あの後、もちろん盛大に混乱して取り乱したわたしの話を、彼女は親身になって、茶化すこともなく聞いてくれた。
わたしはルミナシアなんて知らないし、ルバーブ連山なんて場所も知らない。わたしは地球生まれの日本育ちで、魔術なんておとぎ話。わたしの話を聞いた彼女も荒唐無稽な話だからか大分困惑していたけれど、駄目押しとばかりに見せた携帯や音楽プレイヤーが決定打になった。

「もしかして、あなたは違う世界から来たんじゃないかな」

彼女が戸惑いながら告げたその事実を否定する言葉が見つからず、わたしはただ、唇を噛んだ。





彼女の話によると、ここはルミナシア。世界の中心に聳える樹、わたしがさっき見たあれが世界樹と呼ばれるもので、人々は世界樹が生み出すマナと、それを長い年月をかけて結晶化した星晶という鉱物の恩恵の元、生活している。
しかし近年、その星晶という資源を巡り、国同士での戦争が起こっているそうだ。
彼女はアドリビトムというギルド組織に所属し、戦争に破れて搾取されるだけの生活を強いられる人々のために、働いている、らしい。
何というか、完全完璧にファンタジーだった。

「だ、大丈夫?いきなりたくさん話しすぎちゃったかな?」
「い、いや、大丈夫、です」

いきなりファンタジーな情報ばかりを詰め込んだ頭は、許容範囲を超えてしまったらしい。今にも音を立てて破裂してしまいそうだ。
そんなわたしをひたすら心配してくれる彼女の、真摯さとお人好し加減には本当に恐れ入る。普通なら眉を顰るどころか、頭がおかしい人と思われても仕方ないだろうに。違う世界にやって来て、わたしを見つけてくれたのが彼女だったという幸運だけは、神様に感謝したくなった。

「ねえ、良かったら私達の船に来ない?」
「…え?」
「これからどうするかを決めるにしても、まずはこの世界を知るべきだと思うよ。帰る方法を探すにしたって、うちの船には頭の良い人もたくさんいるし、きっと力になってくれるよ!」

彼女はそう言って、最初に見た花開くような笑顔で、手を差し延べた。
足が地についていないような、漠然とした恐怖と不安が、寂しさが、彼女の笑顔に癒されていく。
震えをごまかすことなくその手を取れば、彼女は優しく微笑んだ。

「私、カノンノ・グラスバレー。あなたは?」
「ナマエ、ええと…ナマエ・ミョウジです」
「そう、ナマエ。素敵な名前だね」
「…ありがとう、ございます」

彼女の手は、とても優しく、暖かかった。


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