魔物の断末魔が、鼓膜を貫く。
思わず耳を塞いだわたしの前で、クレスさんとイリアさんがそれぞれ自分の武器を収めていた。

「よし、これでケージを安全に運べるぞ」
「もう一仕事終えた気分になってた…」

二人に怪我がないことを確認して、杖を下ろす。早鐘を打つ心臓を深呼吸で落ちつかせていると、イリアさんが疲れきったような顔でわたしの側までやって来た。

「ナマエ、水」
「あ、はい。どうぞ」

前衛をしている二人の分の水筒は、後衛のわたしが持っている。イリアさんの分を手渡し、わたしも喉を潤した。
少しだけ暑さに火照った体が楽になった気がしてため息を吐くと、イリアさんが口元を拭いつつ、わたしに水筒を戻す。
何か言いたげな視線に首を傾げて促せば、イリアさんは腰を屈めてわたしの顔を覗き込んだ。

「あんた、大丈夫?研究室に閉じ込められてて、体鈍ったりしてない?」
「大丈夫です。足手まといにはなりませんから」
「きつくなったら言いなさいよ。あんた、砂漠は初めてでしょ?」

笑いながら頷けば、呆れたように軽く頭を小突かれた。





「あーもう、暑い!」
「うう…余計に暑くなるからやめてください…」
「二人共、あと少しでオアシスだから頑張ってくれ」

クレスさんに励まされながら魔物と戦い、オアシスを目指す。途中、暑さで錯乱したイリアさんがケージを撃とうとしたのを止めたり、クレスさんのギャグで涼しいを通り越して寒くなったりしながらも、ようやくオアシスが見えてきた。
綺麗な湖と、その周りに微かな緑達が生い茂っている。正に想像していた通りのオアシスだった。

「ふ〜…やっとオアシスね」
「な、長かった…!」
「本当よ……。さっさと済ませて帰りましょ」

頬を伝う汗を拭いながら振り向けば、クレスさんが同じように汗を拭いながらケージを引いていた手を離した。

「手順は、まず鍵を外して…。そのまま開けずにここを去ればいいんだったね」
「はい、それじゃ…」

続けようとした言葉は、生い茂る木からケージへと落ちてきた魔物に遮られる。驚いて反射的に武器を構えたわたし達の目の前で、魔物はケージに爪を立てて揺らす。

「しまった、魔物に!」
「ええっ、そんな、ど、どうしますか!?」
「決まってる!」

クレスさんの振るった剣の衝撃波が、ケージを攻撃する魔物に当たる。
悲鳴を上げ、魔物は目がこちらを見た。

「げぇっ!まさかあんたアレを追っ払う気!?」
「えええー!?こ、このまま逃げても大丈夫ですよ!」
「駄目だ!それでは依頼を完遂したことにはならない」
「な、なんつード真面目人間…。絶対結婚したくないタイプ……」
「わ、わたしも……」

いや、そういうところがクレスさんの良いところなんだけど。だからってこんな場面でその長所を発揮されても。
仕方なく精神統一を始め戦闘体制に入ろうとした時、絹を裂くような悲痛な悲鳴が響いた。

「ひいいい!何だ、何なんだよ!何が起こってるんだあああ!?」
「た、助けて、助けてくれええ!!」

思わず杖を落とす。
呆然と見開いたままの目には、魔物の爪に破壊されかけている木のケージが映っている。
聞いたことのある声がした。あの、ケージから。

「ジョアンさん…!!」

驚いて振り向いた二人に頷く。間違いない、片方の声はジョアンさんだ。
助けなきゃ。震える声で小さく呟けば、二人はすぐ魔物に武器を向ける。

「まずはあの魔物を倒さないと!」
「ったく、しょーがないわね…ナマエ!」
「はい!」

落とした杖を広い、握りしめる。
逸る衝動を無理やり押さえ付けて、ケージの中のジョアンさんに叫んだ。

「助けます!」


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