ユージーンさんとティトレイさんはヘーゼル村の住人で、あの依頼の時にヴェイグさんと落ち合う予定だったのがこの二人らしい。
二人はコンフェイト大森林の異変をヴェイグさん達に伝えようと村を出たそうで、それなら詳しい話は船で聞こうと、わたし達は二人と共にバンエルティア号に戻った。

「星晶が採掘されて、あの森周辺の村々にマナの恵みはなくなった。ああいった生物の変化は、星晶採掘が終盤に差し掛かった頃から始まった」

依頼の報告を終え、ユージーンさんに詳しい話を聞くというアンジュさんとエステルさんに同行させてもらった。わたしもあの森の変化は気になって仕方ないのだ。

「作物は食えないものになっちまって、狩る動物も同じだ。何て言やあいい…、こう、何だ、肉がねえんだよ。生き物って感じじゃねえ」

ティトレイさんが身振り手振りを加えて説明してくれた中には、果ては仕留めた先から溶けるような生物もいたらしい。
想像するだけで背中が冷えていくようだ。そんなの、生き物じゃない。

「くそっ!村のみんなはどうやって生活してきゃあ良いんだよ!」

ウリズン帝国、そして駐在していたサレは、ヘーゼル村から星晶を搾取し尽くしたら、早々に村を後にしたらしい。
こんな形でヘーゼル村が解放されるとは思っていなかったけれど、こんな状況じゃ素直に喜べやしない。
苛立ちを隠せないティトレイさんに、アンジュさんはいつものように優しく微笑みかけた。

「じゃあ、ここで働かない?」





そんなわけで、ユージーンさんとティトレイさんは今までのヴェイグさん達と同じように、アドリビトムで働きつつ物資を集め、それをヘーゼル村に送ることにした。
生物変化に関しては、星晶採掘が終了した土地でなるというのなら、まずその場所を調べなくてはならない。今は各地から情報を集めるしかないと残念そうにエステルさんが言っていた。

「なあ、もしかしてナマエもサレとやりあったのか?」
「や、やりあったかどうかは微妙ですが…サレとは、まあ、ちょっと…」
「ということは、サレが呟いてたナマエってのはやっぱりお前か!」

ティトレイさんは納得がいったように手を叩き、何度も頷く。
サレという名前にはいやな思い出しかない。微妙な気持ちのままティトレイさんを眺めていれば、後ろから軽く頭を小突かれる。

「こーら、何立ち止まってんだ」
「チェスターさん」
「まだ狩り終わってねえんだぞ。早くしねえと日が暮れちまう」

ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられるも、悪い気はしない。チェスターさんは自分が乱したわたしの髪を丁寧に直し、満足したように笑った。
チェスター・バークライトさんは、少し前にアドリビトムに加入したクレスさん達と同じ村育ちの猟師さんだ。彼が来るのが遅いと心配したクレスさんと共にコンフェイト大森林まで迎えに行ってから、何だかんだとすごく構ってくれる。何でもチェスターさんには妹さんがいるらしく、遠くにいる妹さんとわたしを重ねているらしい。
何にせよ、可愛がられるのは嬉しい。昨日も夕食のデザートをくれたし、こうしてティトレイさんと一緒に狩りに付き合ってくれる。
というか、わたしが狩り要員として認識されているのはどうにかしてほしい。いや別に狩りがいやなわけじゃないけど、リッドさん、チェスターさんという本職の猟師さんがいるのに。

「それで、サレがどうしたんだ?」
「聞いてたんですか?」
「あいつの悪名くらいなら俺も知ってるしな」

正直に言ってこれ以上サレの話題を続けたくなかったけれど、ティトレイさんが言っていたことも気になる。
興味半分、恐怖半分といった気持ちでティトレイさんを見れば、緑色の髪をかきつつ話し始める。

「少し前なんだけど、サレの野郎が酷い怪我して村に戻ったんだ。そん時はまたヴェイグとやりあったもんだと思ってたんだけど、どうも違うらしくてな」

村に戻ってからもずっと呟いていたらしい。ナマエ、と。
忘れかけていたあの時の恐怖を思い出して背筋を震わせたわたしに、チェスターさんの険しい顔が向く。

「サレの言っていたナマエは、お前で間違いないんだな?」
「…は、はい」
「あいつ、初めて自分に傷を付けたヴェイグにも妙に執着してたけど…。この分じゃ、ナマエにもって可能性が高いな」

恨まれることも、憎まれることも、覚悟していたつもりだった。つもり、だった。
込み上げてきた吐き気のようなものに口元を押さえると、チェスターさんが優しく背中を撫でてくれた。

「サレみたいな奴のことなんて気にすんなよ」
「で、でも…」
「そうだぜー。もしサレがナマエに何かしようとしたら、俺が守ってやるからな!」
「馬鹿、ナマエを守るのは俺だ!」
「そんじゃ、二人で守るか!これでナマエも安心だろ?」

太陽のように眩しい笑顔でわたしの背中を叩いたティトレイさんと、まだ納得していない顔をしたチェスターさん。
さっきまでの気分の悪さはすっかり消え、代わりに込み上げてきたのは、嬉しさと安心感。
自然と緩む頬に逆らわずに、へにゃりと情けなく笑った。

「…何だか、お兄ちゃんが二人出来た気分です」


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