少女を一目見て感じたデジャヴュは、イアハートの時のそれとは圧倒的に違った。カノンノに似ているのではない。わたしは少女を見たことがある――わたしは、少女と会ったことがある。母のような枝葉の抱擁の向こう、一面の星空の中で、わたしは少女の名前を呼んだことがある。

「…カノンノ……」

誰よりも優しい花の色をした髪が、割れんばかりの喝采に靡いている。
わたし達は立ち尽くしていた。カノンノはもちろん、イアハートも、わたしも武器すら構えられずにいる。嘘だろと呆然としたように呟いたユーリさんだけが、唯一思い出したかのようにその鞘を放り投げた。
身の丈よりも大きな剣を振るって少女は笑う。花のように――花よりも鮮やかに、こぼれんばかりの慈しみをたたえて。

「あなたの力、見せてもらうね」





結果、何とか勝利した。紛れもない辛勝だった。多勢に無勢だったと言うのに、ユーリさんがあれだけ猛攻をしかけてくれていたというのに、わたし達の動揺が見て取れるだろう。もちろん勝敗が決まってすぐに三人揃って全力でユーリさんに謝った。勝てたんだから気にすんなと笑って許してユーリさんに、わたしは初めて大人と言うものを感じた。失礼過ぎる。

「それにしても、本当にカノンノやイアハートにそっくりだったな」
「本当、びっくりしちゃった…」
「どうにかしてあの子とお話出来ないかな。何だか他人だとは思えなくて…ナマエ?どうかしたの?」

あてがわれていた控室へ戻り、各々回復を終えて先ほど戦ったチャンピオンについて語り合っていた。その輪に加わらないわたしを、不思議そうにカノンノが窺う。その顔を、見慣れた顔を横目にしながら、わたしは口を開いた。

「…あの、わたし、あの子を見たことがあるの。すっかり忘れちゃってたんだけど…」
「ほ、本当に?それってどこで?」
「前にボルテックスへ行った時に…何て言うのかな、世界樹が見せてくれた記憶の中で…」

会ったことがあるんだけど、と続けるつもりだった言葉は、控室の外から聞こえた感嘆によって遮られた。

「――そなたは!我らがディセンダー!」

それは紛れもなくニアタの声だった。心を振り絞るような、魂を震わすような、聞いたことのないニアタの声。わたし達は揃って顔を見合わせてから、転がるようにして控室を飛び出す。

「ニアタ…ニアタ…なの…?」

廊下の向こう、ちょうど受付の手前辺りで、ニアタと少女は向かい合っていた。ぽつんと宙に浮くニアタの姿を認め、少女は――ディセンダーと呼ばれた彼女は、その大きな瞳を泣きそうに綻ばせた。

「迎えに来てくれたのね」

少女が感極まったようにニアタへ駆け寄るその様は、まるで物語の一幕のように感動的である。しかし、わたしは胸騒ぎと共にその光景を眺めていた。心なしか隣のカノンノの顔が青くなっていくのがわかる。わたしも釣られるように音を立てて血の気が失せていって、居ても立ってもいられず縋るようにしてユーリさんの袖を掴んだ。おい、と言う声は聞こえない。全力で聞こえない。
幽れ…いや、違う。断じて違う。だって足があるし、誓ってそんなはずはない、けれど。
ニアタのディセンダー、と言うことは、つまり。

「そなた、現身……いや、一体、どうしてこんなところに…」
「テレジアへ遊びに行こうと思ったら、おかしな力に引っ張られて、ここに飛ばされちゃったの」
「カノンノ、すまない。今の年号を教えてくれ」
「第四樹歴五十八年だよ?」

――ニアタったら変ことを聞くねと笑うこの少女は、既に滅んだパスカと言う異世界のディセンダーなのだから。


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