お気に入りのパジャマを着て、枕を抱えて。
お菓子と紅茶と、それから話の種。あとは女の子がいれば、その種は勝手に育つもの。
今夜はバンエルティア号の片隅で、パジャマパーティーが開かれる。
女の子だけの空間では、たくさんの話の種が花となっていくのだ。

「ほら、出来た!」
「素敵ね、とても可愛らしいわ」
「ナマエっち、似合ってるじゃん!」
「うん、ナマエって結んだ方が可愛いかも」
「に、似合う?カノンノもそう思う?」
「もちろん!」
「よ、よかった…」
「何々?もしかして、あたしの言葉だけじゃ不満って言うのー?」
「きゃっ!ちょ、ノーマさん苦しい!重い!」
「二人共、夜中なんだから騒がない!」

シェリアさんの一喝で、わたしの背中に乗っていたノーマさんは、不満げな顔で文句を言いつつも離れた。そしていそいそと鏡に向かい直るわたしに、ジュディスさんが微笑みかける。

「気に入ったみたいね、その髪型」
「き、気に入ったっていうか…その、ツインテールなんて、子供の頃以来だから……」
「ナマエって童顔だからツインテールも許容範囲だと思うよ?」
「許容範囲……」
「私がツインテールにしても似合わないものね」
「いや、ジュディスさんならどんな髪型でも素敵です」
「まあ、ジュディスだしね…」

アニスさんがいつもツインテールにしている黒髪は、今はジュディスさんが丁寧に梳いている。
パジャマパーティー恒例の、髪弄りだ。
女の子は、いつになってもお人形遊びのように他人の髪を弄るのが好きな生き物。いつの間にか恒例となったこれも、要はそういうことだ。
わたしの髪はシェリアさん作で、ツインテール。可愛らしい白いレースのリボンで頭の上に結われた髪は、どこか懐かしい気がする髪型だ。

「それじゃ、カノりんもツインテールにする?」
「ナマエとお揃い?」
「お揃い!ノーマさん、お願いします!」
「よっしゃ、任せて!」
「あら、それならアニスもツインテールにしようかしら?」
「えー!私だけいつもと同じじゃん!」
「大丈夫よ、任せて」
「次はシェリアさんですよー」
「ふふ、お願いね」

シェリアさんの、赤色の髪に櫛を通す。癖っ毛なのと苦笑いしていたシェリアさんの髪は、どうやって結んでみよう。
ツインテールだといつもの髪型と同じになってしまうかもしれない。でもここはツインテールにしたいし、どうすれば。
緩いウェーブを描く髪を梳きながら唸っているわたしに、ふと、シェリアさんが声をかけた。

「それで、ナマエ」
「はい?」
「その姿を見せたい人とか、いないのかしら?」

櫛を持つ手をがっしりと掴まれる。冷や汗を浮かべるわたしと対照的に、シェリアさんはにっこりと笑顔を浮かべていた。
来たか、瞬間的にそう悟る。これもパジャマパーティー恒例、恋バナ。
女の子達の大好物と言えば、甘いお菓子に恋バナと相場は決まっている。

「え、ええと…さすがにツインテールは子供っぽいので、誰にも見せたくないかなー…?」
「そういう話をしてるんじゃないの!ほら、誰かいないの?」
「じゃ、じゃあ、チェスターさんとか?」
「却下」

まさかの全員に却下された。あからさまにごまかそうとしていたのがバレたのだろう。
いつの間にかみんな手を止めて、期待するようにわたしの返答を待っている。

「そんな人いません!いないので終了!」
「させないわ、今日という今日はハッキリさせてもらうわよ!」
「ふふ、ピンチね」
「ピンチですよ!助けてください!」
「ごめんなさい、私も興味があるの。ね、カノンノもでしょう?」
「う、うん!ごめんね、ナマエ」

唯一味方になってくれそうなカノンノまで、ジュディスさんに唆された。
そんなこと言われても、いないものはいないんですよ。
そう言ったわたしの小さな呟きに、ノーマさんは目を輝かせて手を叩く。

「いないんなら、作ればいいじゃん!」
「………は?」
「ナマエっちの好きな人だよ!いないんなら作ろうってー」
「いやいやいや、作ろうってそんな簡単に」
「ノーマってばいいアイデア!」

アニスさんが悪乗りしてしまった。駄目だ、わたしの女の勘が静かに告げている。諦めろ、と。

「やっぱセネセネ!…と言いたいところだけど、そうなるとリッちゃんとクーと四角関係になっちゃうから、ジェージェーなんてどうよ?」

どうって問題じゃない。

「身長はそんなに変わりないと思うけど、お似合いなんじゃないかなー?うん、絶対お似合いだって!」

一人で納得し出したノーマさんに、呆れた顔のアニスさんが突っ込む。

「はあ?ジェイなんてまだまだお子様、ナマエにはもうちょっと大人な人がお似合いだって!例えばー、ガイとか!」

ジェイさんの次はガイさんらしい。
明日会った時どんな顔をすればいいのだろうと黄昏れ始めたわたしに構わず、アニスさんは楽しげに語る。

「ガイなんてどう?確かに女性恐怖症っていう難点はあるけど、ルーク様に重宝されてるからそれなりに将来も安泰だし。問題はあるけど、結構な優良物件じゃない?」

さすがアニスさんです、将来ときましたか。
いっそ感動すらしかけたわたしに、ジュディスさんが小首を傾げた。

「あら、それならユーリとフレンはどうかしら?片やギルド、片や騎士団だけれど、どちらも将来は期待出来るわよ」

今度はまさかの二人。

「そうね、いっそ両方を手玉に取ってみるなんて面白そうよね。彼らならそれなりに経験もあることだし、きっと楽しませてくれると思うわ」

そこはわたしじゃなくてジュディスさんならきっと素晴らしくドラマチックな絵になったんだろうなあ。
遠い目をするわたしに、シェリアさんが慌てて声を上げた。

「ふっ、二股なんてそんな不純なのは駄目よ!ナマエ、ヒスイなんてどうかしら?口は悪いけど、きっとあなたを大切にしてくれるわ」

ヒスイさんは怖いです勘弁してください。
顔を青くさせるわたしに構わず、シェリアさんはうっとりとした顔で語り出す。

「口は悪いしぶっきらぼうだしナマエも怖がってるみたいだけど、ヒスイみたいなタイプは案外、純情で奥手なのよ!ああでもそれで言うならスパーダとかも…迷うわ…」

迷わなくてもいいです。
そして最後は、カノンノの番になる。みんなの次は誰だという期待の目を向けられたカノンノは、腕を組み真剣に考え出した。
そしてふと顔を上げ、手を叩く。

「ロックスなんてどうかな?」

まさかすぎる人がきた。

「た、確かに見た目は可愛いけど、ロックスって案外男の人らしいところもあるんだよ!料理上手だし、実は強いし、ええと…」
「じゃあもうロックスさんで!」

水色のリボンで結んでしまえば完成。緩く頭の下で結んだシェリアさんのツインテールは、文句なしの出来だった。
アニスさんとノーマさんのブーイングを受けながら、これ以上は話を続ける気がないという意思表示にベッドに潜り込む。
二人のブーイングがやんだと思えば、すぐに二人分の体重がわたしにのしかかった。

「ぐえっ、ちょ、重い、重い重い重い!」
「まーだ話は終わってないぞー!」
「ガイが気に入らないなら、大佐なんてどう?」
「ジェ、ジェイドさんとは…さすがに犯罪の匂いがしてくるわ…」
「あっ、それなら、マオやジーニアスは?」
「年下ね。確かに彼らも将来有望だけど、今はまだ姉弟みたいなものじゃないかしら?」
「ちょっ、いいから!その話はもういいから、とりあえずどいてー!」

苦しいはずなのに、笑いが込み上げてくる。
パジャマパーティーは、女の子だけの秘密の夜。ここで咲いた花達は、この夜が終われば消えていく。だからこそ、今だけはこの花をたくさん咲かせたい。

まだまだ夜は長いのだからと、誰かが紅茶を啜って言った。



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