アンジュさんにより毎朝医務室に通い診てもらうことを命じられたわたしは、あれから毎朝必ず、医務室に通っている。
おかげで健康だけが取り柄で学校の保健室にすら数えるほどしか行ったことがないわたしが、医務室の常連という称号を手に入れてしまった。
全く嬉しくない。

「ナマエ、アンジュが用があるからホールに来てほしいって言ってたよ」
「分かりました。ありがとうございます、コハクさん」
「ううん。それじゃあ、またね!」

わざわざ医務室まで伝言を持って来てくれたコハクさんに手を振り返し、アニーさんを窺うと笑顔を返される。いつも通り異常なしと書かれた診断書を手にホールに向かえば、見慣れない姿を見つけた。
恐る恐るアンジュさんに声をかけると、知らない二人が振り返る。思わずびくつくわたしに、アンジュさんが優しく手招きしてくれた。

「その様子じゃ、今日も大丈夫だったみたいね」
「全然大丈夫でしたよ。診断書、見ますか?」
「そうね、念のため」

アンジュさんに診断書を渡し、知らない人達に会釈をする。
紫色の羽織りを着た壮年の男の人と、刺激的な格好をした女の人だった。年上の男の人はクラトスさんとかユージーンさんとかで慣れたと思っていたけれど、やっぱり少し苦手だ。そして女の人の方は色気漂う刺激的な格好のせいで全く見ることが出来ない。ナナリーさんの刺激的な格好だけど健康的な色気、に慣れてしまったからだろうか。

「うん、今日も特に異常はなかったのね」
「もう大分時間も経ってますし、毎朝診てもらわなくても大丈夫だと思うんですけど…」
「駄目よ。少なくとも、あの赤い煙が何なのかが分かるまでは毎朝診てもらいます」

アンジュさんの厳しい声に杖を抱きしめ、ため息を吐いた。正直に言うと毎朝いつもより早起きしなきゃいけないのが辛いし、同じくアニーさんも早起きさせていることが心苦しいのだ。
アンジュさんは診断書を仕舞うと、わたしの知らない二人に向き直る。

「紹介するわ。ナマエ・ミョウジ、彼女にあなた達の教育係をしてもらうつもりよ」
「ジュディスよ。ここにはつい最近お世話になり始めたばかりなの。よろしく、ナマエ」
「俺様はレイヴン。それにしても、ナマエちゃんみたいな可愛い教育係でおっさん助かったわー!野郎の世話にはなりたくなかったし」
「え、はっ、ちょ、アンジュさん!?」

混乱したまま慌ててアンジュさんに説明を求めれば、アンジュさんはいつものように優しく微笑み返した。
ようやく理解したけど、彼女の優しく柔らかな笑顔には、何らかの含みがあることが多い。現に、今もそう。

「もう立派な一人前なんだから、教育係くらい出来るでしょう?」
「む、無理です!」
「大丈夫よ。彼らは元々違うギルドで働いていたから戦えるし、アドリビトムの仕事の仕方や船内案内なんかをしてくれるだけで良いから」

一応形だけ試験はするから、それまでにはちゃんと教えておいてね。
アンジュさんは微笑みながらそう言って、わたし達をホールから放り出した。
途方に暮れるわたしの肩を、二人が優しく叩いてくれた。

「そこまで難しく考えないで。初めての教育係は確かに緊張するでしょうけど、私達はギルドでの生活には慣れてるの」
「そうそう。おっさんもジュディスちゃんも、ナマエちゃんに迷惑かけたりしないわよ?」
「…す、すみません…。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」

このギルドではわたしの方が先輩かもしれないけど、この二人の方がギルドの人間としては先輩なのだろう。
励ますようにかけられた二人の言葉に情けなくなりつつ、うなだれるように頭を下げた。


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