夢を見ていたような気がする。
けれどこう思う時のほとんどが、その夢の内容を思い出すことが出来ないので、わたしは夢のことなんてすぐに忘れてしまった。というよりも、頭から吹き飛んだ。

「虎牙破斬!」

身の丈ほどある大きな剣を振り上げ、丸くて水色をした、おたまじゃくしのようなものに振り下ろす。おたまじゃくしのようなものは、哀れにも光となって消えていった。
それを見届けた彼女は、息を整え大きな剣を鞘に仕舞うと、鮮やかなピンク色の髪を揺らして振り返った。緑色の大きな瞳が呆然と間抜けな顔をしたままのわたしを映し、途端に嬉しげに飛び上がりながらわたしの元までやって来た。

「良かった、気が付いたんだね!」

間近で見た笑顔はまるで花が開くよう。頭が状況についていけず、頷くしか出来ないわたしを心配そうな顔で覗き込む。
何ていうか、あの、いくら同性とは言え、今まで見たこともないくらいに可愛い女の子が近くにいると、緊張して、しまうんだけど、も!

「まだ動くのは駄目そうだね。もう少し休んでからの方がいいかな」
「え、や、あの、」
「大丈夫!船が迎えに来るまでまだ時間があるから、それまでは私が側にいるよ。ここは危険だからね」

美少女はそう笑顔で言うと、強引にわたしを寝かせた。
相変わらず頭が状況についていけなくて、美少女を窺う。小さく首を傾げた彼女はそれはもう本当に可愛くて癒されるけれど、問題はそこではなく彼女の背景だった。

「あ、あの…すみませんが、ここ、どこなんでしょうか…」
「え?ルバーブ連山の峠付近、だけど」
「る、るば…?」
「うん。ねえ、あれってやっぱり魔術なの?光に包まれて、空から降りてきたけど」
「え、は、…え?」

どういう、ことなんだろうか。美少女の背景には澄み渡る青空。明らかに日本になさそうな名称の山。魔術に、光。逸る心臓に急かされるように、美少女の制止を聞かずに体を起こす。
見慣れた制服に、学校指定の鞄。わたしはわたしのままだった。おかしいのは、わたしがいる場所の方。

「す、すみません、ここって日本、ですよね?」
「ええと、ニホン、って国の名前かな?」
「あ、あれ、じゃあアメリカとか?いや、そもそもこれ、夢だったり?」

美少女がわたしを落ちつけるように優しく背中を撫でてくれる。困惑した表情の彼女は、躊躇うような仕草をしてから、口を開いた。

「ここはルミナシアの、ルバーブ連山。夢じゃなくて、現実だよ」

彼女の肩越しに、とても大きな樹が見えた。
光の粒を纏った葉が優しく揺れ、囁き撫でるように、風が頬を掠めた。


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