自慢ではないが、わたしは地味で存在感の薄い至って平凡な海軍本部大佐である。
どうしてそんな奴が海軍に、しかも大佐なんて大層な地位にいるのかと聞かれれば他でもない。わたしが『ジミジミの実』と言う何かもうふざけてんのかと思われるような超人系悪魔の実の能力者だからだ。
この『ジミジミの実』は読んで字の如く、能力者が地味になる実である。超人系と言えば人智を超えた能力を手に入れられるはずなのにお前やる気あんのかと突っ込みたくなる能力だが、これはこれでまあ本当に地味に役に立つ能力なのだ。おかげで別に強くも何ともないわたしが大佐なんて地位まで頂けるほどの手柄を築いたわけなのだけれど、この能力を手に入れてから、ひとつだけ困ることがあった。

「なまえ大佐ー!なまえ大佐、何処にいらっしゃいますかー!?」
「おい、そっちに大佐いたか!?」
「い、いえっ、見つかりません!」
「なまえ大佐を探せー!」

こうなってしまったわけである。
必死になってわたしを探す部下を目前に深くうなだれてため息を吐いた。わたしとしてはちょっとトイレに行くために執務室を退出したに過ぎないのだが、部下達に声をかけて行くのを忘れただけでこうなる。何しろわたしは『ジミジミの実』の能力者。あまりにも地味になり過ぎて、他人がわたしの存在を認識しづらくなってしまったのだ。

「あのー…」
「はっ、少尉!今、どこからともなくなまえ大佐の声が…!」
「何、本当か!?なまえ大佐ー!近くにいらっしゃるのなら、返事をしてくださーい!」

目の前にいるんですけど。
わたしが近くにいることはわかったのか、むしろそれだけしかわからないのか、変わらず大声を上げて捜索を続ける部下達にぴくりと頬が引きつる。彼らともそれなりの付き合いだが、この能力のことをを理解しながらもわたしが少しでも彼らの視界からいなくなるとすぐに大規模な捜索を始めてしまうのはどうにかならないのだろうか。
過保護にもほどがあるだろう。そう思いながら、すう、と息を吸い込んだ。

「あの!」
「っなまえ大佐だ!」
「おい、見付かったぞ!」
「なまえ大佐、こんなところにいらっしゃったんですか!」
「わたしはずっとあなた達の目の前にいました!気付かなかったのはそっちでしょう!」
「し、しかし、『ジミジミの実』を食べたなまえ大佐の存在に気付くことなど至難の技で…」

能力者になる前のわたしは本当にふつうの一般人だった。しかし能力者となってからはこの地味さを活用して誰にも気付かれずに海賊の背後を取って手錠をかる、ただそれを繰り返すだけでいつの間にやら海賊逮捕率ナンバーワンにまで上り詰めてしまった。恐らくこの実に出会わなければきっと一生三等兵止まりだっただろうに。しかし能力者となってからはカナヅチになったことを始め、散々な目にあってきた。
存在自体を最初からいないものとして扱われ、声を上げても気付かれず、酷い時なんかわたしがいることに気付かずわたしの悪口を言われる始末。
嫌なことまで思い出してしまった。ずり落ちたコートを羽織り直してため息を吐く。

「とにかく、何度も言いますがわたしが少しいなくなっただけでこんな大規模な捜索をするのはやめてください。センゴク元帥に怒られるのはわたしなんですよ」
「我々も理解はしているのですが、その…もしもなまえ大佐の身に何かあったらと…」
「……お気持ちは嬉しいんですけど…」

揃いも揃ってうなだれる部下達に再度ため息がこぼれる。
わたしの隊に配属された海兵達は何故か、揃いも揃って過保護である。そりゃ確かにわたしはこの能力がなければただの雑魚だ。海賊はおろかそこらへんのチンピラより弱い自信はある。そんなわたしの部下達はわたしよりも大きな体をして、わたしより厳つい顔をして、わたしより倍以上の年をしているのに、わたしがいなくなっただけでこうもパニックを起こしてしまうのだ。だからこそ庇護欲をそそるんでしょうとは、先輩であるヒナ大佐の弁である。
沈んでしまった場を改めるようにこほんとひとつ咳払い。そして軽く頭を下げた。

「まあ、わたしも…席を外すと言わずに出て行ったことは謝ります。無用な心配をかけてごめんなさい」
「い、いえ、そんな!顔を上げてください!」
「そうですよ、我々が勝手に…って、なまえ大佐ー!?」
「大佐、なまえ大佐はどこに!?」
「なまえ大佐を探せー!」
「目の前にいると何度言えばわかるんですか!話の途中でわたしを見失わないでください!」

再び捜索を始めそうな部下達を必死に止めて本日何回目かのため息。
ああ、やっぱり『ジミジミの実』なんて食べるんじゃなかった。




『ジミジミの実』か『ウスウスの実』で悩みました。まあぶっちゃけどっちも同じなんですがね。
地味人間な夢主。元から地味だったとかじゃないので、能力者になってから存在が地味になって周りにシカトされたりするのがだいぶこたえてる。酷い時は泣く。
公に姿を現さないから噂に尾ひれがついて「海賊逮捕率ナンバーワンの凄腕女大佐」だとか言われてるけど実際は異様なまでに地味なだけの雑魚。公にはちゃんと姿を現してるのに誰も認識してくれないだけなんだけどね!
部下もみんな年上だから自然と敬語な夢主。私の趣味とも言う。別に海賊に私怨があるとかじゃなくて、ただ単に海軍の事務職とかなら安定した収入貰えるよねと思って海軍に入ったけど、うっかり能力者になっちゃったもんだからいつの間にか大佐になってた。
そんな感じで部下や将校に可愛がられたり海賊捕まえたりするおはなし。


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