「きゃあっ」
「ナマエ!」
「っ、へ、平気です!」

治癒術の詠唱中、信者の攻撃で吹き飛ばされて、思いっきり壁へ叩き付けられた。噎せたように咳を繰り返し、口元を押さえれば僅かに血が着いていた。青ざめながらも乱暴に口元を拭い、再び術の詠唱を再開する。
暁の従者の信者達は、ナタリアさんが言っていたように人を超えた異様な力を持っていた。武器も持っていないのに、この威力。これが、彼らが信仰するディセンダーが与えた力。

「ナース!」
「助かります!…雷神旋風槍!」
「ぐあ…っ」

ジェイドさんの攻撃で、やっと一人が倒れた。
術を使う敵がいなくなれば、こっちのものだ。わたしと同じく後衛にいたアンジュさんが、短剣を手にジェイドさんの元に駆ける。
残念ながら杖で殴る程度しか出来ないわたしは治癒術の詠唱を中断して、魔術の詠唱を開始する。

「斬刃連牙突!」
「ロックブラスト!」
「ぐはあっ!」

地面を貫き現れた鋭い岩が信者を打ち上げ、まるで木葉のように宙を舞って地面に落ちた。
信者の息があるのを遠くから確認しつつ、治癒術を詠唱する。まだ何があるかわからない。万全の状態でいるべきだ。
光がわたし達の傷を癒して消えていき、信者達が呻きながらも立ち上がろうとする。

「く…っ、やるな!」
「だが、まだ屈しはせんぞ…」
「そ、そんな…」
「その怪我ではもう無理ですよ。大人しく諦めなさい」

ジェイドさんの声も聞こえないのか、信者達は傷だらけの体に鞭を打ちつつ立ち上がる。
今にも倒れそうな体で、どうして。

「一部の者ばかりが益を得る腐った世の仕組み。必ずやディセンダー様が打ち砕く」
「搾取のない平等で平和な世界を望んでいる者達の声のためにも、ディセンダー様をお前達に渡すわけにはいかない!」

アンジュさんは武器を構えたまま、痛ましそうに彼らを見つめる。けれどジェイドさんは、大きくため息を吐いてから彼らを睨み付けた。

「世を変えるにも、ディセンダー頼りですか。それでは何も変わりませんよ」
「っ、黙れ!」

信者が吠える。しかし次の瞬間、目を見開き痙攣のように体を震わせた。
信者達の体から、赤い靄のようなものが溢れてきたのだ。間違いなく、それはあの赤い煙。

「何だ…これは…」
「身体が、身体が…!」
「っ、やめて!」

彼らを包む赤い煙。反射的に駆け寄ろうとしたわたしは、アンジュさんに強く腕を引かれて縺れながらも立ち止まる。

「離して、離してください!」
「駄目よ!お願いだから言うことを聞いて…!」

後ろから抱きしめられるように、アンジュさんに止められる。それでもどうにか彼らに伸ばそうとした手は、ジェイドさんに掴まれた。
赤い煙が晴れた先、もうそこに人間はいない。
鈍く輝く冷たい皮膚に、濁り虚ろな赤い瞳。

「ヒィ!?な、何だっ、この姿は!!」
「…まさかあれが、生物変化現象…!?」
「ああ、何故、何故だ、何故…こんな姿に……。ラザリス様…!」
「ラ、ラザリス様…助けてください…!ディセンダー、ラザリス様!!」

信者達は顔を覆い、遺跡の奥へと駆けて行った。それが何の意味も持たないことも知らずに。
燭台に照らされた背中は鈍く濁り輝いていた。
アンジュさんがわたしを解放して、眉を寄せてため息を吐いた。

「報告では聞いていたけれど…。まさか、あんなことが本当に起きるなんて…」
「全くです。それが本質的にどんな力であったにしろ、あんなものをみすみす放置しておくわけにはいきません」

ジェイドさんも掴んだままのわたしの手を離す。気遣うようにアンジュさんがわたしの肩を優しく撫でた。わたしはそれに答えることも出来ず、ただ頷き返した。
ジェイドさんはそんなわたしを一瞥すると、再びため息を吐いて遺跡の奥へと瞳を向けた。

「仮にディセンダーが存在したとして、この世界を見たら、どう思うんでしょうねえ…」

ただひたすらに悲しい。
薄汚れた石の床に散らばる細かい屑達を踏み締めて、わたしはただ、悲しんでいた。


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