どんなに触れ合っても、混じり合うことはない。

異世界にいるということは、すごく寂しいこと。
ルミナシアに来た当初に味わったような、地面に足がついていない浮遊感のような、形容出来ない漠然とした不安と寂しさを、今またわたしは味わっている。
違う生物だ。わたしは、ルミナシアで出会った誰とも、違う。人の形をしながらも、その中では何が起こっているのか、わたしにすらわからない。

杖を抱きしめる。
あの日、彼女から渡された武器。この世界での、居場所の証。
戦わなければいけない。
誰かのために戦って、傷付いて、まるでわたしがこの世界にいる意味を、見つけられたような。
まるでわたしが、誰かに必要とされてこの世界に存在しているような。
そんな幸せな錯覚に酔うために、わたしはまた杖を取る。
それを、居場所をくれた彼女自身が望んでいないとしても。わたしにはもう、これしかなかった。





「ナマエ、ルバーブ連山でお花取ってきたよ」

案の定、アルマナック遺跡で倒れたわたしは、人の姿に戻った暁の従者の信者達に背負われ、船に戻って来たらしい。
意識がないまま医務室と研究室をたらい回しにされ、目覚めた時にはすでに一通りの検査が終了していた。
ソフィさんが差し出したのは、小さな白い花。
コップに挿されたそれが枕元に置かれるのを見ながら、微笑む。

「お見舞いありがとうございます、ソフィさん。可愛い花ですね」
「うん。ナマエみたいでしょ?」
「…わ、わたしみたい、ですか?」

ソフィさんの指に揺らされる小さな花を見つめてみるが、わたしはこんな感じだろうか。この土のついた雑草っぽい感じがわたしっぽいのかもしれない。
わたしの複雑な胸中に気付かず、ソフィさんは首を傾げた。

「ナマエ、いつ謹慎って終わるの?」
「ええと…いつ、なんでしょうかね…。多分、アンジュさんの気分次第だと思います…」

自室のベッドに寝込んだまま、小さくなる。
検査結果を待つわたしの元に訪れたアンジュさんは、それはもう、ものすごく良い笑顔でわたしに言った。
しばらく船から出さないから、そのつもりでね。
その迫力といったら、もう。側にいたリタさんとキールさんが顔を青くしたほどだ。

「早く終わるといいね」
「…はい、本当に」
「でも無理するナマエが悪いんだから、ちゃんと反省しなきゃ駄目だよ」
「ご、ごめんなさい…」

眉を寄せて厳しい顔をしたソフィさんが、まるで子供に言い聞かせるように言う。
確かに赤い煙のこともあるのに倒れてばかりで、優しいあの人達に心配をかけてばかりだ。
研究室のメンバーはジェイドさんが加わり、わたしの色の分かれたドクメントや、生物変化を起こした人を元の姿に戻す、あの光のことを解明しようとしている。
わたしのためだ。わたしのせいだ。わたしが別の生物、だから。

「ナマエの謹慎が終わったら、一緒にお花見ようね。すごくたくさん咲いてたよ」

ソフィさんはそう笑って言うと、たどたどしくわたしの頭を撫でて部屋を出て行った。去り際に依頼頑張ってくる、と言葉を残して。
静かになった部屋。枕元に置かれた花を眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。
どうぞ、と声を返せば、静かに扉が開けられる。

「ねえ、久しぶりにお茶しない?」

紅茶の香りが部屋を包み込む。彼女の手には白いカップが二つと、おいしそうな苺のショートケーキが二つ。
どこも悪くないのに寝ているだけの生活に飽きていたので、彼女の提案は大歓迎だった。
けれど同時に、懐かしい紅茶の香りがわたしを責めるようで。
仕事がなくなってしまったな、と。ぼんやりとそう思いながら、曖昧な笑顔でカノンノを迎え入れた。


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