海賊で溢れ返る薄暗い酒場に、白いコートを翻して足を踏み入れる。正義の二文字を背負うわたしの姿に気付くことなく馬鹿騒ぎをやめようとしない姿はいっそ滑稽だ。腰のホルダーに繋がる革紐を引き、触れないよう細心の注意を払いながら海楼石の手錠を取り出す。
くるりと酒場を見渡すが、わたしより遥かに体の大きな男達で溢れ返るせいか視界が悪い。別にわたしが小さいせいじゃない。そもそもわたしは小さくなんかない。確かに海軍内でもかなり小柄な方に入るだろうが、それは周りがおかしいだけでわたしは普通なのだ。舌打ちをしながら男達の間を縫い、時折ぶつかろうと全く気付かれることもなく奥へと足を進め、ようやく手配書と同じ顔を見付けた。
足音を隠すことなくその背中へと忍び寄り、下品に笑うその腕へ手錠をかける。がしゃん。その音に顔を上げても、もう遅い。
天井に向けた拳銃の引金を思いっきり引いた。

「海軍本部大佐、みょうじ・なまえです。あなた達は既に包囲されています。無駄な抵抗は諦め、大人しく投降しなさい!」

途端に窓を、扉を蹴破り現れた海兵達。一斉に向けられる銃口にようやく状況を理解した海賊達が慌てるも、既に船長は海楼石の手錠をかけられわたしの足元で力なく呻いている。
一人、また一人と海賊達は構えた武器を落としていく。腰のホルダーの手錠を数え、もう少し持って来るんだったと思いつつ、とりあえずすぐ側にいた副船長らしき男に手錠をかけた。





「いやー、相変わらず地味に鮮やかな手際でございますな!」

芋づるのように軍艦へと連行されて行く海賊達を眺めながら、隣に控える少尉の褒めたつもりなのであろう言葉にひくりと頬が引きつらせた。
地味にとは何だ、地味にとは。いや確かに毎回毎回地味な逮捕劇だろうけど、下手に民間人を巻き込んで追いかけ回すよりは何の被害もない方がいいじゃないか。
そう文句を言ってやりたいところではあるがあまりにも大人気ない。わたしが地味なのはもう仕方のないことだと、そう割り切れないわたしが悪いのだから。深くため息をこぼせば、軍曹がこちらへと駆け寄って来る。

「少尉!あの、なまえ大佐はどちらに…」
「何だ、よく目を凝らしてみたまえ。大佐なら多分きっと恐らく私の隣にいらっしゃるだろう」
「あなたそんなぼんやりとしか居場所がわかっていなかったのにわたしに話しかけてたんですか!?」

もしも本当にわたしが隣にいなかったら独り言じゃないか。いや、もしわたしがいなくてもうちの隊ならああ見えないけど少尉の隣に大佐がいるのかと思われるだけかもしれないけど。
うろたえる少尉にわざとらしくため息を吐いてみせて、目を凝らしながら体を向き直した軍曹を見上げる。

「それで、どうかしたんですか?」
「はっ、報告いたします!先程捕らえた海賊共は全員軍艦へと収容いたしました!」
「ご苦労様です。それではもうこの島に用はありませんね。補給なども既に終わらせていますし、もう一度見回りをして本部へと帰還しましょうか。少尉、わたしは見回りに出ますので軍艦の方は頼みます」
「かしこまりました。それでは大佐、お気を付けて」
「ありがとうございます。二、三人で構わないので、手の空いている海兵はわたしについて来るよう伝えてください」

と、言ったはずなのに。

「何で隊の半分以上がわたしについて来てるんですか」

軍艦はどうした、海賊を収容してる軍艦の警備は。
目の前にずらりと並ぶ部下達を白い目で睨み上げるが、みんなしてしれっと口笛なんか吹いている。揃いも揃ってあっちやこっちに顔を向けているのは、恐らく目の前にいると言うのにわたしがどこにいるのかわからないからだろう。

「もういいです、全員戻ってください。見回りはわたし一人で行って来ます!」
「そ、そんなことは出来ません!少尉になまえ大佐から目を離すなと言われて…」
「何で少尉の命令は聞けてわたしの命令は聞けないんですか!?と言うか、既に全員わたしのこと見失ってるでしょう!」
「うっ!」

図星をつかれてうろたえる部下にふんと鼻を鳴らして踵を返す。大佐、大佐はどこだとお決まりの嘆きが聞こえるが全部スルー。いつもスルーされているのはわたしなんだからいい気味だ。
別に誰もわたしのことなんて見えていないんだし、さっさと見回って本部に帰ろう。そんな軽い気持ちで歩き出したわたしが見回りを終えて港まで戻って来れば、そこには島中を巻き込み血走った目でわたしの捜索をする部下達がいて思わず頭を抱えることになるなどまだ知らなかったのである。




オリキャラばっかで申し訳ないけど、海軍に可愛がられる地味人間夢主が書きたかったんです。青雉さんとか出したいけどあの人のキャラは未だに掴めない。
部下達が異様に過保護なのは、それこそ親子くらい年齢が離れているからです。あと夢主は能力がなければ雑魚なので自分達が見失った隙に何かあったら…!と思うといてもたってもいられない。そもそも部下はおろか誰にもそこにいることを気付かれやしないので心配し過ぎなんですが。人気があるって言うより危なっかしくて放っておけない海軍本部大佐。
そろそろ海賊と絡ませたいよー。


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