古ぼけた我が家にいきなりやって来たフェンリル職員からあなたには偏食因子への適性があると思われますなんて言われた時、正直に言うと何で今更――二十五歳にもなった今、そんなことを言われなければならないのだろうと思った。わたしも例に漏れずフェンリルの庇護下で生きていた人間だ。そのまま何の説明もなしに本部へと連れて行かれようと文句を言える立場ではないし、ましてやゴッドイーターになることを拒絶することも出来なかったけれど。身を焼くような激痛を経て赤い腕輪を嵌め、武骨な神機を手にしたその時からずっと、わたしは逃げ出してしまいたかったのだと思う。
きっと、一生、誰にも言えないけれど。


「フライアには慣れたか?」

任務の報告を終えた頃合いを見計らったようにそう問いかけられる。振り返れば絵画のように美しい青年がすぐ後ろにいて、その迫力のある美貌を間近にしてしまったせいか、思わず身が竦んでしまった。手にした書類を覗き込むように身を屈めた彼に他意はないのだろう。振り返ったまま軽く身を引けばカウンターの縁が背に当たり、彼は不思議そうに目を瞬かせる。ああ、天然って怖い。イケメンはもっと怖い。わたしは苦笑を浮かべて、誤魔化すよう首を傾げた。

「うん、まあ…ぼちぼちってところかな」
「何か不自由なことでも?」
「そうじゃなくて、うーん。まあ、慣れるにはもう少しかかりそうってだけ。みんな優しくしてくれるし、不自由なんて全然ないよ。気にしてくれてありがとう、隊長さん」

彼は存外近いままの距離を保ったまま、軽く唇を綻ばせて囁く。

「ジュリウスと、」
「…ジュリウス」

ただ名前を呼ぶだけで満足げに微笑まれてしまっては年甲斐もなくこちらの心臓が危ないのだと、この花を背負った美青年は知っているのだろうか。いや、知っていたら知っていたでちょっと嫌だけども。
彼――ジュリウス・ビスコンティは、この度わたしが配属されたブラッドと言うゴッドイーター部隊の隊長である。二十歳と年若く、言うまでもなくわたしより年下なジュリウスだが、ゴッドイーターとしては新人であるわたしなんか足元にも及ばない実力の持ち主だ。人を率いる才能、他を圧倒するカリスマ性、卓越した戦闘技術に鍛え抜かれたスマートな体と――何よりこの美貌。初めてジュリウスと顔を合わせてから今に至るまで、年下であるはずの彼の部下となることに何ら疑問も不満も抱くことはなかった。彼は人の上に立つ器である。それに異を唱える者など、恐らくこのフライアには存在しない。

「遅くなってしまったが、任務お疲れさま。怪我はなかったか?」
「ジュリウスに鍛えてもらったおかげでね。そっちこそお疲れさま。ロミオと一緒に中型種の相手をしてたんでしょ?その様子ならロミオも大丈夫だろうけど、二人とも怪我はしてない?」
「ああ、俺もロミオも平気さ。ロミオなんて任務が終わってすぐに見たい番組があるとかで、モニターに直行していたぞ」

互いの任務に立つ前のこと、今日はユノのライブ中継があるからそれまでには絶対に終わらせてやる!と息巻いていたロミオを思い出して笑いをこぼす。きっと今もモニターに張り付いたまま、テレビの中の歌姫に魅了されていることだろう。全く可愛らしい少年である。
ジュリウスも釣られたように笑いをこぼしたのを確認して、そろそろ頃合いかと背を預けていたカウンターからそっと体を離した。必然的にジュリウスとの距離が少しだけ縮まる。それに内心気まずく思うわたしとは対照的に、彼は顔色も、ましてや距離を変えることもない。頼むから少しくらい動じてくれイケメン。わたしはそう苦々しく思いながら、笑顔を取り繕った。

「そ、それじゃわたし、ラケル博士にこの書類提出しなきゃいけないから…」
「ああ、それならちょうど良い。俺もラケル博士に用があったんだ。行こうか、なまえ」
「…うん」

ある意味呆気なくジュリウスは踵を返した。それにほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、頷いてしまった以上は歩き出したジュリウスの後を追うしかない。遠くに聞こえる歌声と歓声を恨めしく思いながら、ずっとわたしの後ろで意味あり気な視線を送っていたフランちゃんから逃げるように、その広い背を追った。



これ何を思って書いたやつだっけ…?(困惑)
確か年上夢主が書きたいと思って書いたんだと思う。たぶん。施設育ちでもない、ましてやつい最近まで軍人でも何でもないただの一般市民だった夢主が、常に転職してえと思いながらもそれでも自分が一番年上だからと困惑しながらも奮闘したい話…だったんだと思う。た、たぶん。


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