どうやら王女様御一行はバンエルティア号に身を隠すらしい。ちなみに女の子の方はモルディオさん、男の人はローウェルさんと言うそうだ。
そしてついでにわたしが血まみれで船に戻ったことで一騒動起きたけど、あえて触れないでおく。

「とにもかくにも、お疲れ様。ヘーゼル村に物資を届けられなくて、残念だったね…」

アンジュさんの残念そうな声に、顔を伏せる。
ローウェルさんの、華奢なように見えて意外としっかりとした広くて大きい、背中で。

「…あの、ところでローウェルさん」
「ん?何だ?」
「もう船なんで下ろしてください」
「報告が終わったら医務室なんだろ?そこまでは付き合うさ」
「いや、勘弁してください」
「遠慮するなって」
「してませんって」

何なんだ、一体何なんだこの人。
王女様とモルディオさんは疲れているだろうからと案内された部屋で休んでいるのに、なぜかローウェルさんだけはわたしを背負ったままホールに残っている。
船に戻る間に散々からかわれ続けたからか、わたしの中にはもうすっかりこの人への苦手意識が植え付けられていた。
出来ることなら早く離れたい。一刻も早くこの人のいないところで、この心の傷を癒したい。

「ナマエ、お世話になっておきなさい。王女様の件での借りを返してもらうつもりで」
「で、でもわたし、何もしてないです」

何も、出来ないです。
ヘーゼル村の人達に物資は届けられなかったし、王女様を助けることだって出来なかった。
役に立つどころか、ただの足手まとい。サレだってそう言っていた。

「…ところでナマエ、あなたの試験なんだけど」
「…はい…」
「依頼には失敗しちゃったけど、合格ってことにするわ」
「…はい…、……え?」

当然のように不合格という言葉を覚悟していたわたしは、驚いて顔を上げた。アンジュさんはそんなわたしに笑いかける。

「ヴェイグ君もシング君もミントも、ナマエを合格させてやってくれって言っていたの。あなたは確かに何も出来なかったかもしれないけれど、これが、あなたが何かをしようと努力した結果よ」

おめでとう。アンジュさんの笑顔は、滲んで歪み見えなくなった。





「…服、洗濯します」
「そりゃ助かる。背中が濡れたままで気持ち悪いんだ」

ローウェルさんに背負われたまま、バンエルティア号内を歩く。もちろんこの人に医務室の場所がわかるわけがないので、案内はわたしだ。
小さく鼻を鳴らす。努力だけじゃ駄目だ。もっともっと強くなって、守るんだ。やっと手に入れた居場所を、このルミナシアの優しい人達を。

「良かったな」
「…ありがとうございます、ローウェルさん」
「何か痒いな、その呼び方」
「ユーリさん」
「そっちの方がいい」

ゆらり、ゆらり。
まるで波に揺られているよう。遠くから聞こえるアニーさんの声に小さく手を振って、眠りに沈んでいった。


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