぐに解決することになる。


「では、解散。皆さん、それぞれの任務にお戻りくださって結構です。
・・・ところで、レイス」

「は、はい!アポロさま」

「ヘッドドレスはお気に召しませんでしたか?」

「え?へっど・・・え?」

「アポロ・・・レイスは貴方の着せ替え人形じゃありませんよ。何なんですか、この団服は!」

「絶対に可愛らしいと思ったんですよ!実際、とっても似合っているし可愛いではないですか!」

「はぁ・・・・・・ロケット団が可愛くてどうするんですか・・・」

(あんただったのかー!!!?)


その緊急収集の後、下っ端の間で、アポロには"ロリータ趣味疑惑"やら、"ロリコン疑惑"が浮上し、ランスにはささやかながら"シスコン疑惑"が浮き上がった。


(俺達・・・あの人に着いてって大丈夫なんだろうか・・・)






疑惑浮上

(てゆーか、何でわたくしの部隊じゃないのよ!)

(・・・それ以前に、俺が聞かされてなかった理由ってこれか)

(アテナの部隊よりも実働隊の方がレイスは動き易いでしょうし、私の目も届きますから。アポロとラムダは論外です)

(何でだ!?)
(何故ですか!?)

(ロリコン疑惑のある二人に任せては、レイスが穢れます)




2011.05.03



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