最近、エステルさんの様子がおかしい。
それに気付いたのはどうやらわたしだけじゃないらしく、彼女を守る立場のフレンさんやアスベルさんを始め、ユーリさんやリタさんも気付いていた。
アンジュさんにそれとなく窺うようにと言い付けられたわたしは、そんな彼らの視線を背負い、食堂の隅で一人食事を取るエステルさんに、思いきって声をかけた。

「あっ、あの、隣いいですか?」
「ナマエ…。はい、もちろんです。ナマエから声をかけてくれるなんて、珍しいですね」

驚いたように目を瞬かせたエステルさんは、けれどすぐに笑顔を浮かべてくれた。その笑顔も、どこか元気がない。
大人しく彼女の隣に座りさりげなくその顔を窺うが、やっぱり物憂げな色がある。
ここはへたに世間話をするよりは、早々に理由を聞いてしまった方がいいかもしれない。

「…エステルさん、最近どうしたんですか?」
「え?」
「その、元気がないように見えるから…。何かありました?」

エステルさんは躊躇うように視線を迷わせる。
その様子にやっぱり何かあったんだと確信して、促すように彼女を見つめた。
それから少しして、エステルさんが小さなため息と共に、フォークを置いた。そして、口を開く。

「…実は、依頼を登録しようと思ってるんです」
「依頼、ですか」
「はい。…でも、我ながら厄介な依頼だと思っています。私一人じゃどうにもならないので誰かの力を借りたいんですが、その誰かをこんなことに巻き込んでいいのかどうか…」

そこまで言って、エステルさんがもう一度ため息を吐く。
ちらりと窺えば、聞き耳を立てていたフレンさんとアスベルさんは今にもその依頼を受けたそうな顔をしていた。ユーリさんはそんな二人を冷たい目で見てはいるが、それでもきっとあの人も同じだろう。
込み上げる苦笑いを零していると、エステルさんが首を傾げた。

「ご、ごめんなさい。でも、そんな心配ないですよ。エステルさんの依頼なら、わたしだって受けますから」
「…ほ、本当です?」
「はい、もちろん」
「ナマエ!」

エステルさんが感激したように抱きついてきた。それを受け止めつつまた彼らを窺えば、フレンさんが苦笑いを浮かべて、アスベルさんは安堵したように胸を撫で下ろし、ユーリさんは呆れたようにため息を吐いていた。

「本当は、ナマエに受けてもらいたいって思ってたんです!」

依頼内容はまだわからないけれど、エステルさんがこんなに喜んでくれるなら。
その時のわたしは、そう思っていた。





「やっぱり、内容を知らないで受けたのね」

アンジュさんが呆れたように苦笑いを浮かべた。
渡された紙には、ルミナシアの文字で内容が書かれている。それを必死に読み辿ってみる。今こそキールさんとリフィルさんの授業を活かすのだ。

「え、ええと…。リチャード、と、ヨーデルの、様子を、見る、したい…じゃなくて、見たい、ので、踊る…会?」
「それは舞踏会、よ」
「ぶ、舞踏会…!えと、舞踏会に、も、潜る?」
「それは潜入」
「せ、潜入!」
「よく出来ました」

やりきったと満足するわたしの頭を、アンジュさんが撫でてくれた。完璧に何か微笑ましげに見られているけれど、そこは気にしないことにする。
つまりは、リチャードという人とヨーデルという人の様子を見たいので、舞踏会に潜入したい。という依頼のようだ。

「あ、ちなみにリチャード殿下とヨーデル殿下はエステルと同じく前ガルバンゾ皇帝の親戚で、彼ら三人はガルバンゾの次期皇帝の座を争っているのよ」
「……は?」
「舞踏会は一ヶ月後。それまでに、あなたを社交界でも通用するくらい、立派なレディにしてあげるからね」


「………………え?」

後悔しても、後の祭り。


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