勇んで中央に聳える塔へ向かったわたし達だが、塔へ繋がる道は不思議な光の壁で塞がれていた。どうやらこの壁を壊すにはエラン・ヴィタールの各所にある緑色のクリスタルを破壊しなければならないらしく、わたし達は思わぬ足止めに気を逸らせながら、それでも着実に一つずつクリスタルを破壊して進んだ。
しかし、どうやら今回はそう簡単には破壊出来ないようだ。すぐにでも魔術を唱えられるようにと構えた杖越しに彼らを見つめる。細く、儚く、華奢で繊細な身体。辛うじてヒトに似た形をしているも、その淡い光沢を纏う皮膚は明らかに作り物めいていて。――はっきりと言ってしまえば、石造りの骨格標本のよう。
ニアタ、囁くようにそう呼べば、すぐ側の彼はついと頷いた。何も言われなくてもわかっていた。彼らもまたこの世界の住人。今はわたしの同胞と言っても差し支えのない、紛うことなきジルディアの民。彼らもまた、わたしと同じラザリスのこども。
いつかの慈しみの綻ぶ微笑みを思い出しては音を立てて左目が軋む。彼らはいつでも鞘を投げ捨てるよう油断なく目を光らせているユーリさんでも、うなだれるような仕草をしたニアタでも、こくりと喉を鳴らしわたしをその背に庇ってくれたカノンノでもなく。虚ろな眼窩からどこまでも真っ直ぐに、無感情に、わたしを見つめていた。

「ジルディアの…ラザリスの子ね。逃げられそうにない。視線を外せば、やられる…」
「この場からは逃れられんな…。勝つしかあるまいよ」

ユーリさんが踵を鳴らす。アスベルさんが剣の柄に手をかけ、スパーダさんは帽子を深く被り直し、リオンさんがマントを翻す。それとほぼ同時に彼らも、ラザリスのこども達もそれぞれ武器を構えた。正に一触即発と言った雰囲気でありながら、しかし、どちらもそれ以上動くことはなく。
最後に身の丈ほどある大剣を構えたカノンノがわたしを振り返り、小さく名前を呼んだ。それにはっとしてようやくわたしは気付く。いつの間にかわたしは、構えていたはずの杖をきつく胸に抱きしめていたのだ。
戦いたくない。そんな想いが躊躇いを生む。姿形が異なろうと彼らもまたわたしと同じ命であり、どちらが勝とうときっとあの子を泣かせてしまうだろう。

「悲しいかな。まだお互い、共に生きることが出来ない相容れぬもの…。あの命、今はそなたの手で預かるのだ」

ニアタの言葉が心臓を揺さ振る。戦うしかないと、彼はそう言っているのだ。それがどれだけ悲しいことなのかわかっていてニアタは言っているのだろう。そう思えば彼の無機質な声ですら揺れているような気がして、わたしは再びきつく杖を握りしめる。
今はまだ共に生きられない。だから今は、せめて、わたしの手で。
振り切るように杖を構える。カノンノがいっそ痛々しく見えるほど優しい微笑みで、わたしに言った。

「行こう、ナマエ。大丈夫、きっと勝てる!」


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