今日の朝食はリリスさんお手製の、チーズリゾットだった。
バジルの香りとブラックベッパーが程よくコンソメと混ざり合い、厚切りにされたベーコンと玉ねぎがアクセント。文句なしに、おいしい。
基本的にバンエルティア号での食事は洋食中心なので、お米が出てくるとしてもリゾットかパエリアのどちらかだった。
お世話になっている身のわたしが、満足に料理も出来ないわたしが、言えることじゃないけれど。

「やっぱり朝は、炊きたての白いご飯ですよね」

でもリゾットおいしい。
わたしの言葉に頷いてくれたのは、しいなさんとすずさんだった。





始まりは別に何でもないような会話だった。
偶然にも食堂で二人と出会い一緒に朝食を取っている間に、何となく話はわたしが住んでいた国の話になって。
そういえばこの二人は、服装とか名前とかがどうにも日本っぽかったっけな、と思いながら、我が家は朝はご飯派だと告げたところ。

「やはり、和食は栄養のバランスもちょうど良く摂取出来ますし」
「そうそう、肉じゃがとかおいしいよねえ!」
「焼き鮭とおみそ汁と、それから卵焼き!」
「食べ慣れてるっていうのもあるかもしれないけどさ、やっぱり」
「朝は白米に限ります」

こうなったわけだ。
食堂の隅で和食談議、むしろお米談議を始めたわたし達を、周りのみんなは珍しいメンバーが騒いでると囁き合っていた。確かにわたしとしいなさんならまだしも、そこに普段は年不相応に落ちついているすずさんが加わると、不思議なものだと思う。

「リゾットとかパエリアとかも、確かにおいしいんですけど…」
「この船で台所を預かっている方々は、どなたも料理上手ですし」
「それでもやっぱり、たまには炊きたてのご飯が食べたいんだよ」

次々に嘆息する。別に、このリゾットが嫌いというわけじゃない。リリスさんのお手製リゾットは本当においしい。本当の本当に、だ。
けれど、和食中心の生活をしていたわたしからすれば、チーズもパセリもブラックペッパーもベーコンも玉ねぎもいらないから、白いご飯が食べたいのだ。

「にしても、異世界でも和食があるなんて不思議なもんだねえ」
「わたしだってびっくりしましたよ!和食っていうのは、わたしの国の文化でしたから」
「ルミナシアでの和食はミブナの里を起源としています。世界でもよく名を知られていますが…あまり好んで食べる、という話は聞きませんね」
「特に白いご飯なんて、味も何もないって言われちまうのさ」
「白米と海苔だけで朝食は十分です」
「どうして白いご飯のおいしさがわからないのかなあ…」

再び、三人揃ってため息を吐く。
今度わたしがお手伝いする時に、さりげなくロックスさんに勧めてみるとか、どうだろうか。けれど主に体を動かす仕事をしているこのギルドで、ヘルシーであっさりとした和食は受け入れられるだろうか。わたしがここで過ごし始めてもう半年が経つけれど、未だに白米はおろか、和食が出たことすらないのに。

「お嬢ちゃん達、面白い話してるじゃないの」

おはよう、と声をかけてくれたのは、朝食の乗ったトレーを持ったレイヴンさんだった。
さりげなくわたしの隣に座った彼に、しいなさんが胡散臭げな視線を向ける。

「いきなり何だい?」
「いやね、俺様くらいの年になるとさ、和食みたいにさっぱりとしたもんが好きになるのよ。必然的に、白米派に転向ってわけさ」

ぱちん、とお茶目にウインクして見せたレイヴンさんにときめいたとかではないけれど、新たな同志の存在にわたし達は色めき立った。

「何だよレイヴン!あんた、意外と話が分かる奴じゃないか!」
「確かに年齢が高くなるにつれて、和食派の方は増えていっています」
「もっと早く言ってくださいよ!やっぱり、わかる人にはわかるんですよね!」
「いやいやいや、あっはっはあっはっは」

さっきよりも食堂はざわざわとうるさい。けれどわたし達に、そんなことを気にする必要はなかった。
こうして急遽結成されたアドリビトム白米党は、お料理上手のレイヴンさんを中心に時々和食を、白いご飯を食べるという定期的な活動を今も続けている。
懐かしの味を堪能出来るわたし達はとても幸せだった。
何故だかわからないけれど、レイヴンさんはもっと幸せそうだった。



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