現代女子高生の料理レベルなんて、たかが知れていると思う。
そもそもの料理経験なんて学校の調理実習だけだし、地球にはカップラーメンや冷凍食品という体には悪いが料理が出来なくても手軽に作れる文明の利器がある。わざわざわたしが包丁を持って、料理をする必要なんてないのだ。

「だから料理が出来なくたって不思議じゃないんです!分かりましたか、ユーリさん!」
「要は全く出来ねえくせに妙なことで威張るな」
「うぐっ」

バンエルティア号の食堂といえば、ロックスさんとクレアさんが切り盛りする場所だ。
普段はその二人のお手伝いとして平等に料理当番が回ってくるのだけど、最近流行りの風邪で二人が寝込んでしまった。
結果として、今日の料理当番だったわたしともう一人に、食堂が任されたわけだけれども。

「…よりにもよってユーリさんとだなんて……」
「何か言ったか?」
「な、何も言ってませんよー」
「そっか、よりにもよって俺で残念だったな。ほら、味見係の出番だぜ」
「き、聞こえてるじゃないですか…。いただきます」

渡された小皿には、湯気を立てるミートソースが少しだけ乗っていた。ぐつぐつと音と立てる鍋を掻き回すユーリさんを窺いながら、少し冷まして口に入れる。

「どうだ?」
「…おいしいです…」
「それ言うだけでそんな屈辱的な顔されてもな」

だって、だって、何というか、負けた気がする。
あのユーリさんが、料理なんて繊細なものと掛け離れたユーリさんが。いつもわたしをいじめるか剣を振るうか、甘いものを食べてるかしかしないユーリさんが!
悔しさで唇を噛み締めながら味見係の役目を終えて、お皿洗い係の仕事を再開させる。

「ユーリさんって、どうしてそんなに料理が上手なんですか?」
「逆に俺はどうしてお前がそんなに料理が出来ないのか聞きたいぜ」
「だ、だから、地球じゃ別にわたしの年頃くらいなら作れなくても珍しくないんです!」
「そんなんでチキュウの女は嫁に行けんのか?」
「…ユーリさんだって、そんなに料理が出来ちゃお嫁さんが来てくれませんよ!」
「そりゃ残念だ」

ユーリさんの一つに結われた髪が、笑い声と一緒に揺れる。
嘘だ。ユーリさんくらいに格好良くて、強くて、本当は意外と頼りがいがあって。甘いもの好きで料理が得意なんて、そういうギャップもあって。そんなの、女の子が惚れないはずがない。
そんなことを考えていると何だかこうして食堂に二人きり、という状況が恥ずかしくなってきて、慌てて首を振る。
そんなことより、こんなんじゃ本当にお嫁に行けない。お母さんに教えてもらうべきだったと肩を落としていると。

「ナマエ」
「…な、何ですか?」
「ちょっと来い」

鍋を掻き混ぜる手を止めて、火を止めたユーリさんがわたしを手招く。
手を拭いて恐る恐る近付いてみれば、ユーリさんはおもむろに髪を結んでいた紐を解いた。広がる黒髪に見惚れていると、ユーリさんが意外と優しい仕種でわたしの右手を取る。

「予約、ってな」

赤い髪紐が、右手の薬指に結ばれた。
薬指に結ばれた蝶々に目を見開いていると、ユーリさんがその指を撫でて満足そうに笑う。

「よ、予約?予約って、え、何をですか?」
「もちろん、ナマエの」
「…は?」

呆気に取られて見上げれば、ユーリさんは髪紐が結ばれた右手の薬指に、ご丁寧に小さく音を立てて口付けた。そのまま指を絡ませられ、頬に寄せられる。

「料理なんざ出来なくたって、俺が嫁に貰ってやるさ」

だから、他の男に絆されんなよ。
ユーリさんはそう言ってまた、薬指に口付けた。
唇が触れた蝶々は、わたしの顔と同じ色。



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