ジュディスさんとレイヴンさんは、元々はユーリさんと同じギルドに所属していたそうだ。
しかしユーリさんがエステルさん誘拐の容疑者として指名手配犯となってしまい、ギルドの方にも国の調査が入った。
結果として誘拐の手引きをした二人も危うくなってしまったので、そのギルドのボスに言われるまま国を出て、ユーリさんが働いているという噂を聞き、この船まで来たらしい。
前々からユーリさんがありもしない罪で指名手配になっていることは釈然としていない。当の本人は、国はそういうものだと軽く言っているけど。

「はい、二人共試験合格おめでとう」
「あー…おっさん、さすがに疲れたわ」
「そうね。私も少し疲れてしまったわ…」
「今日はもう休んでいいわよ。ただし、明日からはちゃんと働くこと」
「はーい。そんじゃナマエちゃん、これからは仲間としてよろしくね」
「色々と教えてくれてありがとう。これからもよろしくお願いするわ」
「はい!」

二人は無事に試験を合格した。元々他のギルドで働いていたから飲み込みは早かったし、わたしの時みたいにルミナシアの常識や戦い方から始めたわけではない。カノンノは大分苦労しただろうなと、今更になって改めて感謝したくなった。
ジュディスさんと握手を交わし、おっさんの胸に飛び込んでおいでーと腕を広げたレイヴンさんにわたしが固まっている内に、レイヴンさんはジュディスさんに引きずられて行った。
最後の最後まで相変わらずなレイヴンさんに苦笑をすれば、アンジュさんも釣られるように笑う。

「ナマエも初めての教育係、お疲れ様」
「わたしが教育係なはずなのに、逆に二人に色々教えてもらっちゃいましたよ。教育係失格です」
「最初は誰だってそんな感じよ。でも、あの二人だからこそ気負わずにいれたでしょう?」

確かにそうだったと思い出して笑うと、アンジュさんが広げていた書類を片付け始める。
全てを片付け終わると、アンジュさんは腰を上げた。

「ナマエ、あなたも来なさい。私が手伝いを頼んだ友達が、部屋で待っているの」
「新しい仲間ですか?」
「ええ、彼も腕の立つ剣士よ。手紙で赤い煙の情報収集も頼んでおいたから、来るでしょう?」

新しい仲間になる人なら挨拶したい。それにその人が赤い煙に関しての情報を集めてきているかもしれない。アンジュさんの言葉に頷き、その後を付いて行った。





「ああン?誰だァ、コイツ」

ただの女子高生です。
アンジュさんに続きルカさん達の部屋に入ってすぐ、緑色の髪の男の子に鋭く睨まれる。
思わず驚いて体を震わせたわたしに気付いたルカさんが、慌てて男の子とわたしの間に入った。

「ちょ、スパーダったらもう!彼女はこのギルドの仲間だよ」
「おー、そうか。ってかビビらすつもりはさらさら無かったんだけどな」
「ご、ごめんなさい…」

ルカさんの肩を越え、男の子が覗き込んでくる。その視線を避けるようにルカさんを盾に縮こまれば、その唇がゆっくりと釣り上がっていった。
わたしよりも、わたしが盾にしたルカさんの方が青い顔をしている。

「何だよコイツ、楽しいじゃねえか」
「スパーダ君、ナマエは女の子なんだからいじめちゃ駄目よ」

今まで静観していたアンジュさんからそう言われて、男の子は適当な返事をした。ひらひらとアンジュさんに手を振って、未だルカさんの背中から自分を窺っていたわたしを覗き込んだ。

「俺はスパーダ、スパーダ・ベルフォルマ。こいつらのダチだ、よろしくな」
「わ、わたしはナマエ・ミョウジです。アドリビトムの一員で、その、よろしくお願いします」

相手が挨拶してくれているのに、ルカさんの背中に隠れたままは失礼だ。背中から出て頭を下げれば、見下ろされて眺められる。まるで観察されているような視線は居心地が悪く、けれど怖くて顔を上げられなかった。
ユーリさんなんかも大分柄が悪いけど、あの人はもう成人しているからかそれなりに落ちついているし、時々、本当に時々は頼りになる。からかわれていじめられてばっかりだけど。
ルカさんとイリアさんの友達なら悪い人じゃないんだろうけど、怖いものは怖い。

「ところでスパーダ君。手紙にも書いておいたけど、情報は仕入れてくれた?」
「あー、赤い煙ってやつか?アレ、割と知れ渡ってるみたいだな」
「な、何か知ってるんですか!?」
「知ってるってか、聞いた。つーか、食いつきが良いな、お前」

勢い良く詰め寄ったわたしに、スパーダさんは驚いたような顔をした。
怖いなんて考えは頭から吹き飛び、話の続きが聞きたくてじっと強く見つめていれば、気まずそうにわたしから目を逸らしつつ、口を開いた。

「色々話は聞いたが…。気になんのは、見る者によってその煙の姿が違うらしいってことだ」
「…姿が、違う?」
「煙とか靄とか、そんな不定形なものでしょ?」
「ソイツの存在が分かった頃は、煙だったらしいな。けど今は、花や虫、魚、色んな姿で現れるらしいぜ」

わたしが出会った赤い煙は、確かに煙だった。
それがこの短期間で姿を変えて人間の前に現れている。言い表しようのない不安に駆られ、俯き口を閉ざす。そんなわたしの代わりに、ルカさんが口を開いた。

「…まるで、進化しているみたいだね」

背中を這う不気味な予感に、再び胸が騒ぎ出す。

「変わってんのは街の人もだ。病気を治すから、いつの間にか願いを叶える、って話になってんだぜ」
「願いを叶えるって…。赤い煙が…?」
「…それは、もはや…。それは、病気を治すなんてものではない…」

自分に言い聞かせるように厳しい顔で言ったアンジュさんが、自分を抱きしめるように腕を摩る。
聞けば聞くほど、不気味な話だ。
意志を持ち、姿を変え、進化をする赤い煙。
少しずつ、人間に近付いていっているような気がした。


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