ライマ国で暴動を導引した暁の従者の信者達は人を超えた力を持ち、ディセンダーの存在を訴えて国民を煽った。そして、ライマ国民は暁の従者に煽られるまま、城を攻め落とそうとした。
ライマ国軍人であるジェイドさんとティアさんは王族であるナタリア姫を安全な場所に避難させようと、このどこの国にも属さない完全中立のギルド、アドリビトムへやって来た。
これが、彼らがここへとやって来た経緯。自然と沈痛な空気となった中、勇気を振り絞り隣に立つジェイドさんへと声をかける。

「あの、暁の従者はディセンダーについて、何て言っていたんですか?」
「そういえば、ディセンダーが降臨したとか何とか言っていましたね」
「やっぱり…!」
「暁の従者は、そのディセンダーと呼ばれる者を連れていたの?」
「そこまでは確認していません」

ジェイドさんは緩く首を横に振った。
せめてあの赤い煙だったもの、あれだけでも取り戻せれば。あれはやっぱり、人の手に渡るべきものじゃなかった。
お腹の奥から込み上げる焦燥感と罪悪感に口元を押さえると、ぽつりとナタリア姫が口を開いた。

「私達王族が至らないばかりに…」

ナタリア姫は悲しそうに瞳を伏せ、まるで自分に言い聞かせるように続けた。

「国は星晶の利権には恵まれず、国民には苦しい思いをさせてしまっていましたわ」
「そこで暁の従者が現れディセンダーを担ぎ出して救いとやらを持ち出したことで、国民の不満が爆発してしまったようですねえ」

ライマ国という名は聞いたことがなかった。キールさんの授業ではガルバンゾを始め、星晶を巡る主要国を教えてもらったが、そこには確かにライマ国の名前はなかった。
だからって、だからってそれは、ナタリア姫のせいじゃない。わたしが、わたしが悪いんだ。赤い煙が手を伸ばしてきたあの時、逆にその手を握り返していれば。
ナタリア姫にこんな顔をさせることも、あの虚ろな存在を傷付けることもなかったのに。

「でも、小さな宗教団体が大きな力を手に入れ、一つの国を没落寸前に追い込むなんて、考えられない事態よ」

アンジュさんが眉を寄せてそう呟く。

「信者が人を超えた異様な力を持っていたって、そこが気になるわ。私達も、暁の従者を追っているから」
「おや、そうでしたか。こちらでは、彼らの拠点情報を掴んでいますよ。アルマナック遺跡、という話です」
「アルマナック遺跡…」

アンジュさんを窺えば、やっぱり彼女は眉を寄せながらも、アルマナック遺跡、と小さく呟いた。
俯いたままのアンジュさんに見えるように、勢い良く手を上げた。

「わたし、行きます!」
「ナマエ?」
「それも依頼にするんでしょう?わたしが行きます!予約、です!」
「駄目よ、絶対に駄目!暁の従者だけじゃない、赤い煙だった存在もいるのよ。今は何とか生物変化が抑えられているけれど…」

アンジュさんが厳しい目でわたしを見る。負けじとわたしも意地を張って見返すけれども、彼女の厳しくもわたしを心配する目には負けてしまいそうになる。

「とにかく、ナマエのこれ以上の暁の従者及び赤い煙への接触は禁止します!いいわね?」
「よ、よくないです!」

アンジュさんは意外というか何というか、とにかく頑固で、特にわたしのことに関しては過敏だ。
リーダーとしての責任感からか、わたしを心配してくれているのか、わたしが赤い煙に関わろうとするのを良しとしない。
つんとそっぽを向いたアンジュさんに、それでも諦めきれずに唸っていると、ナタリア姫が不思議そうに首を傾げた。

「事情は存じませんが、そんなに心配ならあなたも一緒に行けば良いのではありませんの?」
「…え?」
「そうですねえ。私としてもアルマナック遺跡に行くのならば、是非とも同行させていただきたいですし。やはりやる気に溢れた人に任せるべきだと思いますよ」
「大佐、それなら私も同行します」
「ティア、あなたはナタリアの護衛でしょう。船でナタリアの側に付いていてください」

予想外な人達に、予想外な感じで支援された。
期待を込めてアンジュさんを見つめれば、きつく眉を寄せたアンジュさんが、大きなため息を吐いた。

「…わかりました。良いわよ、私もこの依頼に同行します」
「やった!…って、あ、あれ?アンジュさんって戦えるんですか?」
「もちろん。そうじゃなきゃ、このアドリビトムのリーダーなんて出来ないわ」

いや、このアドリビトムのリーダーはアンジュさんじゃなきゃ勤まらないと思う。知識とか性格とかその他色々なことで。
何はともあれ、赤い煙に再び接触出来る。
小さく拳を握れば、アンジュさんが小さくため息を吐いた。


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