救われませんように(幸村柳)

(真幸真前提で幸←柳か蓮華)

「柳、」

いつもだ。

「真田に伝えておいてくれないか」

「ああ、分かった」
いつものことだ。

入院してからというもの、精市は俺から弦一郎や他の部員に伝えてほしいと頼むようになった。何故だかは明々白々だったように思えるが、俺にはその事を他に漏らしてはいけない義務感のようなものがあって、気にしないように努めた。
傷つけたくなかったのだ。精市が弦一郎を。直接よりも間接的に伝える方がリスクが低い。いわば俺はクッションがわりと云った所か。その立ち位置に安定している自分を憎んだ。大切なことを真っ先に伝えてくれると考えれば肯定的であった。しかし、少し意地の悪い感情が芽生えてくるのは当然といえば当然だった。

「精市、たまには直接弦一郎に言ったらどうか」
「え…?」
「声を聞かせてやったらどうだ、きっと弦一郎も待っている」
「…」

嫌悪すべき、恥ずべき感情だった。

「柳、そんなこと言わないでくれ…困るよ」
「たまにはいいじゃないか」
「そうかな…」
「ああ、当たり前だろう」

大切なひとに嫉妬したのだった。
精市は病気から救われるべきだ。
そうであっても、この醜い思いなど救われないよう。
救われない方がどんなに楽だろうか。

03.24
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