「ここも随分、動物が減ったなあ…」

狩りにはちょうどいい森だったのに。そうごちるリッドさんに釣られて見渡せば、そういえば何だか前に来た時よりほんの少しだけど木々は元気をなくし、鳥の声が減ったような気がする。

「またナマエと狩りがしたかったんだけどな」

独り言のように呟かれたリッドさんの一言に、大袈裟なまでに反応してしまう自分が憎い。
何だかまるで、デートみたいな。いや、狩りデートってどうなのって感じだけど。そもそもリッドさんにそんな意図はないし。リッドさんはよくわたしを構ってくれるけどそれはアドリビトムの先輩として、だし。

「え、ええと…今度はまた違う場所へ狩りに行きましょうよ」
「そうだな。狩りが出来そうな森、探すか」
「おいしい料理、期待してます」
「今度は食い過ぎない程度にしとけよ」

からかうように言われた言葉に苦笑を返す。
少し先でエステルさんが手を振っている。入口付近で立ち止まってしまったわたし達に首を傾げていた。エステルさんに手を振り返し、少し足を早める。
木々の奥で揺らめく赤い煙には、気付かずに。





エステルさんはガルバンゾ国が保有しているコンフェイト大森林の星晶採掘場、すでに星晶を採り尽くされて跡地となっているそこで噂されている異常現象を調べたくて、城を飛び出したそうだ。
ガルバンゾ国のギルドに所属していたユーリさんを護衛に雇い、国から兵器の開発を要請されていたリタさんと共に。

「バンエルティア号でお世話になっている以上、わたしもアドリビトムの一員です。よろしくお願いしますね、ナマエ」
「よ、よろしくお願い、します…」

王女様がギルドに加入するって、どうなの。
笑顔で差し出された手を苦笑を通り越して引き攣った笑みを浮かべながら握る。お、恐れ多い。
エステルさん、ユーリさん、リタさんの三人は、どうやらアドリビトムの一員として働くことにしたらしい。わたしが絶対安静と言われ医務室に閉じ込められている間に、アンジュさんと交渉したそうだ。
三人それぞれ国に戻れない事情があり、アンジュさんとしては足りない人手を補うためにも利害が一致した。というより、アドリビトムは貧しい人や、困っている人の味方だ。大国の王女様でありながら、噂の真相を確かめようと城を飛び出したエステルさんを放ってはおけないのだろう。

「ナマエ、依頼を受けてくれてありがとうございます」
「え、いや、…その、わたしなんかで良かったんですか?」
「ナマエなんか、じゃありません!ナマエが良いって、わたしがアンジュに我儘を言ったんです」

正式に一人前としてアドリビトムに加入し、一番最初の依頼は何とエステルさんからのご指名で、星晶採掘跡地までの護衛だった。
調査をするフィリアさんとエステルさん、そして護衛に立候補してくれたリッドさんと、わたし。そんなメンバーで数日ぶりに、コンフェイト大森林まで来ていた。
どうしてエステルさんがわたしを指名してくれたのかわからにいけれど、一人前になってから初めての仕事だ。前みたいに失敗はしたくない。

「…頑張らなきゃ」
「ナマエ?何か言いましたか?」
「な、何でもありませんよー」
「おーい、今度はお前らが置いて行かれるぞー」





道を塞いでいたデカオタを何とか退け、サレから逃れるためにユーリさんが隠した道を進む。
木々の隙間から漏れた光が、白く輝くその場所を照らす。鬱蒼とした森が明け、幻想的なその光景に呆然と見惚れる。

「ここが、採掘跡地ですね。今は封鎖されているようですが」

見たこともない形の花が咲いていた。白く、まるで宝石のように輝く花弁に触れれば、触れた先から脆く壊れていく。
砂のように霧散していく花を眺めた。

「おいナマエ、どうしたんだ?」
「…え、や、綺麗だなあって、思って」
「そうか?俺にはやばそうな植物にしか見えないけどな」

リッドさんはそう言ってから、居心地の悪そうに肩を竦めた。わたしの手の中に残った花の欠片を見たフィリアさんが、眉をひそめる。

「一部、無機物化しています。…もはや、植物と呼んでいいのかわかりません」

地球でもルミナシアでも見たこともない植物達。白くひび割れ地面。光を反射して輝くその光景は確かに美しいが、ここに生命の息吹は感じられない。無機物と言ったフィリアさんの言葉の意味をようやく理解し、再び花に触れる。

「…お前達、アドリビトムか」

どこかから威圧感のある低い声が聞こえ、震えた指が花に触れて崩れ霧散していく。
反射的に杖を構えれば、茂みを掻き分けて、黒い人影が現れた。その姿を見て、呆然と呟く。

「………豹?」
「違う、ガジュマだ」

きっぱりと否定された。
助けを求めるように頭が良い人達を見れば、苦笑を返される。
その後、フィリアさんとエステルさんの丁寧な説明のおかげでガジュマという種族を理解したわたしが土下座をする勢いで謝り倒したのは言うまでもない。


menu

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -